自動車用イーサネットPHYトランシーバーとは?
「自動車用イーサネット物理層(PHY)トランシーバー」は、自動車の電子部品間でデータをやり取りするための「翻訳機」のような役割を果たす半導体部品です。車の「脳」にあたる各種ECU(電子制御ユニット:自動車の各機能を制御する小型コンピューター)や、カメラ、センサーなどから送られてくる膨大なデジタル情報を、イーサネットケーブル経由で伝送可能な電気信号に変換し、またその逆の変換も行います。
これにより、現代の車両におけるECU、センサー、アクチュエーター(電気信号を物理的な動きに変換する装置)間の高速、低遅延、かつ信頼性の高いデータ通信が保証され、クルマのさまざまな機能がスムーズに連携します。
市場は2032年に2兆円規模へ急成長の見込み
この技術の世界市場は、2025年の5億3400万米ドルから、2032年には21億6400万米ドル(日本円で約2兆円、1ドル140円換算)へと大きく拡大すると予測されています。2026年から2032年にかけての年平均成長率(CAGR:年間の平均成長率)は22.6%と見込まれており、その成長の勢いがうかがえます。
2024年には、すでに世界の自動車用イーサネットPHYトランシーバーの生産台数は約2億5,000万台に達し、世界平均市場価格は1台あたり約1.95米ドルでした。
なぜ今、イーサネットが必要なのか?
自動車の進化、特にADAS(先進運転支援システム:自動ブレーキや車線維持支援など、運転をサポートする機能の総称)や自動運転機能の高度化、そして高精細なインフォテインメント(情報と娯楽を融合したシステム)の普及が、イーサネットPHYトランシーバーの需要を押し上げています。
高解像度カメラ、レーダー、LiDAR(レーザー光を使ったセンサー)などのセンサーから得られる膨大なデータをリアルタイムで処理するためには、従来の車載ネットワークでは帯域幅(一度に送れるデータ量)が不足していました。そこで、オフィスや家庭で使われる信頼性の高い高速通信技術であるイーサネットが自動車にも応用され、これらの課題を解決する基盤となっています。
また、ソフトウェアによって機能が定義・更新される「ソフトウェア定義車両(SDV)」の実現にも、イーサネットは不可欠な技術です。
進化する通信速度:100Mbpsから1Gbit以上へ
自動車用イーサネットPHYトランシーバーは、データ転送速度によって主に3つのセグメントに分類されます。
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100 Mbps: 比較的シンプルなECU間の通信や、コストを重視するアプリケーションで引き続き採用されています。
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1000 Mbps (ギガビット): 高解像度サラウンドビューカメラ、ADAS、インフォテインメント、車載データ集約などのアプリケーションにおける帯域幅の需要を満たす主流のソリューションとして台頭しています。性能とコスト効率の最適なバランスを提供しており、市場の大きな割合を占めています。
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1 Gbit以上(2.5G、5G、10Gなど): 自動運転システムの進化や、さらにデータ集約型の車載ネットワークの普及に伴い、今後さらに勢いを増していくと見込まれています。
多様な用途と市場を牽引する地域
用途別では、乗用車が自動車用イーサネットPHY市場を牽引しており、2024年の世界市場需要の約75%を占める見込みです。これは、量産車および高級乗用車におけるADAS、デジタルコックピット、集中型車両コンピューティングプラットフォームの採用拡大によって後押しされています。また、物流、公共交通、建設分野において、フリート管理(車両運行管理)、リアルタイム診断、コネクティビティ(接続性)の重要性が高まるにつれて、商用車も成長セグメントとなっています。
地域別では、アジア太平洋市場が世界の自動車用イーサネットPHYトランシーバー消費量の最大のシェアを占め、2024年には57%に達する見込みです。この優位性は、同地域の堅調な自動車製造エコシステム、急速な電動化、そして従来の自動車メーカーと新興EVブランド双方によるソフトウェア定義車両(SDV)の台頭によって牽引されています。特に中国、日本、韓国などの国々が主要な貢献国です。
課題と今後の展望
市場の成長にはいくつかの課題も存在します。異なるメーカーのPHYコンポーネント間の相互運用性の確保、長距離ケーブル配線における信号品質の維持、厳格な自動車グレードの認定基準への適合は、設計サイクルの遅延を招く可能性があります。また、量産乗用車におけるコストへの敏感さや、マルチギガビットトランシーバーの統合による設計の複雑さ、消費電力の増加も課題です。
しかし、これらの課題を乗り越え、次世代のトランシーバー技術や通信プロトコルの導入が進むことで、自動車のネットワークはさらに進化するでしょう。これにより、自動車の安全性、効率、そして機能性が向上し、より安全で快適なモビリティ社会の実現に貢献することが期待されます。
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