細胞治療市場、2033年には16億ドル規模へ
日本の細胞治療市場は、2025年に4億8,561万米ドル(約760億円)規模と推定されており、2033年には16億3,299万米ドル(約2,500億円)まで拡大すると予測されています。この予測期間における年平均成長率(CAGR)は16.5%と高く、日本の再生医療・細胞治療分野が大きな可能性を秘めていることが示されています。
なぜ今、細胞治療が注目されるのか
細胞治療とは、患者自身の細胞や他者の細胞を加工・培養し、病気の治療や機能回復に役立てる医療技術です。従来の治療法では難しかった病気に対して、より根本的な改善や副作用の少ない治療が期待されています。
この市場成長の背景には、政府による積極的な支援策、治療法承認プロセスの迅速化、そして京都大学iPS細胞研究所(CiRA)や理化学研究所(RIKEN)に代表される、iPS細胞(人工多能性幹細胞:体のあらゆる細胞に変化できる能力を持つ細胞)研究における日本の国際的な優位性があります。これらの要因が、再生医療の研究開発から実用化までを加速させています。
高齢化と個別化治療へのニーズが市場を牽引
日本の急速な高齢化と、パーキンソン病、心不全、一部のがんなどの慢性・変性疾患の増加は、細胞治療への需要を高める大きな要因です。さらに、がん、神経疾患、希少遺伝性疾患を対象とする、患者一人ひとりに合わせた「個別化された細胞ベース治療」への期待も高まっています。
がん治療における細胞治療の可能性
特に注目されているのが、がん治療領域(オンコロジー)です。従来の化学療法や放射線療法には有効性や副作用の面で限界があるため、より個別化され、標的性の高い治療法が求められています。CAR-T細胞療法(患者自身のT細胞という免疫細胞を遺伝子改変し、がん細胞を攻撃するよう教育して体に戻す治療法)やT細胞ベースの免疫療法は、患者自身の免疫機能を活用してがん細胞を攻撃する画期的な治療法として、研究開発や臨床試験が活発に進められています。
がんの有病者数は2050年までに日本全体で13.1%増加すると予測されており、特に女性のがん生存者が13.6%増加すると見られています。乳がん、大腸がん、前立腺がんなどがん種別の増加傾向が示されており、これらの疾患を標的とする細胞免疫療法への需要拡大につながる可能性を秘めています。
自家細胞治療が市場の半分以上を占める
細胞治療は、治療タイプによって大きく二つに分けられます。一つは「自家細胞治療」で、患者本人から採取した細胞を用いるため、免疫拒絶(移植された細胞が体に異物と認識され、攻撃される反応)のリスクが低いという大きな利点があります。もう一つは「同種細胞治療」で、他者の細胞を使用します。
日本の市場では、自家細胞治療が54.55%の市場シェアを占め、最大のセグメントになると予測されています。個別化された低侵襲(体への負担が少ない)な治療への需要拡大、迅速承認制度、低い免疫原性(免疫反応を引き起こしにくい性質)、倫理的受容性の高さなどが、自家細胞治療の成長を支えています。実際、2024年9月には、新宿クリニックがアルツハイマー病治療を目的とした自家脂肪由来幹細胞(体の様々な細胞になれる能力を持つ細胞)を用いた再生医療技術について、日本国内での提供承認を得た事例もあります。
主要プレイヤーと今後の動向
日本の細胞治療市場には、富士フイルム・セルラー・ダイナミクス、Healios(ヘリオス)、JCRファーマ、理化学研究所、タカラバイオ、ニプロ、メディネット、セルシードといった大手製薬企業、バイオテクノロジー企業、研究機関が参入しています。
2026年には、これらの企業・機関が細胞製造プラットフォームの強化、GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品等の製造管理および品質管理に関する基準)製造能力の拡大、iPS細胞研究・臨床プログラムの加速、細胞加工技術の拡充、そして病院やバイオ企業との提携強化などを進めていくと見られています。日本の規制環境の支援と高水準の研究開発投資を背景に、がん、神経疾患、希少疾患を中心とする先端細胞治療の商業化が進み、日本が世界有数の細胞治療イノベーション拠点として確立されることが期待されます。
専門人材の育成が持続的成長の鍵
一方で、市場成長の制約要因として、専門人材の不足が挙げられています。複雑な細胞培養技術、GMP対応、大規模製造プロセスを扱える熟練した人材が十分ではないため、製品開発の遅延や生産拡大の制約につながる可能性があります。この課題を克服し、人材育成と製造インフラの強化を進めることが、日本の細胞治療市場が持続的に成長するための重要な鍵となります。
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