AI時代の「信頼」を多角的に議論—Data & AI Conference『Trust2026』開催報告

AI時代の「信頼」を多角的に議論—Data & AI Conference『Trust2026』開催報告

2026年9月1日、データとAIの未来を考えるカンファレンス「Data & AI Conference『Trust2026』」が開催されました。このイベントには約600名が申し込み、当日は約400名が来場し、昨年の2.7倍という規模で、AI技術が社会に深く浸透する中で「信頼」がいかに重要であるかを示しました。

Data & AI Conference Trust 2026の告知画像

産官学の専門家が結集し、多層的な「信頼」を議論

本カンファレンスには、富士通、さくらインターネット、エヌビディア、Preferred Networks、ABEJA、KDDI、野村総合研究所といった企業に加え、デジタル庁、AIセーフティ・インスティテュート、個人情報保護委員会、東京大学、新潟大学など、産官学の第一線で活躍する16名の専門家が登壇しました。

開会時には、前デジタル大臣である自由民主党 衆議院議員の平将明氏と、株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officerの森正弥氏から、応援ビデオメッセージが寄せられました。

Trust 2026 Data & AI Conferenceの応援ビデオメッセージの告知画像

平氏はソブリンAI(データやAIを自国の管理下に置き、自律的に運用する考え方)の重要性と、Confidential Computing(データが処理されている最中も、外部からの不正アクセスや改ざんから保護する技術)への期待を表明。森氏は、AIが業務を遂行するエージェントへと進化する中で、データの安全性やAIの判断への責任といった「信頼」の重要性を強調し、人間中心のAIやソブリンAIを巡る産官学の議論に期待を寄せました。

「信頼」は一つの層では成り立たない

カンファレンスのプログラムは、基調講演2本、メインセッション5本、サブセッション3本の計10本で構成されました。半導体・計算基盤から、基盤モデル(大規模なAIモデル)、データ、制度・ガバナンスまで、「信頼」を構成する様々なレイヤーを縦断する形で議論が展開されました。

データやAIが社会の意思決定を左右する時代において、誰もが安心してデータを託せる信頼の基盤をどう築くかが問われています。この信頼は、データ主権(データが生成された国や地域の法律、規制、管轄権に従って管理・保護されるべきという考え方)やソブリンAIといった国家レベルの安全保障から、それを支えるインフラ、基盤モデル、そして個人の権利を守る制度まで、いくつもの層が積み重なって初めて「安心できるデータとAI活用」が実現します。Trust2026は、この多層性をそのままプログラムの構成に反映し、各レイヤーの最前線を担うプレイヤーが一堂に会する場となりました。

基調講演:AI時代の社会インフラと国産クラウドにおける「ソブリン」の重要性

基調講演では、「ソブリン」をテーマに、社会インフラと国産クラウドの両面から議論が展開されました。

富士通株式会社の林恒雄氏は、AI時代の社会インフラにおいて、データ・計算資源・AIモデルなどを自律的に管理する「Societal Sovereignty(社会的主権)」が重要であると説明しました。日本の現場力や運用力を生かしつつ、国際協調と代替可能性を確保しながら、信頼できるAIを社会に実装していく必要性が示されました。

田中邦裕氏がステージ上で講演

さくらインターネット株式会社の田中邦裕氏は、国産クラウド事業者として、ガバメントクラウド(政府や公共機関が利用するために設計されたクラウドサービス)への取り組みを含め、AIを動かし続けるための基盤のあり方を示しました。データ・運用・法制度・技術を国内で主体的に管理する「主権性」を確保し、AIインフラを安定して使い続けられる環境を整えることの重要性が強調されました。

メインセッション:5つのレイヤーを縦断する「信頼」の議論

5つのメインセッションでは、AI時代の「信頼」を構成する具体的な要素について、深く掘り下げた議論が行われました。

セッション01:ハードウェアから創る”信頼” ― Confidential AIの最前線

Trust2026のセッション風景

エヌビディア合同会社、富士通株式会社、Acompanyの登壇者により、Confidential Computing(機密計算)の実装状況を踏まえ、AIの計算基盤そのものに信頼を組み込むアプローチが議論されました。特に、ハードウェアを信頼の起点とするConfidential Computingにより、計算中のデータやAIモデルを保護し、安全なConfidential AI(機密AI)の社会実装を進める可能性が示されました。これは、個人情報や企業秘密を含むデータをAIで扱う際の安全性向上に直結します。

セッション02:『信頼できるAI』はいかにして創られるか?

Trust 2026のパネルディスカッションの様子

AIセーフティ・インスティテュート、Preferred Networks、ABEJA、Acompanyの登壇者が、「信頼できるAI」を成り立たせる要件を、制度・基盤モデル・産業応用の3つの立場から検討しました。Preferred Networksの国産LLM「PLaMo」や、ABEJAの産業特化型LLMの構想が紹介され、データ主権と秘匿性を確保しながらAIを社会やミッションクリティカル業務へ広げる取り組みが示されました。これは、AIの安全性と実用性を両立させるための具体的な動きと言えるでしょう。

セッション03:データ主権を、日本の手に ― ソブリンクラウドが支える、AI時代の信頼基盤

テクノロジー関連のカンファレンスまたはセミナーの様子

デジタル庁、KDDI株式会社、株式会社野村総合研究所の登壇者により、行政、通信、リサーチという異なる立場から、データを国内・自社の管理下に置く要請と、それを支えるクラウド基盤のあり方が議論されました。デジタル庁からは、ガバメントAI「源内」に国産LLMを活用し、行政における信頼性を高めるとともに、国内AIの育成と日本の自律性確保につなげる取り組みが紹介されました。これは、AIの活用が国家レベルの戦略として進められていることを示しています。

セッション04:人間とAIの協働 ― 研究最前線からの視点

Data & AI Conference Trust 2026のパネルディスカッション

東京大学とAcompanyの登壇者により、人とAIの協働において、AIの助言が人の判断や公平性に影響を与える可能性が紹介されました。Confidential ComputingやRemote Attestation(遠隔地のコンピューターが信頼できる状態にあるかを検証する技術)、AIセキュリティを組み合わせた「秘密を守れるAI」の構想を踏まえ、2030年の人とAIの役割分担や、協働に必要な信頼のあり方が議論されました。これは、AIがより高度な判断に関わる未来において、その信頼性をどう担保するかの研究段階の課題を示しています。

セッション05:個人のデータを、守りながら生かす ― 改正個人情報保護法と、Confidential Computing / Confidential AIの親和性

AI技術の課題に関するカンファレンス「Trust2026」のパネルディスカッション

個人情報保護委員会、新潟大学、ひかり総合法律事務所、Acompanyの登壇者により、改正個人情報保護法の動向を踏まえ、個人データの保護と活用を両立させる制度設計と、Confidential Computing / Confidential AIという技術的アプローチの接点が議論されました。今後は、本人への影響を遮断するためのデータの来歴管理や下流利用の監督、安全な処理環境の整備が課題となり、PETs(プライバシー保護技術)やConfidential Computingを活用したデータガバナンスの重要性が示されました。これは、技術と法制度の両面からプライバシー保護とデータ活用を推進しようとする動きです。

サブセッションと交流会、そしてアーカイブ配信

メインセッションと並行して、Confidential Computingの技術解説から、現場でのAI活用の判断、実際の導入事例までを扱う3本のサブセッションが実施されました。これらのサブセッションは、後日オンラインでのアーカイブ配信が予定されており、当日参加できなかった方も視聴できます。

会期後には約140名が参加する交流・懇親会も開催され、登壇者と参加者が業種や立場の垣根を越えて意見を交わし、活発なネットワーキングの場となりました。

データとAIの未来をテーマにしたカンファレンス会場の様子

まとめ

Data & AI Conference『Trust2026』は、AI技術の発展がもたらす社会変革の中で、「信頼」という基盤がいかに重要であるかを再認識させるイベントとなりました。ハードウェアから法制度、そして人間とAIの協働まで、多岐にわたる視点から議論が深められたことで、より安全で持続可能なAI社会の実現に向けた具体的な道筋が示されたと言えるでしょう。今後も、このような議論が重ねられ、技術と社会が調和する未来が築かれていくことに期待が寄せられます。

開催概要

  • イベント名:Data & AI Conference『Trust2026』— 誰もが安心できる、データとAI活用の未来を考えるカンファレンス —

  • 開催日:2026年9月1日(火)13:00–18:30(交流・懇親会 18:30–20:00)

  • 会場:浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス

  • 開催形式:オフライン

  • お申込み:約600名

  • 来場者:約400名

  • 交流・懇親会:約140名

  • 登壇者:産官学16名

  • プログラム:基調講演2本 / メインセッション5本 / サブセッション3本

  • 主催:株式会社Acompany

  • 公式サイトhttps://www.acompany.tech/trust2026

株式会社Acompanyに関する詳細情報は、公式サイトをご覧ください。本件に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームより可能です。