STマイクロエレクトロニクスとシンガポール国立大学が「エッジAI」の未来を拓く新研究拠点「HELIX Corporate Lab」を設立

エッジAIとエンボディドAIの可能性

エッジAIとは、スマートフォンやIoTデバイスなど、データが発生する場所(エッジ)で直接AI処理を行う技術です。これにより、クラウドへのデータ送信にかかる時間を短縮し、より迅速な応答、データプライバシーの強化、電力効率の向上、そしてネットワーク接続が不安定な環境でも安定した動作が可能になります。

エンボディドAIは、ロボット、ヒューマノイド(人型ロボット)、ドローンといった物理的なシステムに知能を直接組み込むことを指します。現実世界でリアルタイムに状況を認識し、推論し、行動する能力を持つAIシステム、いわゆる「フィジカルAI」にとって、この技術はますます重要になっています。

HELIX(Hardware for Embodied Low-power Intelligent Xcceleration)は、「システムからシリコンまで」という幅広い視点でのイノベーションを通じて、エッジ上での生成AI(新しいコンテンツを作り出すAI)やエンボディドAIの新たな応用を可能にすることを目指しています。特に、限られた電力で動作する小型ハードウェア上に、これらの高度な知能を効率的に実装することがHELIXが取り組む主要な課題です。

研究者たちがコンピュータ画面を囲み議論している様子

HELIX Corporate Labの研究テーマ

この共同研究施設は、シンガポールの「研究・イノベーション・企業2025計画」(RIE 2025)の支援を受け、NUSデザイン&エンジニアリング・カレッジを拠点に、NUSコンピューティング学部も参加しています。研究は、AIアルゴリズム、アクセラレータ・アーキテクチャ(AI処理を高速化する専用回路)、低消費電力メモリ・システム、回路設計、シリコン技術、アプリケーション開発といった多岐にわたる分野を横断します。

特に、メモリ中心型アーキテクチャ、革新的なインメモリ・コンピューティング(メモリ内部で計算を行う技術)、スケーラブルな演算とメモリ統合システム、そして先進的なシリコンおよび組み込みメモリ技術に重点が置かれます。これらの研究では、STマイクロエレクトロニクス独自のP18 18nm FD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレータ)技術と組み込み型相変化メモリ(PCM)が活用されます。

P18 FD-SOI技術は、超低消費電力での動作とアダプティブなボディ・バイアス(状況に応じて電力消費を最適化する機能)を実現します。また、組み込み型PCMは、オンチップSRAM階層(高速メモリの層)と同じダイ(半導体チップ)上に、高密度の不揮発性ストレージ(電源を切ってもデータが消えないメモリ)を提供します。これらの機能により、AIワークロードにおいて電力消費の大半を占めるチップ外部とのデータ移動を削減し、電力効率を大幅に向上させることが期待されます。

STマイクロエレクトロニクスは、この研究を加速させるため、ST独自のP18 FD-SOI技術で実現された専用の設計プラットフォームをNUSに提供します。これにより、研究者はAIアクセラレータの新たな構想を開発、統合、検証するための産業グレードの基盤を得て、差別化につながるイノベーションの研究に一層集中できるようになります。

シンガポールの半導体エコシステムと人材育成への貢献

NUSの学長であるTan Eng Chye教授は、このCorporate Labが研究成果をイノベーションに変える産学連携の価値を示すものだとコメントしています。STのグローバル技術研究開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるLaurent Malier氏は、STの先進シリコン技術や組み込みメモリ、回路設計の強みを活かし、HELIXを通じて差別化されたAIコンピューティング技術を探求し、産業応用可能な半導体ソリューションへと発展させることを期待しています。

HELIXの設立は、エッジAIおよび先進半導体システム分野におけるシンガポールの将来的な競争力を高めるための戦略的な投資です。実践的な研究開発を促進することによって、地域の研究開発能力を強化し、AIシステムとチップ設計に携わる次世代の人材育成にも貢献します。

学生や研究者、専門家が最先端プロジェクトに参加することで、最新技術を活用し実践的な経験を積む機会を得て、この分野の進化するニーズに対応したスキルを習得できるようになります。HELIXはこれらの取り組みを通じて、シンガポールがエッジAIおよび半導体技術の世界的なイノベーションハブへと発展することを目指します。

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