なぜ手術ナビゲーションシステムが求められるのか
手術ナビゲーションシステムは、CTやMRIといった術前の画像情報と、手術器具の現在の位置情報を組み合わせて、医師が患者の解剖学的な位置をリアルタイムで把握できるようにする技術です。特に、脳、脊椎、関節、耳鼻咽喉といった、わずかな位置のずれが治療結果に大きく影響する手術でその価値を発揮します。
日本は高齢化が進んでおり、脳神経疾患や整形外科疾患の患者が増加傾向にあります。これに伴い、「低侵襲手術」(小さな切開で身体への負担を最小限に抑える手術)への需要が高まっています。ナビゲーションシステムは、切開範囲を小さく保ちながら、目標の病変や部位へ正確に到達する低侵襲手術と非常に相性が良く、このことが市場拡大の大きな支えとなっています。
技術の進化:電磁式と光学式
手術ナビゲーションシステムには、主に「電磁式」と「光学式」の2つの技術があります。
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電磁式:患者や手術器具に取り付けたセンサーを磁場内で追跡し、位置情報を取得する仕組みです。手術中に医師の視線が遮られやすい状況でも利用しやすいという強みがあります。歴史的に約40%のシェアを占めてきたとされています。
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光学式:カメラと反射マーカーなどを用いて器具の位置を追跡します。高い位置精度を得やすい一方で、カメラとマーカーの間に遮蔽物が入ると追跡が難しくなることがあります。手術の部位や手順に応じて、これらの技術が使い分けられています。
広がる活用分野:神経外科と整形外科・脊椎外科
歴史的に「神経分野」が手術ナビゲーションシステムの最大の用途であり、約36%のシェアを占めてきました。脳神経外科では、腫瘍の摘出や深部病変へのアプローチ、機能外科手術において、ミリ単位の正確性が求められるため、ナビゲーション技術の導入価値が非常に高いです。特に、パーキンソン病のような神経変性疾患の患者増加も、深部脳刺激療法などの高度な神経外科手術における精密ナビゲーションの需要を支える要因となっています。
また、「整形外科・脊椎外科」も重要な成長分野です。人工関節置換術や脊椎固定術では、インプラントやスクリューを最適な位置に設置することが重要であり、術前計画と術中ナビゲーションの組み合わせが有効活用されています。
未来の医療を拓く:ロボットとAIとの融合
手術ナビゲーションシステムは、単独の技術としてだけでなく、他の先進技術との統合によって、さらに進化を遂げています。
ロボット支援手術との統合
「ロボット支援手術」との統合は、市場の大きなトレンドです。2024年9月には、MicroPort MedBotの「SkyWalker整形外科手術ロボット」が日本の厚生労働省から承認されたとされています。このロボットは、人工膝関節全置換術において、ロボットとナビゲーションを組み合わせ、術前計画に沿った骨切りやインプラント配置を支援する技術として位置づけられています。このような承認は、病院が高度なロボット支援手術を導入するハードルを下げ、普及を後押しすると考えられます。
今後は、単独のナビゲーションシステムではなく、ロボット、術中画像、AIを統合したプラットフォーム型製品が増加すると予測されます。
AIの活用による術前計画の進化
「AI(人工知能)」の活用も、手術ナビゲーションシステムの未来を大きく変える要素です。2025年3月には、OlympusがZiosoftと協力し、肝臓、肺、腎臓の手術を対象とするAI対応の臨床意思決定支援ツールを投入したと報告されています。このプラットフォームは、2D画像を3Dモデルへ変換し、術前計画や低侵襲手術を支援するものです。
AIによって画像解析や臓器・血管構造の抽出が自動化されれば、術前計画にかかる時間を短縮し、手術中に重要な構造を見落とすリスクを抑える可能性があります。今後の手術ナビゲーションは、単なる位置表示だけでなく、AIによる解剖構造の認識や手術計画の提案へと進化していくでしょう。ただし、AI支援はあくまで術者の判断を補助するものであり、実用化には精度検証や規制承認、学習データの品質確保が重要です。
導入の現状と今後の課題
エンドユーザーとしては、「病院」が最大のカテゴリーであり、歴史的に約46%を占めてきました。高度な画像設備、専門医、手術室インフラが整っているため、新しいナビゲーション技術を導入しやすい環境があります。例えば、2023年12月には名古屋大学病院が小児手術向けに「Senhance Surgical System」を導入したとされており、大学病院が高度なロボット支援手術を積極的に導入する流れを示しています。
一方で、高額な導入費用、既存の手術室システムとの統合、スタッフの教育などが、市場拡大における課題となり得ます。特に小規模な病院では、大型のナビゲーションシステムやロボットの導入は経済的な負担が大きいため、高度な医療機関を中心に導入が進む可能性があります。
主要企業と競争環境
この市場では、Medtronic、Corin Group、Siemens Healthineers、DePuy Synthesなどが主要企業として紹介されています。各社は、脳神経外科から整形外科まで、様々な分野に対応する製品を展開し、ナビゲーションとロボット支援を組み合わせた統合ソリューションの提供を進めています。
例えば、Medtronicは脳神経、脊椎、耳鼻咽喉領域で画像誘導手術を支援するシステムを展開。Corin Groupは人工膝関節置換術向けのロボット支援手術プラットフォームを提供しています。また、Siemens Healthineersは術中画像装置「Ciartic Move」を発表し、DePuy Synthesはスタンドアロンナビゲーションとアクティブロボティクスを一体化した脊椎手術プラットフォームを投入するなど、各社が技術革新と統合ソリューションの開発に注力しています。
競争の軸は、単なるトラッキング精度だけでなく、術前画像、術中画像、AI、ロボット、器具追跡、電子記録をどこまで一つのシステムとして統合できるかに移行しています。また、システムを導入しても、術者が使いこなせなければ十分な効果は得られないため、外科医の教育改善も市場拡大の重要な要因とされています。
まとめ:未来の手術室へ
日本の手術ナビゲーションシステム市場は、2035年に向けて着実に成長し、単なる位置案内システムから、画像・AI・ロボットを統合して術前計画から術中実行までを支援する「精密手術プラットフォーム」市場へと発展していくと考えられます。これらの技術が広く普及することで、より多くの患者が安全で負担の少ない手術を受けられる未来が期待されます。
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