下水汚泥が「地域の資源・エネルギー拠点」に?ライノフラックスと水ingが新技術で高効率発電・高純度CO2回収の実証を開始

下水汚泥が未来のエネルギー源に?ライノフラックスと水ingが新技術の実証を開始

京都大学発のスタートアップであるライノフラックス株式会社と、水処理・汚泥処理の専門企業である水ing株式会社が、下水汚泥を未来の資源・エネルギー源へと変える可能性を秘めた新技術の実証試験を開始しました。この取り組みは、下水処理場が単なる「汚泥処理の場」から「地域の資源・エネルギー拠点」へと進化する第一歩となるかもしれません。

Rhinofluxと水ingのロゴ

湿式ケミカルルーピング技術とは?

今回実証されるのは、ライノフラックスが開発する「湿式ケミカルルーピング技術」です。これは、京都大学の蘆田隆一講師の基礎研究を基盤とした、画期的なエネルギー変換技術。従来のバイオマス発電のように燃焼させることなく、水溶液中の化学反応を利用して電力を生み出します。

何がすごいのか?

  1. 高効率発電: 従来のバイオマス発電に比べて約2~4倍もの発電効率を実現する可能性があります。これにより、同じ量のバイオマス(生物由来の有機資源)から、より多くの電力を取り出すことが期待されます。
  2. 高純度CO2回収: 発電と同時に、99.9%以上の高純度な二酸化炭素(CO2)を分離・回収できます。このCO2は、地球温暖化対策に貢献するだけでなく、液化炭酸ガスとして産業利用されるなど、新たな価値を生み出す可能性も秘めています。
  3. 多様な原料に対応: 水溶液中の反応を利用するため、木質バイオマスや食品残渣だけでなく、下水汚泥のように水分を多く含むバイオマスにも適用可能です。
  4. 柔軟な設置: 燃焼設備が不要なため、装置の規模を柔軟に設計でき、原料が発生する工場やプラント、水インフラ施設などへの「オンサイト導入」(現場設置)が容易になります。

湿式ケミカルルーピング技術のフロー図

下水汚泥での小規模実証がスタート

両社はこれまで、この技術が下水汚泥に適用可能であるか、また事業として成立するかを評価する「フィージビリティ・スタディ(F/S)」(実現可能性調査)を実施し、その見通しを確認しました。これを受け、次の段階として、2026年7月から2027年1月までの期間、ライノフラックスの研究所内で小規模な実証試験を開始しています。

この実証では、最大1kWの出力を持つプロトタイプ(試作機)に下水汚泥を投入し、長時間連続運転を行います。汚泥の減容化(体積を減らすこと)、発電、CO2回収に関する具体的なデータを取得し、下水汚泥の有効活用策の検討や、将来的な大型機(パイロット機・商用機)の開発に役立てられます。

下水処理施設が抱える課題を解決し、新たな価値を創造

この技術が実用化されれば、下水処理セクターに複数の社会的価値をもたらすことが期待されます。

  • 汚泥処理の負担軽減: 下水汚泥の処理には、脱水、焼却、埋立、外部処分など多くのコストとエネルギーがかかります。本技術による汚泥減容化は、これらの処理・輸送・最終処分にかかる負荷を大幅に軽減するでしょう。

  • エネルギーの地産地消: 下水汚泥は、地域で安定的に発生するバイオマス資源です。高効率な発電が可能になれば、下水処理場のエネルギー自立性を高め、運転コストの低減にもつながります。

  • 脱炭素化と炭素利用: 回収されたバイオマス由来のCO2は、「CDR市場」(二酸化炭素除去市場)でのクレジット化や、液化炭酸ガスとしての産業利用など、多様な形で活用され、下水道事業における新たな収益機会や脱炭素投資の原資創出に貢献する可能性があります。

将来のロードマップ:2028年以降の商用化を目指す

ライノフラックスは、この技術の実用化に向けて「ラボ」「プロトタイプ」「パイロット機」「商用機」「大規模プロジェクト」の5段階で事業開発を進めています。すでに1kWプロトタイプでは、累計240時間以上の安定運転を達成し、現在は出力を拡大した20kWパイロット機の開発に着手しています。

今回の下水汚泥を用いた実証で得られる知見も、このパイロット機や将来の商用機設計に反映される予定です。2028年以降には100kW級の商用初号機の市場投入を目指し、その後は100kW〜2MW級の商用機を、工場やプラント、水インフラ施設向けに展開していく計画です。

大規模な産業機械のイメージ

各社の役割と未来への期待

本実証では、水ingが長年培ってきた水処理・汚泥処理分野の深い知見と、ライノフラックスの湿式ケミカルルーピング技術が組み合わされます。水ingは汚泥の特性把握や処理プロセスとの接続条件の整理、水インフラ施設への導入検討を担い、ライノフラックスは技術の研究開発、プロトタイプの運転、データ取得・技術検証を担当します。

水ingとRhinofluxの役割図

ライノフラックスの代表取締役CEOである間澤 敦氏は、「下水汚泥は、地域で安定的に得られる数少ない未利用の地域エネルギー源であり、これを『国産エネルギー』および炭素資源として捉え直すことは、日本のエネルギー自立にも大きな可能性を持つ」とコメントしています。

ライノフラックス代表取締役CEOの間澤 敦氏

この技術が社会に実装されれば、下水処理場は単なる廃棄物処理施設ではなく、地域の電力と炭素価値を生み出す「創エネルギー拠点」へと変貌を遂げるでしょう。脱炭素化とエネルギー安全保障(エネルギーの安定的な供給を確保すること)の両立が求められる現代において、この取り組みが日本の未来を大きく変えるかもしれません。

各社の概要

ライノフラックス株式会社

京都大学発のスタートアップとして、湿式ケミカルルーピング技術を活用した次世代バイオマス発電・CO2回収技術の開発に取り組んでいます。食品残渣、木質バイオマス、下水汚泥など、これまで有効活用が難しかった多様なバイオマス資源を対象に、分散型の発電・CO2回収ソリューションの社会実装を目指しています。

水ing株式会社

「生命の源である『水』を通じていつまでも社会に貢献し続ける『ing』」を経営理念に掲げ、水処理施設(浄水場、下水処理場、汚泥再生処理センター、し尿処理場、民間施設等)の設計・建設から運営、維持管理までをトータルに手掛けています。