NEDO事業が目指す未来
今回採択されたNEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」は、次世代の通信技術である「ポスト5G」に対応する情報通信システムの中核技術を開発し、日本の産業基盤を強化することを目的としています。「ポスト5G」とは、現在の5Gよりもさらに高速で、通信の遅れが極めて少なく(超低遅延)、たくさんの機器が同時に繋がる(多数同時接続)ことができる、未来の通信技術です。これがスマート工場や自動運転など、多岐にわたる産業分野での活用が見込まれています。
この事業の中で、量子コンピュータは計算能力を飛躍的に高める「計算基盤の中核」として位置づけられています。特に、量子コンピュータの具体的な活用事例(ユースケース)を生み出すことが重要な研究開発項目の一つとされています。
詳細については、NEDOのウェブサイトで確認できます。
NEDO「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の実施体制の決定について

なぜ量子コンピュータが材料開発を変えるのか
電池材料、特に電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの利用に不可欠な蓄電池の開発は、日本の製造業の国際競争力を左右する戦略的な分野です。しかし、電池材料の性質を決める「電子の状態」や「化学結合」といったものは、非常に複雑な「量子多体系(たくさんの量子が互いに影響し合うシステム)」という問題です。
従来のコンピュータでは、このような複雑な問題を正確に計算することが難しく、近似的な方法や、研究者の経験と勘に頼った実験が主流でした。これが材料開発の長期化やコスト増大の原因となっています。量子コンピュータは、この量子多体系の問題をより正確にシミュレーションできる可能性を秘めており、材料の劣化のメカニズムを解明したり、全く新しい素材を設計したりするために不可欠な技術として期待されています。
Quemixと東北大学の役割
本実証において、Quemixは量子コンピュータを活用した独自の「量子計算ソルバー(量子コンピュータで特定の計算問題を解くためのソフトウェア)」と「量子コンピュータによる計算実行基盤」の開発を進めます。開発された技術の有効性を評価するため、東北大学と連携し、3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」と呼ばれる、物質のナノスケール(10億分の1メートル)の世界を観察できる世界最高水準の研究施設で得られた高精度な実測データと比較検証を行います。
将来的に、この実証で得られた量子計算ソルバーや量子コンピュータの利用技術は、Quemixが提供するクラウド型材料計算プラットフォーム「Quloud(キュラウド)」に実装される予定です。「Quloud」は、ブラウザ上で高度な材料シミュレーションを行えるサービスで、専門家から初心者まで幅広く利用可能です。これが実現すれば、国内外の企業や研究機関が広く利用できる「次世代材料開発基盤」として社会に貢献することが期待されます。
Quemixによる本件の発表内容については、以下のリンクより確認できます。
Quemix プレスリリース
Quemixについて
Quemixは、株式会社テラスカイのグループ会社で、量子コンピュータのアルゴリズムやソフトウェアの研究開発を行っています。特に、誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)向けのアルゴリズムに注力し、「確率的虚時間発展法(PITE®)」という量子化学計算アルゴリズムを開発し、特許権を取得しています。2030年を目標に、材料計算・シミュレーション領域での量子コンピュータの実用化を目指しています。
Quloud(キュラウド)について
Quloudは、ブラウザから第一原理計算や分子動力学計算など、様々な材料シミュレーションを直感的に実行できるクラウドプラットフォームです。今後は量子アルゴリズムを実装し、量子コンピュータを計算リソースとして活用することで、製造業の材料開発を強力に支援する次世代の基盤となることを目指しています。
NanoTerasu(ナノテラス)について
NanoTerasuは、物質のナノの世界を観察できる世界最高水準の大型研究施設です。電子を光速近くまで加速し、太陽光の約10億倍もの明るさを持つ「放射光」というX線を発生させ、物質を詳細に観察します。この施設は、基礎科学だけでなく、エネルギー、材料、バイオ、食品など幅広い産業分野での科学とイノベーションを支える役割を担っています。
この実証研究はまだ開発段階ですが、量子コンピュータがもたらす革新的な材料開発の未来を切り拓く、重要な一歩となるでしょう。次世代の電池が、私たちの生活や産業をどのように変えていくのか、今後の成果が注目されます。



