日本の核医学市場、2031年には25億ドル規模へ急成長:診断から治療へ進化する医療の最前線

日本の核医学市場が2031年までに25億ドル超へ拡大予測

日本において、病気の診断や治療に役立つ「核医学」の市場が、今後大きく成長すると予測されています。株式会社マーケットリサーチセンターの調査資料によると、日本の核医学市場は2023年に5億5,030万米ドル規模でしたが、2031年には25億4,320万米ドルにまで拡大する見込みです。これは、年平均21.2%という非常に高い成長率(CAGR)を示しており、医療の未来を大きく変える可能性を秘めています。

核医学とは?体の内側を「見て」「治す」医療

核医学とは、微量の放射線を出す特別な薬「放射性トレーサー(放射性医薬品)」を体内に投与し、その薬が体の中でどのように動くかを、特殊な装置で画像として捉える医療分野です。これにより、臓器の機能や病気の状態を詳しく診断したり、病気を治療したりすることができます。

核医学の代表的な画像診断技術には、以下の2つがあります。

  • SPECT(単一光子放射断層撮影):放射性トレーサーから放出されるガンマ線という種類の放射線をカメラで検出し、体の内部を立体的に画像化する検査です。骨や心臓の病気、脳の血流などを調べることができます。

  • PET(陽電子放出断層撮影):これも放射性医薬品を使いますが、薬から放出される陽電子という粒子を利用して、体内の代謝活動や特定の物質の分布を立体的に画像化する検査です。特にがんの早期発見や広がり、治療効果の判定に威力を発揮します。

これらの技術は、体の形を見るだけでなく、臓器がどう機能しているか、病気がどれくらい活発かといった「生きた情報」を教えてくれる点が特徴です。

市場成長の背景にある「高齢化」と「病気の増加」

核医学市場がこれほど急成長する背景には、主に以下の要因があります。

  1. がんや心血管疾患の増加:日本は平均寿命が長く、それに伴い高齢者人口が増加しています。高齢化は、がんや心血管疾患(心臓病や脳卒中など)の罹患率を高める要因となり、これらの病気の診断・治療の需要が拡大しています。
  2. 高度な画像診断技術の普及:PETやSPECTといった技術がさらに進化し、より正確で詳細な情報が得られるようになったことで、医療現場での活用が広がっています。
  3. 新しい放射性医薬品の開発:診断だけでなく、治療に特化した新しい薬の研究開発が進んでいます。

特に、がんと心血管疾患は日本の主要な死因であり、高齢化が進むことで、これらの病気を早期に発見し、より効果的に治療する必要性が高まっています。核医学は、これらの病気の診断や治療方針の決定において、重要な役割を担っています。

診断から治療へ:進化する核医学「セラノスティクス」

核医学の分野では、診断だけでなく、治療への応用が大きく進んでいます。特に注目されているのが、「標的放射性医薬品(TRPs)」という新しいタイプの薬です。

標的放射性医薬品(TRPs)とは

標的放射性医薬品とは、特定の病気の細胞だけを狙って放射線を届けるように設計された薬のことです。がん細胞など、病変のある細胞の表面に存在する特定の分子(分子標的)に結合する成分と、放射線を出す成分を組み合わせることで、正常な細胞への影響を最小限に抑えつつ、病変を「ピンポイント」で治療することを目指しています。これは、これまでのがん治療では難しかった、より精密な治療を可能にする画期的なアプローチです。

診断と治療を一体化する「セラノスティクス」

標的放射性医薬品の登場により、核医学は「セラノスティクス」という新たな段階に入りつつあります。セラノスティクスとは、診断(diagnosis)と治療(therapeutics)を組み合わせた造語で、同じ分子標的を使って、診断と治療の両方を行うアプローチです。

例えば、前立腺がんの診断に使われる「F-18 PSMA-1007 PET」という検査では、前立腺がん細胞に多く見られる「PSMA(前立腺特異的膜抗原)」というタンパク質を標的とします。この検査でPSMAを発現しているがんが見つかれば、次に同じPSMAを標的とした治療用の放射性医薬品を投与することで、診断から治療までを一貫して行うことができるのです。これにより、患者さん一人ひとりの病状に合わせた、より効果的で副作用の少ない「個別化医療」の実現が期待されています。

現在、CuriumとPeptiDreamの子会社PDRadiopharmaが、前立腺がんを対象とした診断用と治療用のPSMA標的薬剤の臨床開発を進めるなど、企業間の連携も活発です。これは、セラノスティクスが日本の核医学市場で重要な役割を果たすことを示唆しています。

研究開発と国際連携が市場を牽引

日本の核医学市場の成長には、企業や大学、国際機関による研究開発や連携が大きく貢献しています。

  • 国際原子力機関(IAEA)は、日本の大学・科学研究機関と協力し、アジア太平洋地域における核医学の専門人材育成を進めています。これは、高度な技術を安全かつ適切に運用するための基盤を強化するものです。

  • 国内では、核医学スタートアップのAdvanced Medical Science-Planning(AMS)が京都大学と共同で、新しい放射性医薬品の日本市場への導入を目指す研究を進めています。

  • また、Chiyoda Technol Corporationの研究者は、インドネシアの機関と核医学診断に不可欠な放射性同位体「モリブデン99(Mo-99)」と「テクネチウム99m(Tc-99m)」の抽出技術を共同開発していることを明らかにしました。これらの放射性同位体は半減期が短く、安定した供給が非常に重要であるため、国際協力による供給網の強化は、日本の核医学市場にとって戦略的な意味を持つでしょう。

高コストと人材育成が課題

一方で、核医学市場の成長にはいくつかの課題も存在します。

  • 高コスト:PETやSPECTなどの大型装置、放射性医薬品の製造・調達、専用施設の運営には多大な費用がかかります。医療費が高額になることで、患者さんが検査や治療を受けられないケースも生じる可能性があります。

  • 他技術との競合:MRIやCTスキャンなど、他の画像診断技術も進化しており、患者さんが放射線被ばくへの懸念から核医学検査をためらう可能性もあります。

  • 供給の安定性:多くの放射性医薬品は半減期が短いため、製造から医療機関での使用までを厳密な時間管理のもとで行う必要があります。市場が拡大するにつれて、安定した供給体制の構築がより重要になります。

  • 専門人材の育成:核医学医、放射線技師、薬剤師、放射線安全管理者など、核医学を安全かつ適切に運用できる専門人材の育成も不可欠です。

未来への展望:精密医療の中心へ

日本の核医学市場は、これらの課題を乗り越えながら、今後も大きく発展していくでしょう。特に、診断と治療を一体化した「セラノスティクス」は、がん治療をはじめとする精密医療・個別化医療の中心的な役割を担う可能性を秘めています。

従来の核医学は「病気を診断する」イメージが強かったかもしれませんが、今後は「病気を診断し、さらに個別最適化された治療を提供する」という、より積極的な医療へとその役割を拡大していくでしょう。高精度な診断と治療効果を追求しつつ、医療経済性や供給の安定性をいかに両立させていくかが、今後の市場成長を左右する重要なポイントとなるでしょう。

調査レポートに関する詳細情報

本記事は、株式会社マーケットリサーチセンターが発表した調査資料「日本の核医学市場2024~2031年」に基づいています。詳細情報については、以下のリンクからお問い合わせください。