NTT、光で生まれた「熱い」電荷を冷める前に取り出す光電変換を実証 黒リン光検出器が室温・ゼロバイアスで260GHz応答

NTT、光で生まれた「熱い」電荷を冷める前に取り出す光電変換を実証 黒リン光検出器が室温・ゼロバイアスで260GHz応答

NTT株式会社は、二次元半導体の黒リンを使った光検出器で新しい光電変換を実証したと発表しました。光を吸収した直後のエネルギーの高い電荷「ホットキャリア」を、熱としてエネルギーを失う前に電極へ取り出すという方式です。室温・ゼロバイアスの条件で、260GHzという非常に高速な応答を確認しています。研究成果は、2026年5月13日に英国科学誌Nature Communicationsにオンラインで掲載されました。また、2026年11月18日~25日に開催されるNTT R&D FORUM 2026で展示される予定です。

図2:オンチップTHzエレクトロニクスによる超高速光電流測定(a)ポンプ光で黒リンを励起し、伝送線路を伝わる光電流を検出用LT-GaAs光伝導スイッチで検出。         (b)黒リン部分の拡大図。ゲート電圧(VGate)により黒リンのキャリア極性と密度を制御できる。
図2:オンチップTHzエレクトロニクスによる超高速光電流測定(a)ポンプ光で黒リンを励起し、伝送線路を伝わる光電流を検出用LT-GaAs光伝導スイッチで検出。         (b)黒リン部分の拡大図。ゲート電圧(VGate)により黒リンのキャリア極性と密度を制御できる。

光のエネルギーの一部は「熱」として失われてきた

光信号を電気信号に変える光検出器は、情報通信やイメージング、各種センサーを支える重要なデバイスです。一般的な半導体では、光を吸収して生まれた電子と正孔は、エネルギーの一部を熱として失います。そして、エネルギー的に安定な状態へ落ち着いてから電極へ取り出されます。そのため、入射光が持つエネルギーの一部は電気信号として使われていません。

光励起直後のホットキャリアを冷却前に電極から取り出せれば、従来の光電変換が持つ効率限界を超える可能性があります。寿命の短さを反映した高速応答も期待できます。しかし、ホットキャリアは数百フェムト秒から数ピコ秒で冷却されるため、その電流を計測するのは困難でした。超高速光分光によって存在自体は明らかにされてきたものの、デバイス動作の本質である「電極への移動」と「電流としての取り出し」は直接測定できていませんでした。

図3:ゼロバイアス光電流の超高速ダイナミクス(a)超高速光電流の実時間波形。挿入図に示したフィッティングにより減衰時間が410±30fsであることが判明。    (b)光電流のフーリエスペクトル。動作帯域が260GHzに達していることがわかる。
図3:ゼロバイアス光電流の超高速ダイナミクス(a)超高速光電流の実時間波形。挿入図に示したフィッティングにより減衰時間が410±30fsであることが判明。    (b)光電流のフーリエスペクトル。動作帯域が260GHzに達していることがわかる。

独自のオンチップTHzエレクトロニクスでホットキャリアの電流を直接観測

今回の材料である黒リンは、約0.3eVの狭いバンドギャップと高いキャリア移動度を持つ二次元半導体です。ホットキャリアを利用した光検出に適した材料と考えられてきましたが、実際に電流として取り出せるかは分かっていませんでした。研究チームは、厚さ15~25nmの黒リン薄片をサファイア基板上に配置しました。この薄片を、金属電極とチップ上の伝送線路を介して低温成長GaAs(LT-GaAs)光伝導スイッチへ接続しています。電極付近に波長517nm、パルス幅280fsのポンプ光を当てると光電流が発生し、伝送線路を伝わります。時間差をつけたプローブ光で光伝導スイッチを作動させ、その時間差を掃引することで電流の波形を取得します。この方法で約0.5psという高い時間分解能を実現しました。

試料は、黒リンをアルミナ(Al2O3)絶縁膜で覆い、その上に酸化亜鉛(ZnO)ゲートを形成した構造です。ZnOゲートは高周波に対して実質的に絶縁性を示すため、高周波電流に対するRC遅延を抑えられます。そのうえで、黒リンのキャリア極性と密度を連続的に制御できます。

電極付近を光励起すると、ソース・ドレイン間に電圧をかけないゼロバイアス条件でも、鋭い光電流パルスが現れました。パルスの半値全幅は約1.7psでした。測定系の応答を取り除いて解析した黒リン内部の光電流減衰時間は410±30fsです。これは黒リンで報告されているコールドキャリアの応答より3桁短く、光励起直後のホットキャリアが直接電極へ取り出されていることを示します。さらに、測定した時間波形から260GHzの動作帯域が得られました。動作帯域とは、光検出器が高速に変化する光信号へどの程度追従できるかを示す性能指標で、値が大きいほど短い光信号を電気信号へ変換できます。

図4:キャリア密度制御による高速・低速光電流成分の分離(a)光電流のゲート電圧依存性。早いホットキャリア由来の成分と遅いコールドキャリア由来の成分が観測された。  (b)ホットキャリア及びコールドキャリア成分のゲート電圧依存性
図4:キャリア密度制御による高速・低速光電流成分の分離(a)光電流のゲート電圧依存性。早いホットキャリア由来の成分と遅いコールドキャリア由来の成分が観測された。  (b)ホットキャリア及びコールドキャリア成分のゲート電圧依存性

カギは「超拡散」 従来の光起電力とは異なる仕組み

高速な光電流の起源を探るため、研究チームはZnOゲートで黒リンを正孔伝導(p型)から電子伝導(n型)まで変化させ、光電流の向きを比較しました。その結果、高速成分はキャリア極性にかかわらず同じ向きに流れました。一方、低速成分はゲート電圧によって向きが反転しました。低速成分は、冷却後のキャリアが金属・黒リン界面に生じる電場で分離される、従来の光起電力効果で説明できます。

高速成分は、ホットキャリアの「超拡散」によって最も整合的に説明されます。光励起直後のキャリアは高いエネルギーを持ち、コールドキャリアより最大約1000倍大きな拡散係数で急速に広がることが、超高速光分光により明らかにされています。黒リンでは電子より正孔の移動度が高いため、光励起された正孔が優先的に電極へ到達すると考えられます。その結果、p型かn型かにかかわらず正の光電流が生じるとみられています。超拡散そのものは金属や半導体、ペロブスカイト、二次元物質などで観測されてきました。今回の新規性は、これを光電変換の原理として利用できることを示した点にあります。

図5:新原理のホットキャリア光電変換と従来の光起電力(a)冷却後のキャリアが、金属・黒リン界面の内蔵電場で取り出される従来の光起電力成分(b)光励起直後の高エネルギー正孔が、冷却前に超拡散によって金電極へ到達する新しい成分
図5:新原理のホットキャリア光電変換と従来の光起電力(a)冷却後のキャリアが、金属・黒リン界面の内蔵電場で取り出される従来の光起電力成分(b)光励起直後の高エネルギー正孔が、冷却前に超拡散によって金電極へ到達する新しい成分

高速光通信やイメージング・センシングへの応用をめざす

一般的な光電変換では、光励起キャリアの余分なエネルギーは熱として失われます。今回の成果は、エネルギーを失う前にキャリアを取り出す方法を示したもので、光電変換効率の向上につながる新たな設計指針となります。また、ホットキャリアによる高速成分と冷却後のキャリアによる低速成分が共存しているため、デバイス構造を工夫すれば両者を活用できる可能性があります。

今後は、積層構造や電極材料の探索に加え、導波路・金属ナノ構造などによる光吸収の増強を進めます。これにより、冷却前に電極へ到達するホットキャリアの割合を高める方針です。そのうえで、高速光通信、高効率光検出、イメージング・センシングへの応用をめざします。論文の情報は以下のとおりです。

  • 掲載誌:Nature Communications 17, 6193 (2026)
  • 掲載日:2026年5月13日(オンライン)
  • 論文タイトル:“Sub-picosecond extraction of hot carriers in black phosphorus”
  • 著者:Katsumasa Yoshioka, Taro Wakamura, Takuya Okamoto, and Norio Kumada
  • DOI:10.1038/s41467-026-72892-w

出典:NTT株式会社