「はやぶさ2」が小惑星「トリフネ」で成し遂げた二つの「世界初」
2026年7月5日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星「トリフネ」へのフライバイ探査(高速接近通過による探査)を成功させました。この探査には、松江工業高等専門学校(松江高専)の浦川准教授と大島商船高等専門学校(大島商船高専)の末次准教授が参加し、二つの「世界初」の偉業に貢献しました。この成果は、今後の宇宙探査技術の発展に大きく寄与するものとして注目されています。

拡張ミッションに挑んだ「はやぶさ2」
「はやぶさ2」は、2020年に小惑星「リュウグウ」の探査とサンプル回収という当初の目的を達成しました。しかし、まだ燃料が残っていたため、新たな挑戦として小惑星「トリフネ」への拡張ミッションが決定されました。
この「トリフネ」へのフライバイ探査は、探査機が小惑星の近くを秒速約5kmという猛スピードで通過するわずかな時間に行われます。特に難しかったのは、「はやぶさ2」が元々フライバイ探査専用の探査機ではないため、搭載されたカメラなどの観測装置の角度を自由に変えられない点です。そのため、「トリフネ」に衝突しないギリギリの地点を通過させるには、小惑星の位置を非常に高い精度で測定する必要がありました。
世界最小の接近距離を実現した高精度な「目」
一つ目の「世界初」は、太陽系天体フライバイ探査における最小接近距離の更新です。
松江高専の浦川准教授は、この超接近フライバイを実現するための重要な役割を担いました。探査機が「トリフネ」に近づく前段階で、「はやぶさ2」から遠く離れた場所で観測された「トリフネ」の画像を解析し、その位置を高精度に測定する「光学航法」を担当したのです。光学航法とは、探査機のカメラで目標天体を撮影し、その画像から天体の位置を正確に割り出す方法です。浦川准教授は、JAXA、NASA/JPL(ジェット推進研究所)、日本電気株式会社(NEC)、富士通株式会社、日本スペースガード協会と協力し、この精密な位置特定に貢献しました。

その結果、「はやぶさ2」は「トリフネ」の中心から約744m(表面から約400m)という、これまでの太陽系天体へのフライバイ探査の中で最も近い距離を通過することに成功しました。これは、まるで高速で走る車から針の穴を通すような、極めて高度な技術の結晶です。
この成果は、JAXAのプレスリリースでも紹介されています。
一瞬を捉えたレーザー測距の偉業
二つ目の「世界初」は、小惑星フライバイ時のレーザー測距の成功です。
大島商船高専の末次准教授は、この極めて困難な距離測定に挑みました。末次准教授が担当したのは、「はやぶさ2」に搭載されたレーザー高度計を用いて、探査機と「トリフネ」間の距離を測ることです。レーザー高度計とは、レーザーを照射し、それが目標天体の表面で反射して戻ってくるまでの時間を正確に計測することで、探査機と目標天体間の距離を高精度で測定する機器です。
しかし、「トリフネ」がレーザー高度計の視野内に入る時間はわずか2秒にも満たないという過酷な条件下での挑戦でした。末次准教授は約半年にわたり綿密な準備を重ね、フライバイ本番では、最接近の約4秒前と約3秒前に反射レーザーを検知し、それぞれ約20kmおよび約15kmの距離を測定することに成功しました。これは、当初の予想を上回る素晴らしい成果です。

この偉業は、まるで疾走する馬上から小さな的を射抜く日本の伝統的な弓術「流鏑馬(やぶさめ)」のように、一瞬のチャンスを逃さずにレーザーによる距離測定を実現した、世界で初めての快挙です。
この成果もJAXAのプレスリリースで詳しく説明されています。
未来の宇宙探査への貢献
今回の「はやぶさ2」による二つの「世界初」の成果は、単なる記録更新にとどまりません。極めて高速で移動する小惑星に対し、超接近して正確な位置を把握し、さらにその場で距離を測定する技術は、将来の宇宙探査において非常に重要な意味を持ちます。
例えば、地球に接近する可能性のある小惑星を事前に調査し、その軌道を正確に予測する「プラネタリーディフェンス」(地球防衛)の技術向上に役立つでしょう。また、将来的に小惑星からの資源採取や、より遠くの天体への探査ミッションにおいても、今回確立された高精度な航法誘導や観測技術が不可欠となります。これらの技術は、まだ研究段階の側面もありますが、今回の成功は実用化に向けた大きな一歩と言えます。
松江高専と大島商船高専の研究者が貢献したこの偉業は、日本の宇宙技術の高さを示すとともに、未来の宇宙開発に大きな期待を抱かせるものです。
松江工業高等専門学校について
松江工業高等専門学校は、1964年に創設された国立高専です。5年一貫教育を通じて、実践的な技術者を育成する高等教育機関として、機械工学科、電気情報工学科、電子制御工学科、情報工学科、環境・建設工学科の5学科と、2年制の専攻科を設置しています。毎年約220名の卒業生・修了生を社会に送り出し、総計約9千名の人材を輩出してきました。

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学校名: 独立行政法人国立高等専門学校機構 松江工業高等専門学校
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所在地: 島根県松江市西生馬町14-4
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校長: 和田 清
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設立: 1964年
大島商船高等専門学校について
大島商船高等専門学校は、1897年(明治30年)に設立された船舶職員養成学校を前身とする、約130年の歴史を持つ教育機関です。日本の海運業や地域産業の発展に貢献してきました。本科3学科(商船学科、電子機械工学科、情報工学科)と専攻科2専攻(海洋交通システム学専攻、電子・情報システム工学専攻)があり、約700名の学生が山口県の屋代島(周防大島)の豊かな自然の中で学んでいます。

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学校名: 独立行政法人国立高等専門学校機構 大島商船高等専門学校
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所在地: 山口県大島郡周防大島町大字小松1091番地1
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校長: 藤本 隆士



