『2026堀場雅夫賞』受賞者決定!エネルギー社会の未来を拓く先端分析・計測技術に光

エネルギー社会を支える画期的な分析・計測技術

今回の受賞研究は、電気自動車や再生可能エネルギーの普及、AIの進化などで電力需要が高まる現代において、エネルギー関連デバイスの高性能化と高信頼性を支える重要なものです。まるでデバイスの「目」や「耳」となるような技術が、未来のエネルギー社会を力強く後押しします。

堀場雅夫賞受賞者とその研究

折笠 有基氏(立命館大学)

研究テーマ:電気化学エネルギーデバイスの反応場を可視化するオペランドX線解析技術の開拓

折笠氏の研究は、リチウムイオン電池や全固体電池、燃料電池、水電解槽といった電気化学エネルギーデバイスが実際に動いている最中の「内部の様子」を、高エネルギー放射光X線でリアルタイムに観察できる技術です。これまでは外からでは分かりにくかった電極や電解質の変化、反応の偏り、材料同士の接触状態などを「見える化」できるようになりました。

この技術によって、電池の充電速度や劣化に影響する反応のムラや、全固体電池の性能を左右する材料の接触状態などが明らかになりました。さらに、燃料電池や水電解槽では触媒の劣化の様子も捉え、これらのデバイスの高性能化や長寿命化に向けた設計指針を示しています。まるでデバイスの「体内カメラ」のように、隠れた不具合の原因や性能向上のヒントを探る、未来を大きく変える可能性を秘めた研究段階の成果です。

  • オペランドX線解析技術とは: 材料が実際に機能している状態でX線測定を行い、反応や構造変化をその場で観察する解析技術。

片山 祐氏(大阪大学)

研究テーマ:電解・蓄電デバイスの電極・電解液統合設計を叶えるオペランド分光法の開発

片山氏の研究は、蓄電池や燃料電池、水素製造装置などの「電極と電解液の境界」で起きる反応を、動作中に分子レベルという非常に細かい視点で観察できる解析手法です。これまでの研究では主に電極材料の改良が進められてきましたが、デバイス全体の性能を上げるには、電解液を含めた「反応が起きる場全体」を最適化することが重要でした。

この研究で開発されたオペランド分光法を用いることで、反応のメカニズムを解明し、材料設計から性能評価までを一貫して進められる研究基盤が築かれました。電極と電解液を一体で考える「統合設計」の実現は、水素キャリア製造、二酸化炭素の資源化、そして蓄電池や燃料電池のさらなる高性能化へとつながる、研究段階の重要な成果と言えるでしょう。

  • オペランド分光法とは: 触媒や電池などが動作しているその場で光や電磁波を用いて測定し、反応の仕組みや材料の変化を解析する技術。

杉本 宜昭氏(東京大学)

研究テーマ:パワー半導体における個々の界面準位の多次元計測技術の開発

杉本氏の研究は、電気自動車や電力機器などに使われる次世代パワー半導体の性能を妨げる「極めて微小な欠陥」を、原子レベルで一つひとつ直接捉えて分析する計測技術です。SiC(炭化ケイ素)やダイヤモンドといった新しい材料は、電力損失を大幅に減らせる可能性を秘めていますが、材料と絶縁膜の境目にあるわずかな乱れや欠陥が性能低下の原因となることが課題でした。

本研究では、原子間力顕微鏡を用いた計測技術を独自に高度化し、これまで特定が難しかった界面欠陥の位置やエネルギー状態まで原子レベルで解析することに成功しました。これにより、性能低下や不具合の根本原因を突き止めることが可能となり、超低損失パワー半導体の実用化を大きく前進させる、研究段階の画期的な成果です。

  • パワー半導体とは: 電力を効率よく変換・制御する半導体。電気自動車や電力機器などに用いられる。

  • 界面準位とは: 半導体材料と絶縁膜の境界に存在し、電気特性に影響する欠陥や電子状態。

特別賞受賞者とその研究

Moonkyong Na氏(韓国電気研究院)

研究テーマ:高信頼性パワーデバイス実現に向けた4H-SiC中の多様な構造欠陥の包括的結晶学的解析と進化機構の解明

Moonkyong Na氏の研究は、次世代パワーデバイス材料として注目される4H-SiC(炭化ケイ素の一種)に含まれる「結晶欠陥」について、その構造、でき方、変化の仕組み、そしてデバイス性能への影響を総合的に解き明かしたものです。SiCウェハー中の微細な結晶欠陥は、デバイスの性能や長期間の信頼性を左右する重要な要素ですが、その実態はこれまで十分に分かっていませんでした。

本研究では、光学観察、電子顕微鏡観察、X線解析、デバイス測定、理論計算といった多様な手法を組み合わせることで、欠陥の特徴や原子構造、形成経路、デバイスへの影響を一貫して関連付けて解析。その結果、特定の欠陥がデバイス抵抗の非線形な増加を引き起こすことなどを明らかにしました。この研究段階の成果は、SiCウェハーの品質向上と、高性能で信頼性の高いパワー半導体デバイスの実現に向けた、重要な基礎的知見を提供します。

  • 4H-SiCとは: 炭化ケイ素の結晶構造の一種。高耐圧・低損失のパワー半導体材料として注目される。

  • 積層欠陥とは: 結晶の原子配列が部分的に乱れた欠陥の一種で、半導体の性能や信頼性に影響する。

授賞式・受賞記念セミナーの開催

これらの素晴らしい研究成果は、2026年10月15日(木)に京都大学で開催される授賞式と受賞記念セミナーで詳しく紹介されます。

日程: 2026年10月15日(木)
場所: 京都大学 国際科学イノベーション棟5F(西館)「HORIBAシンポジウムホール」

プログラム(予定):

  • 第一部:受賞記念セミナー(14:00~)

    • 受賞者3名および特別賞受賞者1名による講演
  • 第二部:授賞式 (16:00~)

    • 受賞研究の紹介

    • 本賞および副賞の授与

堀場雅夫賞が拓く未来

堀場雅夫賞は、株式会社堀場製作所が創立50周年を記念して2003年に創設した研究奨励賞です。毎年テーマを定め、国内外の若手研究者や技術者を対象に、将来の発展が期待される分析・計測技術の研究を顕彰・支援しています。

カーボンニュートラルの実現に向けた世界的な取り組みが進む中で、再生可能エネルギーの導入拡大や電気自動車の普及、さらにはAIの社会実装による電力需要の増加など、エネルギーを取り巻く環境は大きく変化しています。このような時代において、安定した電力供給と環境負荷低減を両立させるためには、エネルギー変換・貯蔵デバイスの効率向上と信頼性強化が不可欠です。今回の受賞研究は、まさにこの分野の材料開発と製造プロセスの高度化を支える分析・計測技術の進展に大きく貢献するものであり、未来のエネルギー社会を創造する上で重要な役割を果たすでしょう。

堀場雅夫賞の公式サイトはこちらからご覧いただけます。