水中スラスター市場が急成長!2032年には2.4億ドル規模へ、海洋探査やインフラ点検を支える技術の今

水中スラスター市場、2032年には2.4億ドル規模へ成長予測

海中や湖沼で活躍する水中ドローンやロボットにとって、自由自在に動くための「推進力」は欠かせません。この推進力を生み出すのが「水中スラスター」と呼ばれる装置です。YH Research株式会社の最新調査レポートによると、この水中スラスターの世界市場が、今後大きく成長する見込みであることが明らかになりました。

レポートによれば、2025年には83.26百万米ドル(約120億円)だった市場規模が、2032年には244.63百万米ドル(約350億円)にまで拡大すると予測されています。これは、2026年から2032年までの年平均成長率(CAGR)が16.69%という、非常に高い伸びを示すものです。

市場規模推移と予測

深海探査とインフラ点検が成長を牽引

この市場成長の背景には、海洋におけるさまざまな活動の活発化があります。特に、深海での資源探査や、洋上風力発電設備、海底ケーブル、港湾、橋梁、ダムといった海洋インフラの点検・測量需要が大きく伸びています。

これらの作業は、これまで人間が行うには危険が伴ったり、コストがかかったりするものでした。しかし、水中スラスターを搭載したROV(遠隔操作無人探査機)やAUV(自律型無人潜水機)といった海洋ロボットの活用により、遠隔での作業や省人化が進んでいます。

これにより、水中スラスターには、より強力な推力制御、高い水圧に耐える耐圧性、海水による腐食に強い耐食性、そして長時間の運用に耐える耐久性といった、高性能が求められるようになっています。

用途別に見ると、2025年時点ではROV向けが消費量ベースで56%を占めており、今後も最大の用途であり続ける見通しです。アプリケーション別では、インフラ検査・測量が29%、深海・資源探査が28%と、産業用途が市場の成長を強く支えていることがわかります。

主要企業と競争環境

水中スラスター市場には、Maxon、Tianjin Haoye Technology、VideoRay、Tecnadyne、Innerspace、Deepinfar、Saab、Blue Robotics、Forum Energy Technologies、DWTEKといった企業が名を連ねています。2025年の売上ベースでは、上位5社が市場全体の約46.0%、上位10社で約65.0%を占めており、一定の集中傾向が見られます。

市場集中度と競争構造

しかし、極端な寡占状態ではなく、技術仕様、対応深度、価格帯、統合システムへの対応力などによって、各企業が独自の強みを発揮し、競争領域が分かれている「梯隊型(ていたいがた)」の市場構造となっています。

地域別では、2025年にアジア太平洋地域が販売市場の40%を占め、最大の市場となりました。中国を中心とした数量的な需要が大きく、市場規模の拡大に寄与しています。北米と欧州も、防衛、海洋エネルギー、インフラ保守、研究機関からの需要に支えられ、堅調な市場を形成しています。

進化する水中ロボットとスラスターの役割

水中ロボット市場では、単に推進部品の性能だけでなく、機体全体の制御、ペイロード(搭載できる機器や積載物)の能力、そしてさまざまな任務への適応性といった、システム全体としての競争へと軸足が移っています。

例えば、2026年1月には米国でAeroVironmentが、VideoRayを通じて「Mission Specialist Wraith」を発表しました。これは10基のベクトル型スラスター(推力の向きを自由に調整できる推進器)によって、6自由度機動性(前後、左右、上下の移動と、あらゆる方向への回転を自由に制御できる能力)と高い推力を実現し、小型無人潜水機でも高度な姿勢制御が求められる時代の流れを示しています。

また、英国のForum Energy Technologiesは、2026年3月にDOF社向けに新世代の作業級ROV(大型で高性能な、海底での重作業を目的としたROV)である「XLX EVO III」を4台供給する契約を発表しました。これは、深海作業や海底設備保守、洋上関連サービスにおいて、スラスター性能と積載能力の向上が同時に進んでいることを示唆しています。

欧州では、防衛や海底インフラ監視を目的とした自律型水中システム(AUV)の開発も加速しており、スウェーデンのSaabは、2025年8月にスウェーデン国防装備庁向けに大型無人潜水機の開発契約を締結し、2026年夏の海上試験を計画しています。これらの動きは、水中スラスターの需要が、民生・産業用途だけでなく、海洋安全保障や重要インフラ監視といった分野にも広がっていることを示しています。

今後の展望と日本企業への示唆

今後、水中スラスター市場は、アジア太平洋地域が数量的な成長を主導し、北米と欧州が高信頼性・高付加価値の用途を牽引する構図が続くと見られます。特にAUVや複合型水中ロボット向けでは、軽量化、静音性、制御精度、長寿命化が製品差別化の重要な要素となるでしょう。

日本企業にとって、この水中スラスター市場の拡大は、海洋インフラ点検、洋上風力発電、港湾保守、海底ケーブル、資源探査といった関連分野での新規事業機会に直結します。単に部品としての価格競争力だけでなく、ROV・AUVメーカーとの連携、高い耐圧・耐食設計、そして長期的な保守体制まで含めた事業性を検討することが重要です。

海外展開を考える場合、アジア太平洋地域の数量需要と、北米・欧州の高仕様需要を分けて評価することで、より的確な経営判断に資するでしょう。

本記事の内容は、YH Research株式会社の調査レポート「グローバル水中スラスターのトップ会社の市場シェアおよびランキング 2026」のデータを基に作成しています。

詳細については、以下のレポートをご覧ください。
グローバル水中スラスターのトップ会社の市場シェアおよびランキング 2026

YH Research株式会社
URL:https://www.yhresearch.co.jp