量子時代に企業が備えるべき「次世代データ経営」
AIデータグループ代表の佐々木 隆仁氏は、量子コンピュータ時代の企業競争力を左右するのは、量子コンピュータの導入そのものではなく、量子技術を活用できる「データ」「知財(知的財産)」「セキュリティ」「組織基盤」を事前に整備することだと提言しました。
研究・実験データ、特許、契約、論文、現場知見などが部門ごとに分断された状態(データサイロ)では、量子技術の力を十分に引き出せないと指摘。企業内のリアルデータを整理・関連付けし、AIエージェントが活用できる「組織知能」へ変換する次世代データ経営の重要性を解説しました。
量子コンピュータの実用化を待つのではなく、今から自社データの棚卸しと小規模な量子活用プロジェクトを始めることが、量子時代の競争力につながると強調しています。

量子産業の課題を解決する「AI Quantum Industry Data Platform」
AIデータ株式会社取締役CTOの志田 大輔氏は、量子産業における課題として、研究・実験・特許・市場などのデータが分散し、組織横断で活用しにくい「データサイロ」と属人化を挙げました。
これらの課題を統合的に解決するため、データをAIで解析・知識化し、研究開発から事業化、投資判断までを支援する「AI Quantum Industry Data Platform」の考え方を紹介。架空の製薬企業を題材にしたデモでは、AIエージェントが各専門分野で分析し、AI PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)が全体最適化する様子が披露され、意思決定の高速化と属人化の解消に貢献する可能性が示されました。

AIエージェントが拓く「量子特許分析」の未来
リーガルテック株式会社代表取締役社長の平井 智之氏は、生成AIの進化により特許出願のスピードと件数が急増する中、特許を単なる「技術を守る権利」ではなく、将来の競争領域を先読みし、研究開発投資を回収・再投資するための「戦略資産」として捉える重要性を解説しました。
特に量子分野は技術の専門性が高く、従来の人手による特許分析には多大な時間と専門知識が必要でしたが、AIエージェントが自然文から検索式を生成し、特許検索、技術分類、企業比較、注目特許の抽出までを短時間で実行する「My Tokkyo.Ai」の活用を紹介。量子鍵配送(QKD)を例にしたデモでは、AIが日本企業の技術優位性や次に調査すべき領域まで分析する様子が示されました。

量子技術の社会実装を成功に導くポイント
デロイトトーマツサイバー合同会社マネージングディレクターの松尾 正克氏は、量子技術を研究成果で終わらせず社会実装へつなげるためには、技術開発と並行して法規制、規格、知財、代替技術、投資戦略まで見据える必要があると解説しました。
製品化の段階で法規制違反が判明すると大きな手戻りにつながるため、PL法(製造物責任法)や欧州サイバーレジリエンス法、関連規格などを早期から考慮する重要性を指摘。また、コア技術だけでなく、実際の利用場面で生じる課題を押さえる「周辺特許」の戦略的な取得が、社会実装の成否を左右すると説明しました。

AIと量子が共存する次世代インフラ「AI・量子共通基盤」
株式会社KDDI総合研究所 量子基盤室室長の斉藤 和広氏は、量子コンピュータの現状と産業利用に向けた課題を整理し、KDDI総合研究所が進める「AI・量子共通基盤」について紹介しました。
量子計算は最適化や機械学習などで高速化が期待される一方、現状は専門知識が必要で、用途に応じた計算機の選択や不安定なハードウェアの運用が大きな障壁になっていると指摘。そこで、量子の専門家でなくても適切な計算資源やアプリケーションを利用でき、将来ハードウェアが進化してもアプリケーションを大幅に作り替えずに済む、いわば計算基盤の「TCP/IP」のようなミドルウェア(異なるソフトウェアやハードウェアをつなぐ役割を果たすソフトウェア)を目指していると説明。産業界で手軽に量子計算を活用できる環境の実現を目指します。

量子技術の社会実装を加速する「三位一体戦略」
独立行政法人工業所有権情報・研修館知財戦略エキスパートの戸﨑 善博氏は、量子技術の社会実装を事業・技術・知財の「三位一体戦略」から捉える重要性を解説しました。
特許・論文が急増する量子分野において、実用化には技術開発だけでなく、狙う市場やビジネスモデル、連携パートナーを定め、それを支える知財・契約戦略を設計する必要があると指摘。AIと量子の融合が進み、AIが古典計算と量子計算を最適に使い分けることで、量子計算を業務成果へ変換するエコシステムが形成される可能性を展望しました。

量子コンピュータ時代に備える「Quantum Safe」の最新動向
NTTドコモビジネス株式会社イノベーションセンター主査の森岡 康高氏は、量子コンピュータの進化によって現在の公開鍵暗号(インターネット通信などで広く使われる暗号技術)が解読されるリスクを踏まえ、「Quantum Safe(耐量子安全性)」への移行が企業にとって重要な課題になっていると解説しました。
中心となるPQC(耐量子計算機暗号)への移行は、暗号アルゴリズムの置き換えだけでなく、認証基盤や証明書、業務アプリケーションなど幅広いシステムに影響すると指摘し、各国が2035年を意識した移行を進める中、早期の準備が必要だと説明。SIMカードを活用し、PQCによる鍵交換と軽量な相互認証、暗号通信を実現する実証システムも紹介され、処理能力の限られたエッジデバイス(ネットワークの末端にある機器)でも利用できる仕組みが示されました。

量子技術の国際動向と産学連携の重要性
理化学研究所量子コンピュータ研究センターの井門 孝治氏は、世界的に量子関連の特許・論文が増加し、量子技術が研究段階から社会実装へ移行しつつある現状を説明しました。
日本は量子関連特許で世界でも高いシェアを持つものの、海外ではスタートアップが特許取得を積極的に行う一方、日本では大企業が中心という構造的な違いがあることを指摘。優れた研究成果を事業化につなげるには、研究機関と企業が連携し、技術移転や知財活用、人材交流を進めることが重要だと強調しました。

「Quantum Ready Enterprise」への第一歩
特別セッションでは、量子技術の社会実装を巡り、知財戦略、データ活用、産学連携、量子セキュリティなどがテーマに意見交換が行われました。
将来の事業像や市場を見据えた知財ポートフォリオの構築、企業や研究機関が持つ暗黙知や非公開データを形式知化し安全に活用することの重要性が議論されました。量子コンピュータの進展に伴う暗号解読リスクに対しては、PQCへの移行だけでなく、IoT・ロボットなどのエッジ領域への対応やQKD(量子鍵配送)との組み合わせも重要だと指摘。
これらの議論を通じて、量子技術を「将来の技術」として待つのではなく、データ・知財・セキュリティ・組織の準備を今から進めることが、「Quantum Ready Enterprise」への第一歩であるとの認識が共有されました。

次回のフォーラム開催とAIデータ株式会社について
AIデータ株式会社は、2026年8月20日(木)に「創薬・バイオ」をテーマとした「AIエージェント×AXフォーラム」を開催予定です。
▼詳細・お申し込みはこちら:
https://www.idx.jp/forum/aug/
AIデータ株式会社は、2015年設立の企業データとAIの利活用カンパニーです。データインフラと知財インフラを基盤に、企業や個人のデータ資産を守り、活用する事業を展開しています。クラウドデータ管理や復旧サービス、フォレンジック調査、特許検索・出願支援システム『Tokkyo.Ai』、生成AI『AI孔明TM』によるデータと知財の融合プラットフォームなどを提供し、社会基盤の強化に貢献しています。
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関連リンク
- AIデータ株式会社 ニュース: https://www.aidata.co.jp/news/260814/


