TISIと大阪大学、量子コンピュータで10,000件超の大規模電力需給最適化を実証

なぜ「組合せ最適化問題」の解決が重要なのか

物流計画、金融ポートフォリオ、製造スケジューリング、エネルギー運用など、私たちの社会には「組合せ最適化問題」と呼ばれる課題が数多く存在します。これは、多数の選択肢の中から最適な組み合わせを見つけ出す問題で、より良い意思決定を導くために不可欠です。

しかし、対象となる選択肢の数が増えるにつれて、計算量は指数関数的に増加します。このため、大規模な問題を高速かつ高精度に解くことが、長年の課題でした。特に電力需給調整においては、再生可能エネルギーの導入拡大や多様化する需要家(電力を使う家庭や事業者)のニーズに対応するため、多数の電力リソースを組み合わせる必要があり、膨大な計算量を要します。従来の手法では、このような複雑な状況への対応は困難でした。

このような背景から、TISIとQIQBは、量子計算技術を活用し、大規模な組合せ最適化問題への適用可能性を検証する共同研究を進めてきました。

新アルゴリズム「PCE」がもたらす革新

2025年に提案された「PCE(パウリ相関エンコーディング)」は、量子最適化問題に対する変分的手法の一つとして注目されるアルゴリズムです。このPCEは、多数の最適化変数(最適化の対象となる要素)を少ない量子ビット(量子コンピュータにおける情報の最小単位)で効率的に表現できるという特徴があります。これにより、これまで困難だった大規模な組合せ最適化問題への適用が期待されていました。

今回の研究では、このPCEを活用し、従来の検証規模である約20件の需要家から、一気に10,000件超という実用規模の電力リソースへと計算対象を大幅に拡張することに成功しました。これにより、利用者が増え、モデルが複雑になっても、必要な量子ビットを効率良く抑えられることが確認されました。

電力需要ポートフォリオ最適化における計算規模の拡大

商用最適化ソルバーと同等の高精度を実現

本実証では、量子計算によって算出された電力の最適な組み合わせが、既存の商用最適化ソルバーが出した最適解と高い精度で一致することが確認されました。これは、量子最適化の信頼性を裏付けるとともに、大規模な電力需給最適化への実用化が現実的であることを示しています。

上図は、近似解(貪欲法)、PCEを用いた量子計算結果、商用最適化ソルバーによる最適解を比較したものです。貪欲法では需要配分にばらつきが見られますが、PCEを用いた量子計算の結果は、希望調達電力を満たしつつ標準偏差が抑えられており、最適解と高い精度で一致しています。

社会実装への期待と今後の展望

今回の成果は、量子コンピュータを活用したPCEが、10,000件超という実用規模の組合せ最適化問題に適用可能であることを具体的に示したものです。これにより、量子技術を活用して企業の業務課題を解決し、効率化を進めるための具体的な検証段階に一歩近づいたと言えるでしょう。

電力分野に限らず、物流、金融、製造といった多様な業界における複雑な最適化問題への応用が期待され、業務効率化や競争力向上に貢献する可能性があります。

TISIとQIQBは、今後、量子最適化の取り組みに加え、量子機械学習を含む新たな量子アルゴリズムの開発にも着手し、その適用領域を拡大する予定です。これにより、データ解析や予測精度の向上など、最適化の前工程を含む幅広い業務領域に対しても量子技術を活かし、実業務での有効性を検証できる基盤を整える計画です。

TISIは、実データを用いた実証フィールドでの効果検証や、量子ハードウェアの特性を踏まえた性能向上を進め、2026年度中には量子最適化アプリの試作を行う予定です。これをTISIの脱炭素ソリューション「Carbony VPPプラットフォーム」と連携させるなど、実運用での適用可能性を検証していきます。また、量子機械学習との融合や、物流・金融・製造分野への適用検討も進め、量子アルゴリズムの社会実装をさらに加速させていくとしています。

研究を支えるコメント

TISI株式会社 技術本部 戦略技術センターの吉岡 匠哉氏は、「従来は困難であった大規模な需要・リソースの組合せ最適化において、商用ソルバーと同等精度の結果が得られたことで、量子最適化の実用性と可能性を示すことができました。今後もエネルギー分野をはじめとするさまざまな最適化課題に対し、量子技術のさらなる社会実装に向けた取り組みを加速します。」とコメントしています。

大阪大学 大学院基礎工学研究科/量子情報・量子生命研究センター兼任の藤井 啓祐教授は、「本研究では、パウリ相関に変数を埋め込むPCEを用いることで大規模な問題で量子コンピュータを用いた最適化のベンチマークを取ることができました。提案されて間もないPCEに対して、今回うまく性能を引き出すためのノウハウを構築した結果、古典の最適化ソルバーと同等の性能を出すまで性能を改善することができました。今後、更なる改善が期待できます。」と述べています。

研究開発の支援

本研究開発は、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェア研究拠点」(JPMJPF2014)と、文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)「知的量子設計による量子ソフトウェア研究開発と応用」(JPMXS0120319794)による支援を受けて実施されました。

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