未利用資源から重要鉱物を回収する「バイオマイニング」:微生物の力で未来を拓く技術トレンド

未利用資源から重要鉱物を回収する「バイオマイニング」:微生物の力で未来を拓く技術トレンド

近年、世界中で脱炭素化(二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)や電動化(自動車や産業機械などを電気で動かすようにすること)の動きが加速しています。これに伴い、AI(人工知能)やデータセンター(大量のサーバーを集中させた施設)の拡大も進み、銅、リチウム、ニッケル、コバルト、レアアースといった重要鉱物(産業や技術の発展に不可欠であり、供給が不安定になりがちな鉱物資源)の需要が飛躍的に伸びています。

しかし、これらの鉱物の安定的な確保は世界的な課題となっており、国際エネルギー機関(IEA)は、現在の鉱山開発プロジェクトを考慮しても、2035年には銅の供給が需要を約25%下回ると予測しています。新規鉱山の開発には長い年月がかかる上、既存鉱山では鉱石品位(鉱石に含まれる有用な金属の割合)の低下が進んでいます。品位が低いほど、より多くの鉱石を採掘・処理する必要があり、エネルギーやコスト、環境への負荷が増大してしまいます。

こうした状況を打開するため、これまで十分に利用されてこなかった資源を新たな供給源として活用する技術が注目されています。その中心にあるのが、微生物の力を利用して金属を回収する「バイオマイニング」です。

青いグローブの手が暗い粒状の物質を持つ画像

バイオマイニングとは?

バイオマイニング(biomining)は、微生物や微生物由来の物質の働きを利用して、鉱石や様々な廃棄物から金属を回収する技術の総称です。対象となる資源は多岐にわたり、有用な金属の含有量が少ない「低品位鉱」や、鉱石から有用な部分を選り分けた後に残る「鉱山尾鉱(ざんさ)」のほか、鉱山廃水、電子廃棄物、使用済みリチウムイオン電池、廃触媒、赤泥、焼却灰などが含まれます。これらは金属を含んでいるものの、品位や組成、処理コストの問題からこれまで利用が難しかった原料を、新たな金属供給源に変える可能性を秘めています。

バイオマイニングは、高温で鉱石を溶かす乾式製錬(高温製錬)に比べて、比較的温和な条件で処理できるという特長があります。そのため、対象となる原料と工程の組み合わせによっては、従来法では採算が合わなかった低品位鉱や廃棄物から、エネルギーや薬剤の投入量を抑えつつ金属を回収できる可能性があります。これは、環境負荷の低減にも繋がる画期的なアプローチと言えるでしょう。

多様なバイオマイニング技術

バイオマイニングは単一の技術ではなく、金属回収工程のどの段階に生物機能を組み込むかによって、以下のように整理できます。

  • バイオフロテーション(Bioflotation): 微生物の細胞表面の特性や代謝産物を利用し、従来の浮遊選鉱(鉱石を細かく砕き、水と薬剤で泡を立てて、目的の鉱物を泡に乗せて分離する選鉱方法)における鉱物の分離精度を向上させる技術。

  • バイオリーチング(Bioleaching): 微生物が生命活動の過程で生成・再生する酸や酸化剤、錯化剤を利用し、不溶性の鉱石や廃棄物に含まれる目的金属を溶液中に溶かし出す(浸出させる)技術。

  • バイオ酸化(Biooxidation): 金などの貴金属回収において、目的金属を包み込んでいる硫化鉱物マトリクス(硫黄と金属の化合物が目的の金属を包み込む構造)を微生物によって選択的に酸化・分解し、後段の化学抽出の効率を高める前処理技術。

  • 液中からの金属回収:

    • バイオソープション(Biosorption): 溶液中に溶け出した金属イオンを、微生物の細胞や代謝産物が吸着して濃縮する技術。

    • バイオ沈殿(Bioprecipitation): 微生物の働きで、溶液中の金属イオンが不溶性の化合物として沈殿し、回収される技術。

    • 生物電気化学系(Bioelectrochemical Systems:BES): 微生物の電気化学的な代謝プロセスを利用して、溶液中の金属を濃縮、分離、回収する技術。

アスタミューゼ株式会社は、これらの微生物や微生物由来分子を利用した金属回収技術、すなわちバイオマイニングに焦点を当て、同社独自のイノベーションデータベース(論文、特許、スタートアップ、グラントなどの研究開発情報)を分析し、その動向をレポートとしてまとめました。

特許動向から見るバイオマイニングの技術トレンド

アスタミューゼの特許データベースから、「バイオマイニング」「バイオリーチング」「バイオフロテーション」などの技術用語を含む特許を検索したところ、2,072件が抽出されました。出願国・地域別の年次推移を見ると、興味深い傾向が明らかになっています。

2015年から2025年までの出願件数を国・地域別に積み上げ棒グラフで示したものです。中国が主要な部分を占め、各国の出願動向の経年変化を視覚的に把握できます。

出願件数の約半数にあたる1,043件が中国からの出願でした。中国では、中南大学、清華大学、中国科学院過程工程研究所など、大学や公的研究機関による出願が多く、特定の企業に集中せず、複数の研究機関に分散しているのが特徴です。これは、鉱物処理や環境技術に関する幅広い研究基盤が国内での特許出願に結びついていることを示唆しています。

一方、企業による出願では、オーストラリアおよびアメリカのRio Tinto Group、アメリカのJetti Resources社とLocus Solutions社、ニュージーランドのMint Innovation社、ドイツのBASF社、イギリスのAnglo American社などが存在感を示しています。

日本からの出願は45件で、全体の2.2%を占めています。出願人には、株式会社ガルデリア、JX金属、芝浦工業大学、住友金属鉱山、九州大学、IHIといった非鉄製錬企業や大学が名を連ねています。特に注目すべきは共同出願の多さで、例えば芝浦工業大学とJX金属は金属結合ペプチドを、九州大学と住友金属鉱山は難処理鉱石の前処理と浸出を、それぞれ連名で出願しています。

特許出願の構造は大きく3つに分けられます。中国では大学や公的研究機関が中心となって幅広く権利化を進め、欧米やオセアニアでは鉱山操業や金属回収プロセスを事業化する企業が特定の技術を集中的に権利化しています。そして日本では、非鉄製錬企業と大学が共同で出願するケースが主流です。なお、バイオマイニング関連のスタートアップ企業のうち、特許出願が確認できたのは一部に過ぎず、新興企業の多くは権利化以外の手段で市場参入していることがうかがえます。これは、特許の公開までに時間がかかるため、近年設立された企業の出願がまだ反映されていない可能性も考えられます。

技術要素の進化と未来予測

アスタミューゼは、文献に含まれるキーワードの年次推移から、近年進展が見られる技術要素を特定する「未来推定」分析を実施しています。これは、キーワードの変遷を追うことで、すでに注目度が低下した技術や今後注目されると予測される技術を定量的に評価し、各技術要素の成熟度(黎明・萌芽・成長・実装)を予測する分析手法です。

2015年以降に出願されたバイオマイニング関連特許のキーワードの年次推移を見ると、技術の深化と応用の広がりが明確に見てとれます。

微生物を利用したバイオリーチングや金属抽出技術の概要を表形式で示した画像です。2015年から2024年までの年間件数、成長率、トレンドグラフが含まれ、技術開発の動向を一覧できます。

近年の特許では、「pre-leaching(浸出前処理剤)」「biolixiviant(微生物が生産する浸出剤)」「iron-sequestering(鉄を捕捉する働き)」「lanmodulin(希土類(レアアース)と結合するタンパク質)」など、金属回収工程へ組み込む生物機能に関連したキーワードの出現頻度が増し、権利化が進んでいることがわかります。これは、単に菌株の培養条件だけでなく、生物機能を組成物や回収材料、処理工程として保護し、既存の鉱物処理工程へ導入できる技術単位として特許を押さえる動きが強まっていることを示しています。

バイオマイニングが拓く未来

バイオマイニングは、世界的な重要鉱物不足という喫緊の課題に対し、持続可能かつ環境負荷の低い解決策を提供する可能性を秘めています。低品位鉱や様々な廃棄物から貴重な金属を回収できるこの技術は、資源の有効活用を促進し、循環型社会の実現に大きく貢献することが期待されます。

現在、多くの技術が研究開発段階にありますが、特許動向に見られるように、微生物の機能を既存の金属回収プロセスに組み込むための具体的な技術開発が進んでおり、実用化への道筋が着実に描かれています。この革新的なアプローチが、私たちの産業と生活を支える新たな資源供給源となる未来は、そう遠くないかもしれません。

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