微小重力環境を地上で再現する革新的技術
このプラットフォームの「何がすごいのか」は、これまで困難だった「地上で微小重力を模擬しながら、細胞をリアルタイムで観察し続ける」ことを可能にした点にあります。微小重力とは、宇宙空間のように重力がほとんど働かない状態のこと。この環境を地上で再現する装置が「3Dクリノスタット」です。従来のクリノスタットは、細胞を回転させて重力の影響を平均化するものでしたが、培養中の細胞を顕微鏡で連続的に観察することはできませんでした。
しかし、今回展示された3Dクリノスタットは、顕微鏡モジュールそのものを内蔵し、回転を止めずに細胞の様子を「見続ける」ことができるように進化しました。これにより、細胞に働く重力ベクトルを3次元的に平均化して微小重力環境を模擬しながら、その変化を詳細に追跡できるようになります。
小さなチップで血管の老化を観察
もう一つの主要技術が「オンチップ細胞培養マイクロ流体デバイス」です。これは、数ミリメートルから数センチメートル程度の小さなチップ上で細胞を培養する装置で、微細な流路を使って細胞に栄養を与えたり老廃物を除去したりする「灌流培養」を行うことができます。
このデバイスは、外部のCO₂インキュベータ(炭酸ガス培養器)に頼らずに培養環境を維持できるほか、点字ディスプレイ用アクチュエータ(微小な動きを作り出す部品)をマイクロポンプに応用することで、チップ外に大がかりな配管やポンプを必要とせず、灌流培養を実現しています。これにより、研究室の卓上で手軽に、血管網が形成されてから退縮するまでの全過程を、同一のチップ内で顕微鏡下に追跡することが可能になりました。
老化研究における微小重力の可能性
リジェネソームと芝浦工業大学 二井研究室は、微小重力環境を「血管の変化を加速して見せる環境」と位置づけ、宇宙生物科学と老化研究に応用しています。加齢に伴う全身の変化の起点の一つが血管内皮の機能低下です。宇宙飛行士に生じる心血管系のデコンディショニング(機能低下)は、地上の加齢性変化と多くの共通点があることが知られています。そのため、重力負荷を低減したときに血管がどのように変化するかを観察することは、老化の根本原因を理解する上で重要な手がかりとなります。
これまでの地上での微小重力模擬実験は、単層培養にとどまり、血管のような3次元組織の灌流培養やリアルタイム観察が困難でした。今回のプラットフォームは、この長年の制約を取り除き、老化研究の律速要因(研究の進展を妨げていたボトルネック)を解消すると期待されています。
将来への展望
本プラットフォームは現在研究段階であり、今後、多検体化と自動化を進めるとともに、実際の軌道上実験との比較検証を目指しています。この技術は、軌道上実験の予備検討や地上対照実験の基盤として活用できるだけでなく、微小重力応答の理解を通じた老化研究や再生医療研究への展開が期待されています。
リジェネソームは、「2030年に健康寿命を延伸する老化防止技術を実証する」というビジョンを掲げ、2040年に人類が月面に生活圏を拡大するために必要となる、地上でも応用可能な老化防止技術の確立に取り組んでいます。今回の共同研究は、その目標達成に向けた重要な一歩となるでしょう。
関連リンク
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リジェネソーム株式会社: https://regenesome.com/
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スペースシードホールディングス株式会社: https://ss-hd.co.jp/
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Nishikata K, Nakamura M, Arai Y, Futai N. “An Integrated Pulsation-Free, Backflow-Free Micropump Using the Analog Waveform-Driven Braille Actuator.” Micromachines 13(2):294 (2022). https://doi.org/10.3390/mi13020294
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Nishikata K, Doi K, Kaneoya N, Nakamura M, Futai N. “In Vitro Model of Vascular Remodeling Under Microfluidic Perfusion.” Micromachines 16(1):14 (2025). https://doi.org/10.3390/mi16010014



