自動車の「安全」と「進化」を支えるTIC市場
自動車の試験・検査・認証(TIC)とは、車両の安全性、排出ガス性能、品質などが、国土交通省(MLIT)が定める厳格な基準に適合しているかを確認する重要なプロセスです。自動車メーカーは、これらの基準を満たしていることを証明するために、継続的な検査や認証を受ける必要があります。
近年、日本の自動車TIC市場の成長を大きく牽引しているのは、政府が掲げる「2035年までに新車乗用車販売を全面的に電動化する」という方針です。この電動化への移行は、自動車に搭載される技術を大きく変化させています。
EV化と自動化がもたらす新たな試験ニーズ
電動車(EV)の普及に伴い、従来のガソリン車の試験とは異なる、高度で専門的な試験が求められるようになりました。具体的には、EVの心臓部であるバッテリーの性能や安全性、車両を制御するソフトウェアの信頼性、そして電磁両立性(EMC:電子機器が電磁波によって誤作動しないか、また、不要な電磁波を出さないかを確認する試験)、高電圧システムに関する試験などが挙げられます。
例えば、UL Solutionsは2025年3月16日に、豊田市に先進的な自動車用EMC研究所を設置する計画を発表しています。これは、ブレーキやエンジン制御といった重要な車載システムが電磁干渉によって影響を受けないよう、リスクを低減するための取り組みです。車両の電子化が進む現代において、EMC試験は自動車の性能、信頼性、安全性を確保し、国際規格に適合させる上で不可欠な領域となっています。
また、日本の自動車試験施設では、ロボティクスと自動化の導入が急速に進んでいます。国際ロボット連盟によると、日本では2023年に35万台を超える産業用ロボットが稼働しており、これは世界最大規模です。これらのロボットは、自動車の衝突試験、耐久試験、高精度な検査などに活用され、試験の処理能力向上やエラー率の低減に貢献しています。トヨタも愛知県の研究開発施設でロボットシステムを活用し、検証工程の効率化を進めています。
複雑化する市場と未来への貢献
自動車メーカーは、こうした変化に対応するため、自社内の研究開発・試験施設を強化し、第三者機関による最終認証の前に、社内での検証・適合確認能力を高めています。一方で、SGS、Bureau Veritas、TÜV SÜDといった国際的な試験・検査・認証企業も、EV、EMC、ソフトウェアなど、専門性の高いサービスを拡大し、日本の自動車メーカーや部品メーカーを支援しています。
しかし、市場の成長には課題も存在します。国土交通省の型式認証制度やUNECE(国連欧州経済委員会)などの国際基準といった複数の規制制度に同時に対応するためのコストや複雑性は、特に資金力に限りがある中小・中堅サプライヤーにとって大きな負担となる可能性があります。2023年度に350万台を超える車両リコールが記録されたことからも、メーカーにとって欠陥の防止、再試験、是正措置の負担は非常に大きいことがうかがえます。
TIC市場の進化は、単に自動車の性能を評価するだけでなく、持続可能性の観点からも重要な役割を担っています。自動車部門は日本のCO₂排出量の約16%を占めるとされており、電動化の推進はCO₂排出量削減に直結します。また、日本の使用済自動車リサイクル法に基づき、車両の廃棄・再資源化に関する責任がサプライチェーン全体に求められるため、TIC事業者はリサイクルや循環型経済に関する検査・文書確認にも関与しています。これにより、製品ライフサイクル全体の環境適合性が検証される方向へとTICサービスは拡大しています。
今後、自動化、デジタル検証、シミュレーション、EMC、ソフトウェア認証などを効率的に統合できる企業が、この競争の激しい市場で優位に立つことでしょう。日本の自動車TIC市場は、私たちの乗る自動車の安全と品質を守り、持続可能な未来を実現するための重要な基盤であり続けるでしょう。
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