ティアフォー、自動運転AIチップ設計をオープンソース化へ:JST事業で「ソフトウェア定義型SoC」開発を推進

ティアフォーが自動運転AIチップ設計をオープンソース化へ

自動運転の「民主化」をビジョンに掲げる株式会社ティアフォーは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が推進する「次世代エッジAI半導体研究開発事業」に参画することを発表しました。

この事業において、ティアフォーは自動運転レベル4(特定の条件下でシステムが全ての運転操作を行う段階)に対応する、ソフトウェア定義型System-on-Chip(SoC)の研究開発を進めます。特に注目すべきは、自動運転AIチップの論理設計と関連ツールチェーンのオープンソース化を目指す点です。これにより、自動運転技術のさらなる進化と社会実装が期待されます。

なぜ自動運転AIチップのオープンソース化が重要なのか

AIの進化は、Graphics Processing Unit(GPU)のような高性能な計算技術によって支えられてきました。しかし、自動運転レベル4のように実際の環境でリアルタイムにAIモデルを動かし続けるためには、電力効率だけでなく、変化への対応力、システムの透明性、そして信頼性を確保するための検証可能性がこれまで以上に求められます。

ティアフォーが目指すのは、これらの課題を解決する「ソフトウェア定義型SoC」です。SoCとは、複数の機能を一つのチップに集積したもので、ソフトウェア定義型とは、ソフトウェアによってその機能や性能を柔軟に変更・最適化できる仕組みを指します。

ティアフォーは、自動運転用オープンソースソフトウェア「Autoware」に対応したAIチップを独自に設計し、その設計資産と、チップを動かすためのツール(コンパイラなど)をオープンソースとして公開します。これは、まるでスマートフォンのOSがオープンであることで、多様なアプリやデバイスが生まれるように、さまざまな半導体メーカーがティアフォーの技術を活用し、自動運転向けSoCの開発を加速できるオープンなエコシステムを築くことを意味します。

AIチップのソフトウェアスタックとハードウェア設計の階層構造を示した図

ソフトウェア定義型SoCがもたらす4つのメリット

今回の取り組みでは、以下の4つの側面から次世代の自動運転AIチップを実現することを目指しています。

  1. 電力効率
    自動運転AIでは、カメラ画像やセンサー情報から認識、そして運転計画までを一貫して処理する大規模なAIモデル(Transformerモデルなど)が使われています。このモデルの計算処理(推論処理)を効率化するため、専用のアーキテクチャ(設計思想)を開発します。
    具体的には、AIモデルの実行に必要なデータをチップ内で効率的に配置し、繰り返し利用することで、外部メモリとのデータ転送や計算制御にかかる電力消費を抑えます。これにより、数ワット級の組み込み機器から数十ワット級の車載Electronic Control Unit(ECU)まで、幅広い用途で電力対性能の向上を目指します。

  2. 適応性
    自動運転AIの技術は日々進化しています。特定のモデルやハードウェアだけに依存した設計では、この変化に対応し続けることが困難です。そこで、AIモデルとAIチップの間に、標準化された中間表現「Tensor Operator Set Architecture(TOSA)」を導入します。
    これにより、PyTorchなどで開発されたAIモデルの計算処理をTOSA形式に変換し、チップ上で実行する仕組みを構築します。AIモデルの構成や計算方法が変わっても、チップ全体を設計し直すことなく、ソフトウェアの更新で対応できるようになり、柔軟な対応が可能になります。

  3. 透明性
    自動運転レベル4のように安全性が極めて重視される分野では、AIモデルだけでなく、それを動かす計算機システムについても、内部の構造や処理過程が理解できることが重要です。ティアフォーは、AIチップの論理設計と、コンパイラなどのツールチェーンをオープンソース化します。
    設計情報を公開することで、半導体メーカーや開発者がチップの内部構造やソフトウェアの動作を確認し、それぞれの車両やAIモデル、性能要件、電力要件に合わせて改良、拡張、再利用できる環境を整備します。これにより、特定の製品や閉じた開発環境に依存せず、自動運転AI技術を継続的に発展させられるエコシステムが築かれるでしょう。

  4. 検証可能性
    AIモデルをチップ上で実行する際には、モデル形式の変換や計算の最適化、数値の丸め処理などが行われます。これらは性能や電力効率を高めるために不可欠ですが、変換過程で生じる数値的な差異が最終結果にどう影響するかを確認する仕組みが必要です。
    本取り組みでは、TOSAを基点に変換過程を明確にし、数学的な手法でシステムが正しく動作することを証明する「形式検証」の技術を導入します。これにより、単に高い処理性能を追求するだけでなく、AIモデルの処理の正当性を検証できる、信頼性の高い自動運転AIの実行環境が確立されると期待されます。

自動運転の未来を切り拓くオープンエコシステム

ティアフォーの代表取締役 執行役員 CEOである加藤真平氏は、この取り組みについて「ソフトウェア定義型かつオープンなAIチップ設計のアプローチを通じて、電力効率、適応性、透明性、そして検証可能性を兼ね備えた新たなプラットフォームの実現を目指す」とコメントしています。特に、処理の正当性を検証できることは、自動運転システムを社会に安全に展開する上で重要な要素であると強調しました。

また、東京大学大学院工学系研究科の川原圭博教授は、この取り組みが「応用研究者自身が『こんな半導体が欲しい』を形にできる設計の民主化そのもの」であると評価し、日本から高付加価値な半導体スタートアップが次々と生まれる未来につながるものと見込んでいます。

この研究開発は、自動運転AI技術の継続的な進化を支え、より安全で持続可能な社会の実現に貢献することを目指すものです。現時点では研究開発段階ですが、将来的に自動運転レベル4の社会実装を大きく加速させる可能性を秘めています。

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