JAXAとCONSEOが合同イベントを初開催!衛星データが金融・保険・コンサル分野で拓く未来

衛星データは「DXを実現する重要ツール」

イベントの冒頭で、モデレーターを務めた三菱UFJ銀行の橋詰氏は、衛星やロケットを開発・製造する「アップストリーム」と呼ばれる分野では企業間の部分的な提携が中心であるのに対し、衛星データを活用する「ダウンストリーム」と呼ばれる分野ではM&A(企業の買収・合併)が活発化していると指摘しました。

衛星データは金融機関にとっても重要なツールになり得るとし、「DX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を活用してビジネスや生活を変革すること)を実現するための重要なデジタルツールとして捉えるべき」だと強調しました。

講演する橋詰氏

三菱UFJ銀行でも、衛星データを不動産担保評価に活用することを検討している事例が紹介されました。金融機関は今後、資金を提供するだけでなく、自らも衛星データを活用し、さらには利用企業と技術企業を結びつけるハブ(中心的な役割)を担うようになるべきだという考えが示されました。

「保険×衛星データ」で事前から事後までフェーズフリーに支援

金融領域における衛星データの活用事例として、東京海上ホールディングス(東京海上HD)の取り組みが紹介されました。藤木氏によると、東京海上グループの収益の約7割は海外事業が占めており、今後は保険に続く成長分野としてソリューション事業(課題解決のためのサービス提供)を育成する方針です。

特に、防災・レジリエンス(災害などに対する回復力や適応力)分野は保険との親和性が高く、衛星データが積極的に活用されている領域の一つです。藤木氏は、「私たちが衛星データに取り組み始めたきっかけは、保険金支払い業務の高度化でした」と振り返りました。

講演する藤木氏

大規模災害が発生した際、被害状況を迅速に把握することは困難です。しかし、衛星データを活用することで、被災範囲を短時間で把握できるようになり、保険金支払いの迅速化につながっています。現在では、災害後だけでなく災害前のリスク評価にも衛星データを活用しています。藤木氏は、「これまで見えなかったリスクが可視化できれば、新しい保険商品も生み出せます」と述べました。

東京海上HDは宇宙戦略基金事業において、「保険と衛星ソリューションの一体提供モデル構築による防災基盤強化」に取り組んでいます。グループ企業である日本工営との連携により、平時のインフラモニタリング(社会基盤の監視)や災害前のリスク評価・予防、発災時の被害把握、災害後の復旧・復興支援まで、事前から事後までフェーズフリー(時間や状況に縛られずに)で一体的にサービスを提供するシステムの構築を進めています。藤木氏は、「保険金を支払って終わりではなく、どう復旧し、将来の災害に強いインフラへ作り替えるかまで支援することが重要です」と語りました。

東京海上グループが宇宙戦略基金を通じて目指す姿

海外展開に欠かせない「2つの視点」

海外展開を目指す企業にとって重要な視点について、宇宙ビジネスや安全保障領域に関するコンサルティングを展開するデロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ(DTSS)の栃木氏が解説しました。海外展開には大きく2つの視点が求められるといいます。

それは「相手国の政策を理解すること」と「産業構造を理解すること」です。各国の宇宙政策は、それぞれの国が抱える社会課題や産業ニーズを反映しているため、衛星データでどのような課題を解決したいと考えているのかを把握することが、市場参入の第一歩になると述べました。

講演する栃木氏

さらに、現地の産業・ビジネス構造を理解することも不可欠です。衛星データの利活用は宇宙産業内だけで完結するものではなく、例えばオーストラリアでは、農業、鉱業、金融・保険、防災関連産業など、州政府ごとに形成された非宇宙産業クラスター(特定の産業が集積した地域や連携グループ)の中で広がっています。そのため、日本企業が現地市場へ進出する際には、宇宙業界だけでなく、衛星データを活用するユーザー企業や自治体、産業団体まで含めたエコシステム(生態系のように、様々な企業や組織が連携し、共存共栄するビジネス構造)全体を理解する必要があると説明しました。

DTSSは宇宙戦略基金事業である「日豪・太平洋島嶼国における衛星事業プラットフォームの構築・推進」に取り組んでおり、上記のような背景から、オーストラリアや太平洋島嶼国を対象に、日本企業と現地政府、企業、研究機関・アカデミア(大学などの学術機関)等との橋渡し役を担うことを目指しています。

デロイトの取り組み概要

AI時代にむしろ価値が高まる「現地データ」

約50年にわたりリモートセンシング(遠隔から対象物の情報を取得する技術)事業を展開している国際航業は、宇宙戦略基金事業でも2件のプロジェクトに採択されています。その一つが、AI(人工知能)を活用して地盤変動解析基盤を構築する「Agentic AI(自律的にタスクを実行するAI)によるInSAR(合成開口レーダー干渉法:衛星から電波を発して地表の変位を測定する技術)変動マップの変動要因解釈基盤構築」です。

Agentic AIによるInSAR変動要因解釈基盤構築のプレゼンテーション

衛星画像から地盤変動を検出する技術は実用化されていますが、それだけでは「なぜ地盤が変動したのか」という原因までは分かりません。このプロジェクトでは、国際航業が保有する地形や地質、気象情報、現地測量データなどのコンサルティング技術をAgentic AIと統合することで、変動要因まで解析できる仕組みを構築中です。これはまだ研究段階ですが、実用化されれば、より詳細な地盤変動の原因究明が可能になるでしょう。

新井氏が強調したのは、「グラウンドトゥルース(現地データ:実際に現地で測定・確認されたデータ)がなければ、本当の意味での衛星解析はできない」ということ。例えば森林解析では、現地で樹木の直径や樹高を測定し、そのデータと衛星画像を照合(キャリブレーション:測定器の精度を調整すること)することで初めて、高精度な森林解析が可能になるといいます。新井氏は、「最近はAIで何でもできるような印象を持たれがちですが、それだけでは課題は解決できません。現場を理解し、現地データと衛星データを組み合わせて初めて価値が生まれます」と語りました。

講演する新井氏

この点は日本企業の強みでもあると話し、「日本人は非常に真面目に現地データを取得し、衛星データとの整合性を丁寧に確認します。この品質の高さは海外でも評価されています」と説明しました。

M&Aの際に重視すること–各社には共通点も

パネルディスカッションでは、M&Aによる競争力強化についても議論されました。東京海上HDは建設コンサルティング業界最大手の日本工営を2025年にM&Aで傘下に収め、デロイト トーマツ グループは2026年に、衛星リモートセンシングを活用したカーボンクレジットの信頼性評価を手掛けるサステナクラフト社をグループ傘下に迎え入れています。

東京海上HDの藤木氏は、M&Aを実施する際に重視する3つの観点として、「カルチャーフィット(企業文化の適合)」「高い収益性」「強固なビジネスモデル」を挙げました。日本工営との統合についても、これら3つの条件を高いレベルで満たしていたことが大きな決め手になったといいます。M&A以前から防災コンソーシアムなどを通じて連携しており、お互いの強みや事業シナジー(相乗効果)を十分理解した上で統合へ進んだと明かしました。

また、「衛星データだけで事業を考えるのではなく、防災やインフラ維持管理など、より大きな市場へどう接続していくかが重要です」と語ります。衛星データはあくまで課題解決のためのツールであり、その先にある復旧・復興やインフラ整備、レジリエンス向上まで含めてサービスを設計することで、より大きな社会実装につながるとの考えを示しました。

海外事業成長・M&Aの軌跡

DTSSの栃木氏は、サステナクラフト社のデロイト トーマツ グループへの参画について「衛星解析技術そのものを獲得することだけが目的ではない」と説明しました。デロイト トーマツ グループでは、カーボンニュートラルやネイチャーポジティブへの対応、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の推進をはじめ、多様なコンサルティングサービスを展開しています。そこに、客観性・透明性・信頼性の高い衛星データを解析、活用するエンジニアリング技術を融合することで、戦略立案等の上流のコンサルティングだけでなく、実装や運用フェーズまで一貫して伴走支援できる体制を強化したといいます。

「既存事業とのシナジーを最大化できることが、グループジョインの最大の価値でした」と語り、衛星データを単独事業として捉えるのではなく、既存ビジネスを強化・補完し、その価値をさらに高めるレバレッジ(てこの原理のように、小さな力で大きな効果を得ること)として位置付けていることを強調しました。

両社に共通していたのは、「宇宙事業への参入」を目的としたM&Aではなく、既存事業の競争力を高めるための手段として衛星データを活用している点です。重要なのは衛星データそのものの提供ではなく、それを既存サービスや新たな価値創出にどのように組み込み、社会実装していくかという視点であることが示されました。

本セッションは、衛星データ市場のさらなる拡大に向けた可能性や、新たなビジネス創出のヒントを得る貴重な機会となりました。イベントでは、宇宙戦略基金 第二期 技術開発テーマ「衛星データ利用システム実装加速化事業」の追加公募に関する説明や、衛星データ関連の宇宙戦略基金事業実施機関8社によるピッチなども実施されています。

詳細はぜひ以下のアーカイブ動画や情報をご視聴ください。