AIで創薬を「再考する」Elixの挑戦
Elixは「創薬を再考する」をミッションに掲げ、AI・機械学習を活用して、製薬企業や大学、研究機関と協力しながら事業を展開しています。彼らが提供する統合型AI創薬プラットフォーム「Elix Discovery™」は、「メドケム(医薬化学者)が本当に使える」ことをコンセプトに開発されました。
このプラットフォームは、直感的に操作できるGUI(グラフィカルユーザーインターフェース:コンピューターの画面を絵やアイコンで操作できる仕組み)を通じて、最適な化合物の予測モデルを自動で構築できます。さらに、「人間が思いつかない構造を提案する」多様な構造生成機能や、高速な化合物設計が可能です。LBDD(リガンドベース創薬設計:既存の薬や似た化合物から新しい薬の形を設計する手法)やSBDD(構造ベース創薬設計:病気の原因となるタンパク質の立体構造情報に基づいて薬の形を設計する手法)といった幅広い手法に対応しており、創薬の初期段階から開発全体を加速させることが期待されています。
Elixの詳細については、以下のウェブサイトをご覧ください。
https://www.elix-inc.com/jp
ウィーン大学の先端構造生物学研究
一方、ウィーン大学のJulien Orts准教授が率いる研究グループは、NMR分光法(核磁気共鳴分光法:分子の構造や動きを原子レベルで詳しく調べる技術)の先端的な研究を専門としています。この研究グループは、タンパク質の形状変化やシグナル伝達におけるアロステリック制御(タンパク質の特定の場所に物質が結合することで、別の場所の機能が変わる現象)に注目し、独自の手法を開発してきました。
例えば、INPHARMA(同じ標的タンパク質に結合する2種類の低分子化合物の結合様式を推定するNMR手法)や、NMR²(NMR Molecular Replacement:タンパク質と低分子化合物が結合した部位の三次元構造を迅速に求める手法)といった技術を駆使し、タンパク質の複雑な挙動を原子レベルで解明しています。
AIと構造生物学の融合で難病に挑む
今回の共同研究では、Elixが持つ計算化学的手法とAIによる分子生成技術が、ウィーン大学研究グループの構造ダイナミクスとNMRによる分子間相互作用に関する知見と組み合わされます。この連携により、従来の創薬手法では標的化が難しいとされてきた疾患へのアプローチを目指します。
特に焦点が当てられるのは、以下のタンパク質です。
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天然変性タンパク質(IDPs:Intrinsically Disordered Proteins): 決まった形を持たず、細胞内で様々な役割を果たすタンパク質。その柔軟性ゆえに薬の標的にしにくいとされてきました。
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エピジェネティック制御に関与するタンパク質: DNAの塩基配列そのものを変化させることなく、遺伝子の働き方を調節する仕組みに関わるタンパク質。その異常はがんなどの疾患と関連しています。
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がんに関与するタンパク質
AIの予測能力と原子レベルで得られる実験データを統合することで、既存の創薬アプローチの限界を超え、複雑な疾患に対する新たな治療可能性や次世代の医薬品候補の創出につながる知見の獲得が期待されます。これはまだ研究段階の取り組みですが、未来の医療に大きな影響を与える可能性を秘めています。
両者からのコメント
ウィーン大学のJulien Orts准教授は、この連携について「先端的な構造生物学と人工知能の橋渡しに取り組めることを大変嬉しく思います。この相乗効果こそが、次世代の革新的な医薬品の創出を加速するために必要なものだと考えています」と述べています。
Elixの代表取締役CEOである結城 伸哉氏も、「最先端のAI技術と実験的なイノベーションを結びつけることで、『創薬を再考する』というミッションの実現を目指しています。本共同研究により、従来の創薬手法では到達が難しかった疾患標的に対して、新たな可能性を切り拓けるものと期待しています」とコメントし、共同研究への大きな期待を寄せています。
この国際的な連携は、AIと先端科学の融合が、これまで手の届かなかった医療のフロンティアを切り拓く可能性を示しています。数年後、この研究から生まれた新しい薬が、多くの人々の命を救う未来がきっと訪れるでしょう。


