月面での暮らしを支える「微生物の力」
月面のように物資の補給が限られる環境では、微生物の働きが生活の土台となると考えられています。鈴木氏は、その具体的な役割を以下のように説明しました。
食料の安定供給と物質循環の要
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発酵技術: 限られた原料から食べられるものを増やし、保存性や風味を生み出す技術です。地球上で味噌や醤油、パンなどが作られるように、月面でも発酵によって多様な食料を生産できる可能性があります。
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微細藻類: 光と二酸化炭素(CO2)から有機物を作り出す、ミドリムシやスピルリナのような微小な藻類です。これは、食料となるタンパク質や脂質の供給源となるだけでなく、CO2を取り込み酸素を生み出す「物質循環」(生態系で物質が循環すること)の担い手にもなります。
これらの微生物や微細藻類の働きを組み合わせることで、地球から物資を「運んでいく」のではなく、月面で「作り、めぐらせる」という自給自足の暮らしが構想できると鈴木氏は語りました。スペースシードホールディングスが「宇宙×発酵」「宇宙×医学」を事業の柱に据えるのは、この構想を実現するためです。


軌道上での培養実験計画:微細藻類を育て、地球へ持ち帰る
この構想を現実のものとするため、スペースシードホールディングスは、宇宙関連事業の一環として、微細藻類を軌道上(地球の周りを回る宇宙空間)で培養し、地球へ持ち帰る超小型の細胞培養モジュールの開発を進めています。これは現在、研究段階の取り組みです。
微小重力(ほとんど重力がなく、浮いているような状態)下では、微細藻類の増殖や成分、遺伝子発現(遺伝子情報が細胞内で実際に機能すること)が地上と異なることが知られています。この変化を確かな知見にするためには、軌道上で得たサンプルを実際に持ち帰り、地上試験との再現性を厳密に検証することが不可欠です。
鈴木氏は、回収・帰還型の軌道上研究プラットフォームを用いた直近の実験計画を紹介し、これが月面での暮らしを構想する上での最初の一歩となると位置づけました。


月面の建築物と菌によるコンポジット材料への応用
トークセッションでは、他の登壇者から、月面での建築物や、菌を用いた「コンポジット材料」(複数の材料を組み合わせて作る複合材料)を現地で生産するという構想も示されました。鈴木氏は、これらの構想にも微細藻類が活用できる可能性に言及しています。
菌を育てて素材にする場合、菌が育つための栄養源(炭素源)を月面でどう賄うかが課題となります。ここで微細藻類が、光と二酸化炭素から有機物を作り出せるため、その栄養源を月面で生み出す供給源になりうるとの見立てです。
食料と資源を別々に運ぶのではなく、光と二酸化炭素を入口に、食べるものと建てるものを同じ物質循環の中でつくる。鈴木氏は、微生物と微細藻類がその接点になりうると述べ、建築・デザインと生物学が交わる領域として今後の連携に期待を示しました。


スペースシードホールディングスについて
スペースシードホールディングスは、「SFをノンフィクションにする」をミッションに、投資活動、研究活動、事業創出を行う宇宙系ディープテックベンチャービルダーです。2040年までに人類が宇宙空間で居住するのに必要な技術を揃えることを目指し、「Fermentation and Longevity Fund」プログラムの運用などを軸に、社会課題を解決する事業の創出に取り組んでいます。同社の詳細については、公式サイトをご覧ください。
また、今回のイベント「重力の異なる暮らしをデザインする展」に関する詳細は、一般社団法人EX Gravityの公式サイトをご参照ください。



