台北フォーラムで示されたがん治療の未来
2026年7月3日に大阪で開催された「2026台北フォーラム(WHX Osaka)」では、このテーマが主要議題として取り上げられました。台北市政府産業発展局が率いる代表団が来日し、日本と台湾の医療機関や企業、研究者が集まり、AI医療やがん治療における技術革新について活発な議論が交わされました。
このフォーラムで、台北医学大学附設病院放射線腫瘍科の呂隆昇医師は、「台湾のがん治療と技術革新」をテーマに講演。AIと患者由来のモデルを活用した最新のがん精密医療の取り組みを紹介しました。

患者の「分身」で最適な治療薬を探す
呂医師らが2022年に発表した研究では、膵管腺癌の患者から採取した「循環腫瘍細胞(CTC)」(がん患者の血液中に存在する、がん細胞の一部)を用いて、体外で「オルガノイド」(患者から採取した細胞を体外で培養し、臓器のような立体構造を再現したモデル)を作製しました。このオルガノイドに対して9種類の抗がん剤で「薬剤感受性試験」(特定の薬剤が、がん細胞に対してどれくらいの効果を示すかを調べる試験)を実施したところ、体外での試験結果と実際の臨床治療反応との間に相関が認められました。これは、循環腫瘍細胞由来オルガノイド(CDO)が、患者ごとの「個別化医療」(精密医療と同義)に役立つ可能性を示す初期段階の研究成果です。
この研究は、今まで個々の患者に最適な治療法を見つけるのが難しかった状況に対し、体外で患者のがん細胞の「分身」を作り、治療効果を事前に予測できる可能性を示しています。これにより、患者は無駄な治療を避け、より効果的な治療を早期に開始できる未来が期待されます。
産業界の「アバター医療」サービス
産業界でも、この技術を実用化する動きが加速しています。台湾のCancer Free Biotech(精拓生技)は「アバター医療」という独自のコンセプトを掲げ、患者の検体から体外で腫瘍モデルを構築し、複数の抗がん剤に対する反応を評価しています。同社のサービス「E.V.A. Select」では、わずか20mLの血液から患者由来の体外がんアバターを作製し、薬剤反応を解析することで、医師の治療方針決定の参考となる情報を提供しています。これはすでに実用化されているサービスで、医師が患者に合った治療法を選ぶ上で強力なツールとなり得ます。
AIと機械学習が拓く個別化医療の精度向上
患者由来モデルによる薬剤反応のデータが蓄積されることで、AIの一分野である「機械学習」を活用した解析もさらに高度化しています。患者のがん種や薬剤反応の関連性を統合的に解析することで、これまで把握が難しかった治療反応の違いを明確にし、個別化医療の精度向上につながることが期待されています。
台湾のAI医療と精密医療は、患者ごとに異なる治療反応をいかに正確に理解し、最適な治療選択へ結び付けるかという共通の方向を目指しています。今後は、AIを既存データにいかに応用し、モデルの分析結果を臨床現場のニーズとどう結びつけるかが次の検討課題となるでしょう。台湾では、学術研究、臨床医療、バイオテクノロジー産業が一体となり、この新たな医療モデルの構築を進めており、日本との連携を通じた国際共同研究や技術交流のさらなる発展にも大きな期待が寄せられています。



