台湾QBit、ロボットの「小脳」搭載SoCとAI統合ドローンチップで未来を加速

ロボットの「小脳」を搭載したSoC「QB88XXシリーズ」

QBitが発表した「QB88XXシリーズ」は、20自由度を超えるような複雑なロボットハンドの制御を可能にするSoC(System on Chip:複数の機能を1つの半導体チップにまとめたもの)です。これは、ロボットの精密な動きを司る人間の「小脳」の働きをモデルにしたCMAC(小脳モデル関節制御器)アーキテクチャに基づいて設計されています。

このチップの最大の特徴は、多関節制御に必要な機能を1つのチップに集約した点です。これにより、システム全体のコストと消費電力を大幅に削減できます。具体的には、Arm Cortex-A78クアッドコアプロセッサとNPU(Neural Processing Unit:AI処理に特化した半導体)が脳からの指令を実行し、Arm Cortex-M7、TGEN、およびもう一つのNPUがモーターのサーボ制御(正確な位置や速度を保つための制御)を行います。最大32台のモーターとAIによるサーボチューニングに対応し、ロボットアームや産業用オートメーションにおける高度な制御を実現します。

この技術が実用化されれば、より小型で高性能なロボットアームや産業用ロボットが実現し、工場での生産効率向上や、人手では難しい精密作業の自動化に大きく貢献することでしょう。

ドローン専用チップの進化:AIと飛行制御の一体化

ドローン事業において、QBitは2段階の戦略を進めています。

フェーズ1:QB77XXによるエントリーレベル市場への参入(2026年~2028年)

まず2026年から2028年にかけて、QBitは「QB77XX」チップでエントリーレベル市場に参入します。このチップは、リアルタイムの飛行制御を実現するためのTGENとCortex-M33を搭載しており、ドローンの頭脳であるミッションコンピュータとフライトコントローラ(飛行を制御する装置)の基板数を減らすことを目指しています。これにより、ドローンの軽量化や製造コストの削減が期待されます。

QBitはすでに「QB77XX」を用いた単一物体追跡ソリューションのデモンストレーションを実施しており、視覚的な遮蔽が発生しても、相対速度最大60km/hで飛行する物体を10~15分間追跡できることを示しました。さらに、2026年第4四半期には、複数の物体を同時に追跡する機能が披露される予定です。

フェーズ2:QB88XXによる完全統合型ドローン専用SoC(2029年以降)

2029年以降には、より高度なドローン専用の「QB88XX SoC」が投入される計画です。このチップでは、飛行制御とミッションコンピューティングが単一チップに完全に統合されます。さらに、オプティカルフロー制御(カメラ画像から物体の動きを検出し、自己位置を推定する技術)やターゲット追跡機能が組み込まれる予定です。

これにより、ドローンはより自律的に飛行し、複雑な環境下での精密な作業や、特定のターゲットを正確に追跡するミッションを遂行できるようになるでしょう。物流、インフラ点検、災害救助など、多岐にわたる分野でのドローンの活用が加速することが期待されます。

サイバーセキュリティへの取り組み

QBitは、ロボットやドローンの安全な運用にも注力しています。同社のQB7シリーズは、2025年に米国NISTのCAVP認証(暗号アルゴリズムの検証プログラム)において、ポスト量子暗号(PQC:量子コンピュータでも破られにくいとされる次世代の暗号技術)のML-DSAアルゴリズムを取得しています。これらのドローンソリューションには、PQCによるセキュアブート機能(起動時にファームウェアの改ざんがないかを確認する機能)が組み込まれており、デバイス認証とファームウェア保護を通じて、サイバー攻撃からドローンを守る強固なセキュリティを提供します。

まとめ

QBit Semiconductorの発表は、ロボットとドローンの未来が、より高度な知能と自律性を持つ方向へと進化していることを示しています。複雑な動きを精密に制御するロボットの「小脳」チップや、AIと飛行制御が一体となったドローン専用チップは、産業界から私たちの日常生活に至るまで、様々な分野で新たな可能性を切り開くことになるでしょう。これらの技術が実用化されることで、私たちの社会はさらに便利で安全なものになっていくはずです。