「硬くて脆い」が過去に?東京理科大が開発した「しなやかで強い」次世代プラスチックの秘密

従来の課題と新しいアプローチ

これまでの研究では、プラスチックの分子鎖にイオン性の構造を導入し、イオン結合の力を利用して材料を強化する試みがなされてきました。しかし、この方法ではイオンが集まって微小な塊(イオンクラスター)を形成してしまい、これがかえって分子鎖の動きを強く制限し、プラスチックが脆くなる原因となっていました。

東京理科大学 創域理工学部 先端化学科の青木大亮講師(研究当時)、内山康太郎氏、宮澤遼太郎氏、有光晃二教授らの研究グループは、この課題に対し、全く新しい視点からアプローチしました。

彼らが着目したのは、イオン性櫛(くし)型ポリマーのカルボン酸(酸性の基)を中和する「対イオン(相手となるイオン)」の種類です。

「かさ高い有機塩基DMAP」が鍵

研究グループは、かさ高い有機塩基である4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を対イオンとして用いることで、驚くべき結果を得ました。DMAPで中和したポリマーは、イオン化しているにもかかわらず、ナノスケール(10億分の1メートル単位の極めて微細な世界)での相分離(物質が均一に混ざらず分離すること)が抑えられました。

これにより、イオンクラスターが形成されにくくなり、分子鎖が動きやすい状態を保ちながら、イオン結合による物理的な架橋(分子鎖同士が結合する点)が機能する「柔軟架橋」という状態が実現したと考えられます。

DMAPイオン導入前後の特性変化を示すグラフ

驚きの性能向上

DMAPを用いて開発された新しいガラス状高分子は、硬さと強靭さの両方で顕著な向上を見せました。

  • タフネス(粘り強さ、壊れにくさ): 約137 MJ/m3を達成。これは、中和前の材料と比べて約4倍の向上であり、汎用プラスチックの中でも強靭な部類に入る高密度ポリエチレン(約130 MJ/m3)に匹敵する値です。

  • ヤング率(硬さを示す指標): 約0.9 GPaを達成。弾性率(変形しにくさ)と降伏応力(変形が始まる力)も中和前の材料と比べて約2倍に向上しました。

  • 破断伸び: 約500%という、大きく伸びてから破断するしなやかさも兼ね備えています。

一方、一般的なナトリウムイオンを対イオンとして用いた場合では、相分離が確認され、中和率が高くなるにつれて著しく脆くなることが分かりました。この結果は、対イオンの選び方が材料の特性に大きく影響することを示しています。

未来を拓く可能性

今回の研究成果は、イオン液体を使わなくても、かさ高い側鎖と特定の有機塩基の組み合わせによって、硬さと強靭さを両立するガラス状高分子を生み出せることを示しました。

これは、輸送機器の軽量かつ高強度な構造材料や、壊れにくい電子機器の筐体など、幅広い分野での応用が期待されます。例えば、スマートフォンやタブレットの落下耐性向上、自動車の軽量化による燃費改善など、私たちの身近な製品の進化に貢献するかもしれません。

現在は研究段階ですが、対イオンの種類やポリマーの骨格構造をさらに探求することで、より高性能な材料の開発が進められるでしょう。この新しい設計指針が、持続可能な社会の実現に向けた材料科学の発展に寄与することが期待されます。

本研究成果は、2026年9月3日に国際学術誌「Macromolecules」にオンライン掲載されました。