AIが難治性がん治療に挑む:FRONTEOとPURMX TherapeuticsがマイクロRNA核酸医薬の作用機序解明へ

マイクロRNA核酸医薬とは?新しい創薬の可能性

PURMX Therapeuticsは、広島大学発の創薬ベンチャー企業で、未修飾の天然型マイクロRNAを有効成分とする核酸医薬の研究開発を進めています。核酸医薬とは、DNAやRNAなどの核酸を有効成分とする医薬品のことで、病気の原因となる遺伝子の働きを調節することで治療を目指します。

特に注目されるのは「マイクロRNA」です。これは、2024年のノーベル生理学・医学賞の受賞対象となった研究でも重要性が再認識された「ノンコーディングRNA(タンパク質の設計図とならないRNAの総称)」の一種です。従来の医薬品が主に一つの標的分子に作用するのに対し、マイクロRNAは複数の遺伝子の働きを同時に調節する性質を持つため、多様な疾患に対応できる新たな創薬モダリティ(医薬品の作用メカニズムや構造の種類)として大きな期待が寄せられています。

複雑な作用機序の壁をAIが乗り越える

マイクロRNAの持つ多標的性は、創薬における大きな強みである一方で、その作用機序(医薬品や治療法が体内で効果を発揮するメカニズム)が複雑で解明が難しいという課題がありました。個々の分子だけでなく、複数の分子が関わるネットワーク全体を理解するアプローチが求められています。

この課題に対し、FRONTEOは独自開発した方程式駆動型AI「KIBIT(キビット)」の自然言語処理技術(人間が使う言葉をコンピューターで処理・解析する技術)を活用します。KIBITは、膨大な論文データなどから複数の標的分子や生物学的経路の関係性をネットワークとして解析し、複雑な作用機序に関する仮説を生成する能力を持っています。これにより、研究者は手作業では困難な、多角的な視点からマイクロRNAの影響を俯瞰できるようになります。

老化スイッチががん細胞を寿命制限細胞に変える概念図

PoC(実証実験)で目指す具体的な成果

今回のPoCでは、FRONTEOのAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」が中心的な役割を担います。具体的には、以下の取り組みが実施されます。

  1. PURMX Therapeuticsが開発するマイクロRNA核酸医薬の有効成分が、どのような分子ネットワークを介して疾患に作用するのかを解析し、抗腫瘍効果を説明し得る標的分子候補と作用機序に関する仮説を生成します。
  2. 解析には、PURMX Therapeuticsが保有するオミクスデータ(生体内で起きている現象を網羅的に捉えた生命科学データの総称)とその解析結果も投入されます。
  3. AIによって生成された仮説は、PURMX Therapeuticsが実験(ウェットデータ)により検証を行います。

このPoCの最終的な目標は、AIによる標的分子候補の探索と作用機序の解明、そしてその実験による検証です。この成果を通じて、PURMX Therapeuticsのパイプラインの価値を高め、将来的なライセンスアウト(他社への技術導出)に貢献することも期待されています。

論文フルテキスト解析で新たな知見を発見

マイクロRNAを用いた創薬は、低分子薬や抗体医薬と比較して研究論文が限られる領域です。そこでFRONTEOは、国際科学誌『Nature』などを発行するSpringer Nature社との協業に基づき、約600誌・過去約25年分の論文フルテキストも解析対象とします。これにより、抄録だけでは得られない本文中の記述までAIが解析し、マイクロRNAに関する新たな知見やPURMX Therapeuticsのアセット価値を最大化する情報の発見を目指します。

AI「KIBIT」、自然言語、創薬研究者が連携して創薬の仮説を生成するプロセス

難治性がん治療の未来を拓く

PURMX Therapeuticsは、悪性胸膜中皮腫を対象としたリードパイプラインMIRX002の開発を進めるとともに、頭頸部扁平上皮がんの第Ⅰ相臨床試験も実施中の臨床ステージの企業です。AIによる作用機序の解明は、こうしたパイプラインの価値をさらに高めることが期待されます。

PURMX Therapeuticsの代表取締役社長CEOである田原栄俊氏は、「非臨床で有効性が確認されたとしても、次にそれぞれの標的の作用機序を遡って解明していく必要がある。FRONTEOのAI技術と組み合わせることで、この課題を解決できることを期待している」とコメントしています。

FRONTEOの取締役兼CSO(Chief Science Officer)である豊柴博義氏も、「KIBITによる予測は、検証実験の優先順位付けにも活用できる。その成果を新規適応症の検討につなげることで、アンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療法が見つかっていない疾患における新しい治療薬や治療法などへのニーズ)の解消に寄与することを期待している」と述べており、両社がこのPoCに寄せる期待の大きさがうかがえます。

独自創薬プラットフォームから開発されている複数のmiRNA治療薬候補のパイプライン

このPoCは、AIとバイオテクノロジーの融合が、これまで手の届かなかった難治性がん治療の扉を開く可能性を示しています。研究段階ではありますが、AIが複雑な生命現象を解き明かすことで、より効果的な治療薬の開発が加速し、多くの患者さんの未来に希望をもたらすことが期待されます。

関連情報