日台5大学が連携し、次世代「円偏光発光技術」を開発へ – 新しい情報伝達の未来を拓くCP-OLEDの可能性
日本と台湾の主要な5つの大学が連携し、次世代の円偏光発光技術の開発に取り組む共同プロジェクトが始動しました。このプロジェクトは、公益財団法人日本台湾交流協会の「2026年度共同研究助成事業(自然科学・応用科学分野)」に採択されたもので、将来のディスプレイや通信技術に革新をもたらす可能性を秘めています。
「円偏光」が拓く新たな情報の世界
私たちが普段目にする光は、さまざまな方向に振動していますが、「円偏光(CPL)」という光は、その電場が進行方向に対して右回り、または左回りに回転しながら進む特殊な光です。光の強度や色に加えて、「回転方向」という新たな情報を持つため、次世代のディスプレイ、光通信、情報セキュリティ、立体表示、バイオセンシングなど、幅広い分野での応用が期待されています。
この円偏光を電気エネルギーから直接発生させるのが、「円偏光有機発光ダイオード(CP-OLED)」というデバイスです。これは、電気を流すと有機材料が光る「有機発光ダイオード(OLED)」の一種で、特に円偏光を発する能力を持っています。次世代の高機能発光デバイスとして注目されていますが、実用化にはまだ、高い発光効率と円偏光度を両立させることや、利用できる材料の選択肢を増やすこと、デバイス設計の自由度を高めることなどの課題が残されています。
磁場や電場で光を操る、革新的なアプローチ
今回の共同研究プロジェクトでは、近畿大学、茨城大学、大阪公立大学(日本側)と、国立陽明交通大学、国立中央大学(台湾側)の研究グループが中心となり、このCP-OLEDの基盤技術開発を進めます。特に注目されているのは、従来の技術に頼らない新しい原理の探求です。
具体的には、磁場や電場といった外部からの刺激、あるいは電子が持つ「スピン」(電子が自転しているような性質)や材料の「階層構造」を利用して、円偏光を作り出すことを目指しています。

この研究では、以下の3つの現象に焦点を当てています。
-
磁場誘起円偏光発光(MCPL): 磁場によって円偏光の発光を誘導する技術。
-
電場誘起円偏光発光(ECPL): 電場によって円偏光の発光を制御する技術。
-
キラル誘起スピン選択性(CISS)効果: 左右対称でない「キラル」な分子構造を電子が通過する際に、電子のスピンの向きが選択される現象。
これらの原理を組み合わせることで、従来のCP-OLEDが主に利用してきた「キラル発光分子」(左右対称でない分子)だけに依存しない、全く新しいCP-OLEDの創出が期待されています。これは、円偏光発光技術の大きなブレイクスルーにつながるかもしれません。
日台の強みを融合し、新たな科学領域を開拓
日本と台湾の研究グループは、それぞれ異なる得意分野を持っています。日本側は、円偏光を精密に測定する技術、磁場の下での発光評価、有機ELデバイスの作製・評価技術に強みがあります。一方、台湾側は、円偏光発光材料の開発、高分子や半導体材料に関する知見、自己組織化(材料が自ら秩序だった構造を作る現象)や材料構造解析の技術に優れています。これらの技術を融合させることで、お互いの強みを最大限に活かし、研究を加速させることが期待されています。
この共同プロジェクトの期間は2026年度から2028年度までの3年間で、研究活動や学術的な議論に加え、日台双方の若手研究者や大学院生が継続的に相互訪問し、共同で研究や実験を行うことで、次世代の国際共同研究を担う人材の育成も重要な目的とされています。
未来を想像する:CP-OLEDがもたらす可能性
このプロジェクトが成功すれば、円偏光度と発光効率を両立する新しい発光材料やデバイスの設計指針が確立されるでしょう。さらに、磁場、電場、光、電子スピンの相互作用に基づく新しい光半導体科学の開拓にもつながると期待されています。
開発された技術は、次世代のディスプレイ(より鮮やかで奥行きのある映像表現)、光・量子通信(高速でセキュアな情報伝達)、情報セキュリティ(より強固な暗号化)、センシング(高感度な検出技術)、そしてスピントロニクス(電子のスピンを利用した新しい電子技術)といった幅広い分野での応用が期待できます。この研究はまだ基盤技術の開発段階ですが、私たちの生活や社会に大きな変革をもたらす、知的なワクワク感に満ちた未来を想像させてくれます。
キックオフシンポジウムが台湾で開催
本プロジェクトの開始にあたり、2026年9月1日(火)・2日(水)に、台湾の国立陽明交通大学および国立中央大学において、キックオフシンポジウム「2026 Taiwan-Japan Joint Symposium on Next-Generation Circularly Polarized Luminescence Technology」が開催されます。日本と台湾の研究者・学生が一同に会し、研究発表や意見交換を通じて、3年間にわたる共同研究の力強いスタートを切ります。
関連リンク
-
近畿大学理工学部応用化学科 教授 今井喜胤:
https://www.kindai.ac.jp/meikan/362-imai-yoshitane.html


