Go-Tech事業とは?
Go-Tech事業とは、中小企業庁が実施する国の研究開発支援制度のことです。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった先端技術を活用した研究を対象に、開発から事業化までを一貫して支援し、日本の製造業やサービス業の競争力強化を目指します。採択後も外部有識者による評価が継続的に行われるため、研究開発の進捗と成果の社会実装が確実に進められる点が特徴です。
建設現場が抱えるジレンマ:新人育成の壁
建設業では、1997年の685万人から2024年には約477万人へと就業者数が約30%減少しています。さらに、就業者の36.7%が55歳以上である一方で、29歳以下は11.7%に留まるなど、技能継承は喫緊の課題です。

建設機械オペレーターとして現場で安全に作業を行うためには、単に操作手順を覚えるだけでなく、状況に応じて感覚的に操作・判断する「熟練の技」が求められます。しかし、従来の実機訓練には以下のような制約がありました。
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事故リスク: 誤操作が重大事故につながる恐れがあるため、新人オペレーターに十分な実機経験を積ませにくい。
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指導の属人化: 指導や評価が熟練者の経験や感覚に依存し、改善点や上達度を客観的に把握しにくい。
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訓練の非効率性: 現場条件が毎回異なるため、同じ課題を繰り返し練習することが難しい。
これらの課題を解決し、現場の再現に加え、操作と施工結果から技能を客観的に評価し、その結果を次の訓練へ反映する仕組みが「メタトレ+」で構築されます。
「メタトレ+」のすごい仕組み:4層一体型システム
「メタトレ+」は、安田女子大学、広島市立大学とWANが共同で開発を進める、4つの層が一体となったシステムです。このシステムが、熟練者の技術をデータ化し、効率的な技能継承を実現します。

1. シナリオデータベース層:まるでゲームのように訓練環境をカスタマイズ
この層では、掘削、積込、整形といった基本的な作業を中心に、企業や教育機関の訓練目的に合わせたシナリオを作成できる仕組みを目指します。山岳地帯や市街地などの空間、地形、土質、天候、障害物の配置、作業の難易度など、さまざまな現場条件を自由に組み合わせて、実践に近い訓練環境を仮想空間で作り出すことができます。
2. 物理シミュレーション層:現実そっくりの動きで、失敗しても安全
3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)と物理シミュレーション技術を駆使し、建設機械の動きだけでなく、土の硬さによる掘削抵抗の違い、壁面の崩れ、粘性土のバケットへの付着、掘削後の地形変化など、実際の施工で生じる現象を仮想空間上でリアルに再現します。これにより、新人オペレーターは安全な環境で、まるで本物の現場にいるかのような体験を積むことができます。操作ログ(操作の記録)と地形変化を時系列で取得することで、「どのように操作したか」と「その結果、現場がどう変化したか」を詳細に記録します。
3. AI技能評価層:熟練者の「感覚」を数値化し、どこを改善すべきか明確に
熟練者、初心者、未経験者の訓練データを収集し、AI(人工知能)が技能を客観的に評価します。評価は以下の3つの観点で行われます。
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操作品質: レバー操作の滑らかさ、周囲の状況を見据えた適切な操作順序、急なレバー操作がないかなど。
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安全品質: 機体の傾きや周囲との距離に配慮し、余裕を持って安全な操作ができているか。
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施工品質: 作業時間、掘削量、掘削後の形状が目標どおりか。
このAIは、単に合否を判定するのではなく、熟練者と初心者の違いを複数の指標に分解し、「どこができていて、どこを改善すべきか」を具体的に説明できる評価モデルの構築を目指します。これにより、指導者はより的確なアドバイスを、訓練者は自身の弱点を明確に把握し、効率的に上達することができます。
4. フィードバック層:AIが一人ひとりに最適な「次の一歩」を提案
AIによる評価結果やこれまでの訓練履歴をもとに、一人ひとりの習熟度や課題に合わせた最適な次の訓練シナリオを自動で提案します。苦手な操作を重点的に練習できるなど、個別最適化された訓練を通じて、効率的な技能習得を支援します。
未来への展望:現場で働くAIの実現
本研究開発では、令和8年度から令和10年度までの3年間で、掘削・積込・整形を中心とした300シナリオ以上の整備、「AI技能評価層」に活用する10指標以上の設計、熟練者と初心者を識別するAIモデルの高精度な正答率の達成、そして複数の建設関連企業での実証・導入検証を目指しています。これらは研究開発上の目標値であり、現在提供中の製品性能を示すものではありませんが、その実現が待ち望まれます。
Go-Tech事業で確立されるシステムを土台として、中長期的にはVLM(Vision-Language Model:画像と言語を同時に理解するAIモデル)を活用し、AIが「なぜ危険と判断したのか」「どの操作を改善すべきか」を、映像と数値的な根拠を使って説明する機能への発展が構想されています。
さらに、これらのデータは、将来的に建設機械の遠隔操作など、フィジカルAI(物理世界で動作するAI)への応用も見据えられています。例えば、死角の警告や危険箇所の表示、適切な操作の提案など、作業を支援する技術へ発展させるとともに、人の監視下で、障害物の回避や一部作業の自動化を実現する技術への応用を目指しています。
WANは、人に代わるAIではなく、人の判断や技能を支えるAIの実現を目指し、人がAIの判断理由を確認・説明でき、必要に応じて介入できる仕組みや、現場データを適切に管理できることを重視しています。安全で信頼性の高いAIの開発を通じて、人とAIが協調して活用できる未来を築きます。また、クレーンやフォークリフトなど他の産業機械や教育機関向けの訓練への展開、保守・運用支援などを組み合わせた継続的なサービスへの発展も検討されています。
産学官連携で進める研究開発体制
この革新的な研究開発は、多様な専門性を持つ組織の連携によって進められています。
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WAN: システム全体の設計・開発、3DCG・XR・物理シミュレーション、データ取得基盤の構築・製品化を担当。
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広島市立大学: AI技能評価モデル、操作データ解析の統計的な精度・妥当性検証を担当。
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安田女子大学: 教育効果、技能継承への貢献度、受容性、訓練設計の検証を担当。
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公益財団法人ひろしま産業振興機構: 事業管理、研究進捗管理、事業化支援を担当。
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建設分野のアドバイザー企業: 実際の施工手順、安全基準、現場条件、シナリオの妥当性確認に協力。
令和8年度はシナリオ生成・物理演算・データ取得基盤を構築し、令和9年度に教師データ(AIの機械学習に必要不可欠な、画像や動画などの「例題」と、それが何を指すかを示す「正解」を紐づけたデータ)の整備とAI技能評価モデルの開発、令和10年度に4層一体化システムの実装と、現場導入検証を行う計画です。
現場実証に向けて、ともに進める仲間を募集

WANでは、Go-Tech事業をはじめ、AI、XR(VR、AR、MRといった現実と仮想を融合する技術の総称)、3DCG、Webシステムなど幅広い技術領域で研究開発・製品開発を進めています。新しい技術に挑戦し、社会課題の解決に取り組みたい方を募集しています。
募集職種や採用情報については、こちらからお問い合わせください:
この「メタトレ+」プロジェクトは、建設業界の技能継承という長年の課題に、AIという新たな光を当てるものです。熟練者の技を未来へつなぎ、より安全で効率的な現場を実現する、その一歩に大いに期待が寄せられます。



