日本の医療用ロボット市場が急成長、2035年には31億ドル超へ
株式会社マーケットリサーチセンターが発表した調査資料によると、日本の医療用ロボット市場は、2026年から2035年にかけて非常に高いペースで成長すると予測されています。具体的には、2025年時点の7億3,325万米ドル(約1,100億円)規模から、年平均成長率(CAGR)15.8%で拡大し、2035年には31億7,935万米ドル(約4,700億円)に達する見通しです。これはわずか10年間で市場規模が4倍以上に膨らむことを意味し、日本の医療機器分野でも特に注目すべき成長領域と言えるでしょう。

なぜ今、医療用ロボットが注目されるのか?
この驚異的な成長の背景には、いくつかの重要な要因があります。
1. 医療現場の自動化と人手不足の解消
日本は世界的に見ても高齢化が急速に進んでおり、医療需要そのものが増え続けています。一方で、医師や看護師、薬剤師、リハビリスタッフといった医療従事者の人手不足は深刻化する一方です。ロボットは、手術支援だけでなく、薬剤の調剤や搬送、リハビリテーションなど、多岐にわたる業務を支援し、医療従事者がより専門性の高い業務に集中できる環境を整えることができます。これは、限られた人材で質の高い医療を提供するための鍵となるでしょう。
2. 低侵襲手術への需要拡大
「低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)」とは、体を切開する範囲を最小限に抑える手術のことです。手術支援ロボットは、医師の手の動きを精密に縮小・補正しながら、腹腔鏡(ふくくうきょう)などを通じて狭い体内空間で手術することを可能にします。これにより、従来の開腹手術と比較して、切開範囲を小さくし、出血量や術後の痛み、入院期間の短縮につながる可能性があります。高齢の患者さんが多い日本では、身体的負担の少ない手術が特に求められています。
3. 日本の技術力と政府の支援
日本は古くから産業用ロボットや精密機械、センサー、制御技術において世界トップクラスの技術力を持っています。この強みが医療ロボットの開発にも活かされています。さらに、政府は「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進しており、医療現場のデジタル化や自動化を積極的に支援しています。このような技術的・政策的な後押しも、市場成長の大きな要因です。
医療ロボットの「すごい」進化:研究から実用化まで
医療用ロボットは、手術支援だけにとどまらず、様々な分野で進化を遂げています。
手術支援ロボット:精密さと負担軽減の両立
代表的なものが「手術支援ロボット」です。Intuitive Surgical社の「da Vinci Surgical System」は世界的に広く普及しており、最近では力覚フィードバック(術者が組織に加えている力を感じる機能)や改善された3D視野を備えた次世代システム「da Vinci 5」が欧州で承認されました。これにより、術者はより正確な操作が可能になり、手術の精度と安全性がさらに向上すると期待されています。
日本国内では、Medicaroid社の「hinotori™手術支援ロボット」が重要な存在です。国産ロボットの普及は、日本の医療現場のニーズに合わせた製品開発を加速させる可能性を秘めています。
遠隔手術:医療格差をなくす可能性
特に注目されるのが「遠隔手術」です。2025年6月には、Medicaroid、NTT Communications、日本外科学会が、hinotori™手術支援ロボットを使い、フランスと神戸を結ぶ遠隔手術デモを成功させました。これは、高速通信ネットワークと手術ロボットを組み合わせることで、術者と患者が離れた場所にいても高度な外科処置を行える可能性を示したものです。
これが実用化されれば、専門医が少ない地方や離島でも、都市部の熟練外科医による手術が受けられるようになり、医療アクセス格差の解消に大きく貢献するでしょう。ただし、通信遅延やサイバーセキュリティ、緊急時の対応など、実用化にはまだ多くの課題があり、継続的な研究と技術開発が不可欠です。
病院・薬局ロボット:現場の効率化を支える縁の下の力持ち
意外かもしれませんが、医療ロボット市場で最も大きなセグメント(約20%の売上シェア)を占めているのが「病院・薬局向けロボットシステム」です。薬剤の調剤、仕分け、搬送、在庫管理といった病院内の日常業務は、多くの人手と時間が必要です。こうした作業をロボットが自動化することで、薬剤師や看護師の負担が軽減され、人的ミスも減らすことができます。また、感染症患者の病室への物資運搬をロボットが行えば、スタッフの感染リスクを低減するといったメリットもあります。
リハビリテーションロボット:高齢者の自立支援に貢献
高齢化が進む日本において、「リハビリテーションロボット」も非常に期待されています。脳卒中や脊髄損傷、整形外科手術後の患者さんに対して、ロボットが歩行や腕の運動を補助することで、繰り返し行う訓練を効率的にサポートします。将来的には、患者さんの状態に合わせてAI(人工知能)がアシスト量を自動調整する、より個別化されたリハビリテーションが実現する可能性も秘めています。
放射線手術ロボット:高精度ながん治療
「放射線手術ロボット」は、腫瘍などの病変部に高精度で放射線を照射するシステムです。患者さんのわずかな動きや呼吸による臓器の移動を追跡しながら照射位置を調整することで、正常な組織への影響を抑えつつ、治療効果を高めることを目指します。低侵襲で身体への負担が少ない治療として、がん患者の多い高齢社会で重要な役割を果たすでしょう。
医療ロボットの未来:AIとの融合と総合プラットフォーム化
今後、医療ロボットは単なる「機械」ではなく、「ロボット+AI+データ分析+教育」という総合的なプラットフォームへと進化していくと考えられます。
AIとの融合が進めば、手術映像から解剖構造を認識したり、危険部位を警告したり、過去の手術データから最適な操作を支援したりすることが可能になるでしょう。現時点では、ロボットは医師の操作を「支援する装置」が中心ですが、将来的には一部の定型作業を半自動化する方向へ進む可能性も秘めています。これは、「医師に代わるロボット」ではなく、「限られた医療人材の能力を拡張するロボット」として、医療の質と効率を向上させることにつながります。
また、ロボット手術で得られる大量のデータ(器具の動き、手術時間、画像、術者の操作など)を分析することで、熟練医と若手医師の操作の違いを可視化し、手術トレーニングの改善にも役立てられるでしょう。
普及への課題と今後の展望
医療ロボットの市場拡大には、コストと人材育成が大きな課題となります。高度な手術ロボットは初期導入費用が高額であり、さらに年間保守費用や専用器具なども必要です。そのため、今後は価格競争や小型化が進み、より多くの病院や施設が導入しやすくなることが期待されます。
また、ロボットを操作できる医師や臨床スタッフの育成も不可欠です。シミュレーターやVR(仮想現実)、遠隔教育などを活用したトレーニング環境の整備が、ロボットの普及を後押しするでしょう。
日本の医療ロボット市場は、高齢化、人手不足、低侵襲化、医療DXという複数の構造的要因が同時に市場を押し上げています。手術、薬剤管理、搬送、リハビリテーションなど、幅広い分野でロボットが医療現場を支え、病院経営と医療提供体制の両方を変える重要な技術基盤になっていくとみられます。
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