千葉大学とフィンランドのWillo Technologies社が次世代ワイヤレス給電技術の共同研究を開始
2026年9月9日、国立大学法人千葉大学とフィンランドのディープテックスタートアップWillo Technologies社は、次世代ワイヤレス給電技術に関する共同研究契約を締結しました。この研究は、3次元の閉空間内で安定した無線給電を実現することを目指しています。共同研究契約締結式には、研究代表者である千葉大学大学院情報学研究院の関屋大雄教授と、Willo Technologies社の共同創業者兼CEOであるHarri Santamala氏が出席しました。

従来の充電から一歩進んだ「3次元パワーゾーン」とは?
現在広く使われているワイヤレス充電の多くは、充電パッドやクレードルの上に機器を正確に置く必要がある「2次元」的な給電方式です。これは、充電したい機器と充電器の位置を数ミリ単位で合わせる必要があるため、使い勝手の面で限界がありました。
これに対し、Willo Technologies社が開発を進めているのは、閉空間内であれば機器の位置や向きに左右されず、充電パッドや特別な位置合わせ、さらには機器と充電器の間に遮蔽物がない状態(見通し線)を必要とせずに電力を受け取れる新しい無線給電技術です。同社はこの電力供給可能な空間を「3次元パワーゾーン」と呼んでいます。これは、まさに空間そのものが充電器になるような技術であり、ケーブルや充電器の場所を気にすることなく、空間にある複数の機器が同時に充電される未来を想像させます。
実用化への大きな壁と共同研究の狙い
「3次元パワーゾーン」の実現に向けた大きな技術課題の一つが、動作条件の変化に対応することです。例えば、複数の機器が空間内に出入りしたり、移動したり、必要とする電力が変化したりすると、それぞれの機器が給電システム全体の電気的な特性に影響を与えます。このような状況下でも、安定して電力を供給し続けることが、実験室でのデモンストレーションに留まらず、実用的なシステムとして活用するために非常に重要となります。
本共同研究では、この課題を解決するため、千葉大学の関屋研究室が持つ専門的な知見が活用されます。関屋研究室は、高い周波数の電気を使って効率よく電力を変換・伝送する「高周波電力変換技術」や、給電される側の機器(負荷)の状態が変わっても安定して電力を送り続けられる「負荷非依存型無線電力伝送技術」において、長年の研究実績と世界有数の先導的な研究成果を有しています。
具体的には、閉空間内に配置された複数の機器に対して安定的に電力を供給するためのシステム構成と制御方法を検討します。また、給電対象機器の数や配置の変化が、電力の伝送効率や供給電力の安定性にどのような影響を与えるかを評価するとともに、人が空間内に存在する条件を含む、より現実的な環境での実証評価も行われる予定です。
世界が注目する日本の技術力と研究グループ
Willo Technologies社が千葉大学を共同研究先に選んだ背景には、関屋教授率いる研究グループの存在があります。関屋教授は、特にメガヘルツ帯(非常に高い周波数の電気)で高効率な電力供給を実現する「Class-EおよびClass-EF回路」という特定の回路方式の研究で高い実績を持っています。さらに、負荷の変化に対してフィードバック制御(出力の変化を検知して調整する仕組み)に頼らずに出力特性を維持できる「負荷独立型ワイヤレス給電技術」の研究を精力的に進めており、この分野をリードする世界有数の研究グループとして知られています。
日本は、精密機器、センサー、産業用ロボットなどの主要な生産国であり、これらの機器ではケーブルやコネクタが大きな制約となる場合があります。このような背景から、日本はWillo Technologies社が推進するワイヤレス給電技術の研究開発および実用化において、極めて重要な位置付けにあると考えられています。
今後の展望
本共同研究は2026年9月9日から2027年9月8日までの期間、千葉大学大学院情報学研究院の関屋研究室とWillo Technologies社(フィンランド ヘルシンキ)で実施されます。
千葉大学大学院情報学研究院の関屋大雄教授は、「私たちの研究グループは、負荷が変化しても高周波電力伝送を安定して維持するための技術について、長年研究を進めてきました。これを一対一の無線電力伝送から閉じた空間全体へと拡張すると、まだ多くの未解決の課題があります。これらを明らかにするためには、シミュレーションだけではなく、実際のシステムを用いた測定・検証が不可欠です。Willo Technologies社とともにこの課題に取り組めることを大変うれしく思います。本共同研究から得られる成果が、一企業の技術開発にとどまらず、幅広い分野に役立つことを期待しています。」とコメントしています。
Willo Technologies社 共同創業者兼CEOのHarri Santamala氏は、「千葉大学の研究グループは、負荷が変化しても無線電力伝送を安定して維持する技術について、先駆的研究成果を挙げています。これは、一つの機器ではなく空間全体に電力を供給する際の最も重要な技術課題の一つであり、私たちが千葉大学との共同研究を希望した大きな理由です。本共同研究から得られる成果は、今後開発するさまざまな3次元パワーゾーンの設計に生かされると考えています。」と述べ、共同研究への期待を表明しました。また、同社のエンジニアリングチームには、関屋教授の指導のもと博士号を取得した社員の小宮山裕太郎氏が在籍しており、千葉大学で行われる研究とWillo Technologies社の技術開発をつなぐ架け橋となることも期待されています。
Willo Technologies社は、フィンランドを代表するアアルト大学発のディープテックスタートアップとして2026年に正式にローンチされた企業で、これまでに290万ユーロの資金を調達しています。詳細はWillo Technologies社のウェブサイトで確認できます。
- Willo Technologies社:https://willo.tech



