生命の常識を覆す!「pH応答」の謎に迫る革新的な研究がスタート – 国立科学博物館で展示

生命の常識を覆す!「pH応答」の謎に迫る革新的な研究がスタート

「細胞の中のpH(ピーエイチ/ペーハー:液体が酸性かアルカリ性かを示す尺度)は常に一定に保たれている」――これは生命科学における長年の常識でした。しかし近年、この常識を覆す驚くべき事実が明らかになりつつあります。細胞はpHの変化を単に受動的に受け入れるだけでなく、自らpHを変化させ、それを生命活動の重要な調節メカニズムとして利用しているというのです。

新たな学術分野「pH応答生物学」の確立へ

この画期的な発見を基に、独立行政法人国立科学博物館が参画する学術変革領域研究(A)「pH応答生物学の確立」が2025年度よりスタートしました。本研究は、生物がpHの変化をどのように「感じ」、どのように生命活動に活用しているのかを、多様な生物を対象に解明し、「pH応答生物学」という新たな学術分野を確立することを目指す先駆的なプロジェクトです。

海洋酸性化や体内環境の変化など、生物は常にさまざまなpH変化にさらされています。この研究は、これらの変化に対する生物の適応メカニズムを理解し、将来的に環境問題や医療分野への応用へとつながる可能性を秘めています。

研究の一部を国立科学博物館で紹介

国立科学博物館上野本館地下2階ディスカバリーポケットでは、この革新的な研究の一部が2026年7月30日(木)から10月18日(日)まで紹介されます。

フロアマップと研究紹介

展示概要

会場では、「pH応答生物学の確立」に関する内容がパネルでわかりやすく解説されます。また、研究で実際に用いられているわずか数ミリメートルの有孔虫(ゆうこうちゅう:炭酸カルシウムの殻を持つ単細胞生物)の実物標本や3D拡大模型、さらにターコイズキリフィッシュの休眠胚(はい:発生を一時停止した状態の卵)が展示されます。モニターでは、研究に参加している研究者たちが、研究の面白さや内容を映像で紹介します。

具体的な研究内容の紹介

このプロジェクトでは、海に生息する有孔虫やサンゴ、陸上のイネ、湖に生息するキリフィッシュ、さらにはヒトのがん細胞など、さまざまな生物がpH変化をどのように感知し、適応しているのか、あるいは細胞内pHをどのように制御しているのかを明らかにすることを目指しています。

これまでの研究では、生体内で起こる微細なpH変化を観察することが困難でした。しかし、この研究では高感度MRIや遺伝子・代謝物の解析技術を活用し、生体内のpH変化を「可視化」する新しい技術の開発も進められています。

1. 単細胞生物、有孔虫のpH応答を探る(国立科学博物館)

沖縄の「星の砂」として知られる有孔虫は、カキやホタテと同様に炭酸カルシウムの殻を形成します。国立科学博物館では、沖縄や茨城の有孔虫を用いて、低いpHの海水が成長や細胞、殻の形成にどのような影響を与えるかを研究しています。これまでの研究で、低いpHの海水環境下では有孔虫の成長が抑制されることが明らかになっています。

熱帯の海辺の景色

pH8.0~8.4で飼育した有孔虫

pH7.6~7.7で飼育した有孔虫

2. ターコイズキリフィッシュの発生休眠のしくみを解き明かす(理化学研究所)

アフリカ原産のターコイズキリフィッシュは、乾季を乗り越えるために胚の状態で発生を一時停止する「発生休眠(ディアポーズ)」という特殊な能力を持つ魚です。理化学研究所では、この発生休眠を支える細胞内環境の変化、特に細胞内pHがどのように関わっているのかを研究しています。

魚のライフサイクルと休眠卵

一般向けシンポジウムも開催

研究内容をより多くの方に知っていただくため、2026年10月11日(日)には、国立科学博物館にて一般向けのシンポジウムも開催されます。詳細は、本研究のウェブサイトで確認できます。

関連リンク

この研究は、生命の根源的なメカニズムを解き明かすだけでなく、地球環境の変化に適応する生物の戦略や、がん細胞の増殖メカニズムの理解など、幅広い分野に新たな知見をもたらすことが期待されています。国立科学博物館での展示を通じて、最先端の科学研究に触れ、生命の不思議と未来の可能性を感じてみてはいかがでしょうか。