日本の電動スクーター市場、2035年には約3倍の78.9億米ドル規模へ急成長の見込み

未来の都市交通を担う電動スクーター:日本の市場が大きく変貌

株式会社マーケットリサーチセンター

日本の電動スクーター市場が、2026年から2035年にかけて大きく成長することが予測されています。株式会社マーケットリサーチセンターが発表した調査資料によると、2025年時点で26.8億米ドル規模である市場は、年平均成長率(CAGR)11.4%で拡大し、2035年には78.9億米ドルに達すると見込まれています。

この成長の背景には、環境への意識の高まり、都市部での効率的な短距離移動の需要、政府による電気自動車(EV)支援策、そして燃料費や維持費の削減といった様々な要因があります。特に、シェアリング型モビリティの普及や、バッテリー交換インフラの整備が、市場拡大の重要な鍵となるでしょう。

環境意識と政策が後押しする電動モビリティの未来

日本では、運輸部門における二酸化炭素(CO₂)排出量の削減が喫緊の課題とされており、ガソリン車から電動モビリティへの転換が強く推進されています。電動スクーターは、走行時に排出ガスを出さないため、都市部の短距離移動において環境負荷の低い選択肢として注目されています。

政府の政策もこの流れを加速させています。2023年には、特定の条件を満たした電動キックボードについて、16歳以上であれば運転免許が不要となり、手軽に利用できるようになったことで、市場の拡大を後押ししました。さらに、経済産業省(METI)のデータによると、2023年時点で国内に約3万カ所の公共EV充電ポイントがあり、2030年末までに30万カ所へ拡大する目標が掲げられています。このような充電インフラの整備は、四輪EVだけでなく、電動スクーターを含む小型電動モビリティ全体にとって追い風となると考えられます。

また、2026年4月には、クリーンエネルギー車向けの補助制度が拡充され、製造段階でのCO₂排出量を削減した「グリーンスチール」(製造過程でCO₂排出量を大幅に削減した鉄鋼)を供給網に取り入れるEVメーカーがより高く評価される仕組みが導入される予定です。これは、車両の走行時だけでなく、製造過程全体の環境負荷を評価する新たな動きと言えるでしょう。

シェアリングとバッテリー交換がもたらす利便性の向上

シェアリング型マイクロモビリティの拡大

東京や大阪のような人口密度の高い都市では、自家用車を所有せず、必要な時だけアプリを通じてスクーターを利用するシェアリング型マイクロモビリティの需要が拡大しています。2024年10月には、国内の電動マイクロモビリティサービスを提供するLuupが30億円を調達し、サービス拡大を推進しました。

これらのサービスは、鉄道駅から自宅やオフィスまでの「ラストワンマイル」(最終目的地までの短い距離)を埋める交通手段として特に相性が良く、公共交通機関を補完する役割を担っています。

バッテリー交換インフラの進化

バッテリー交換システムも市場の重要な成長要因です。従来の充電方式では、充電が完了するまで車両を停止させる必要がありましたが、交換式バッテリーであれば、消耗したバッテリーを充電済みのものと入れ替えるだけで、車両の稼働停止時間を大幅に短縮できます。これは、特に配送や物流など、高い稼働率が求められる商業用途において大きなメリットとなります。

大手二輪メーカーも電動化を加速させており、HondaやYamahaなどがバッテリー交換サービスの協業を進めています。特にHondaは2026年4月、Gachacoへの追加出資を通じて同社を連結子会社化しました。GachacoはHonda、ENEOS、Kawasaki、Suzuki、Yamahaなどが関与するバッテリー交換サービスで、東京や大阪を中心に電動二輪向けの交換拠点を展開しています。

ただし、Mitsubishi Fuso、Mitsubishi Motors、Ample、Yamato Transportによる150台超の交換式EVと14カ所の交換ステーションを使う東京実証は、電動スクーター専用の事例ではないため、電池交換インフラ全体の進展を示す関連事例として捉えるのが適切です。

製品の多様化と技術革新

小型化・折りたたみ式の需要

住宅やオフィスの収納スペースが限られる都市部では、持ち運びやすさ自体が重要な製品価値となります。2023年12月には、日本のスタートアップShimizuが、13インチノートPC程度のサイズまで折りたため、バックパックにも収まる試作車「Arma」を発表しました。このような革新的な製品は、今後の市場に新たな可能性をもたらすでしょう。

バッテリー技術の動向

バッテリーの種類では、密閉型鉛蓄電池(SLA)、リチウムイオン電池(Li-Ion)、ニッケル水素電池(NiMH)が挙げられます。

  • 密閉型鉛蓄電池(SLA):比較的安価で、技術的な実績も長いため、エントリーモデルや価格を重視する用途で需要が見込まれます。

  • リチウムイオン電池(Li-Ion):高エネルギー密度、軽量性、急速充電性能に優れ、成長性の高いカテゴリーです。都市部では車体重量と航続距離が購入判断に直結するため、長距離化と軽量化を両立しやすいリチウムイオン電池の優位性は大きいと言えるでしょう。2025年1月には、MazdaがPanasonicと連携し、山口県に年間10GWh規模のリチウムイオン電池モジュール工場を設ける計画を進めたとされています。

  • ニッケル水素電池(NiMH):安全性や熱安定性、コストと性能のバランスが評価されています。予測期間中の年平均成長率(CAGR)は12.7%と見込まれています。

なお、資料内ではニッケル水素電池が最大シェアを占めるとの説明がある一方で、別の箇所ではリチウムイオン電池が最大のシェアを占めるとの見出しもあり、バッテリーカテゴリーの最大シェアについては断定を避ける必要があります。

高電圧化と製品タイプの多様化

電圧別では、48V超のモデルが最大のシェアを占めるとされています。高電圧化により、速度、航続距離、積載能力を高めやすいため、長距離通勤や商業用途に適しています。また、スタンディング/セルフバランシングタイプが製品タイプ別で最大のカテゴリーであり、2026年から2035年の年平均成長率も13.2%と最も高く、都市部でのコンパクトで携帯しやすい移動手段として支持されています。

商業フリートの電動化と主要企業の動向

物流・配送企業では、ラストワンマイル配送の脱炭素化を進める動きが活発です。初期投資の大きさが課題となる中で、Hitachi ZeroCarbonとMUFG Bankが2025年5月にフリート事業者の電動化支援で協業するなど、金融機関と技術企業が連携し、資金調達と運用支援を組み合わせる動きが見られます。

競争環境では、Elesco(電池管理・電動化部品)、Segway Japan(キック型・セルフバランシング型)、Luup(シェアリング)、Honda(電動二輪と交換式バッテリー)などが主要企業として存在感を放っています。特にLuupは、2018年に東京で設立され、東京、大阪、京都などで電動スクーターとe-bikeのシェアリングを展開し、1万カ所以上のポートを持つ国内有力事業者として市場を牽引しています。

Hondaは2023年8月に日本で電動スクーター「EM1 e:」を投入し、交換可能なモジュール式バッテリーを採用。Gachacoとの連携強化も含め、車体販売だけでなく電池インフラまで含めたエコシステム形成を進めています。

まとめ:日本の電動スクーター市場が描く未来

日本の電動スクーター市場は、今後10年間で大きく変貌を遂げるでしょう。市場拡大の鍵となるのは、「都市型マイクロモビリティ」「シェアリング」「交換式バッテリー」「充電インフラ」「政府補助」などが一体となった、総合的な移動サービスとしての利便性です。電動スクーター単体の性能だけでなく、鉄道との接続、シェアリングポート、交換式電池、アプリ決済などを組み合わせた新しい移動体験が、私たちの生活をより便利で持続可能なものに変えていくと期待されます。

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