肝腫瘍との闘い:新たな治療法が求められる背景
肝臓にできる悪性腫瘍、特に肝細胞癌(HCC)は、世界中でがんによる死亡原因の上位を占める深刻な病気です。2020年には世界で約90万6,000件の新規症例が報告され、約83万人が命を落としました。慢性肝疾患、ウイルス性肝炎、肝硬変などがリスク因子となり、進行すると予後不良となるケースが少なくありません。このため、より効果的で安全性の高い治療薬の開発が強く求められています。
「パイプライン分析」が示す新薬開発の全体像
「パイプライン」とは、製薬業界において開発中の新薬候補群を指す言葉です。今回発表された「肝腫瘍パイプライン分析2026」は、この開発中の肝腫瘍治療薬の全体像を包括的に分析したグローバル市場調査レポートです。臨床試験の段階(フェーズ)、医薬品の種類、投与経路、商業的な評価など、多角的な情報が盛り込まれており、現在の開発動向と将来の展望を把握する上で重要な資料となります。
現在、100種類以上の薬剤候補が開発中で、50社以上の企業がこの分野に参入しています。レポートによると、精密医療(患者一人ひとりの遺伝子情報や病態に合わせて治療法を選ぶアプローチ)や免疫療法(患者自身の免疫力を利用してがんを攻撃する治療法)といった革新的なアプローチに注目が集まっており、今後数年間で治療市場が大きく成長すると予測されています。

臨床試験の動向:中期開発段階が最も活発
新薬開発は通常、以下の臨床試験フェーズを経て承認に至ります。
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第Ⅰ相試験: 少数の健康なボランティアや患者を対象に、安全性や薬の基本的な動き(薬物動態)を確認する初期段階。
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第Ⅱ相試験: 比較的少数の患者を対象に、有効性(病気に対する効果)と安全性、適切な投与量を探る中期段階。
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第Ⅲ相試験: 大規模な患者数を対象に、既存の治療法と比較して有効性と安全性を最終的に確認する後期段階。この段階をクリアすると、承認申請が可能になることが一般的です。
今回の分析では、肝腫瘍治療薬のパイプラインにおいて、第Ⅱ相試験が全体の51%を占め、最も大きな割合となっています。これは、多くの薬剤候補が初期の安全性確認を終え、効果の検証段階に進んでいることを示唆しています。続いて第Ⅰ相が30%、第Ⅲ相が13%となっており、今後、これらの薬剤が後期開発段階へと移行し、新たな治療選択肢として患者に届くことが期待されます。
注目される主要な薬剤候補とそのアプローチ
肝腫瘍治療薬のパイプラインには、小分子化合物、モノクローナル抗体、遺伝子治療など、多様な技術領域が含まれています。特に免疫チェックポイント阻害薬(がん細胞が免疫細胞の攻撃をかわす仕組みをブロックすることで、免疫ががんを攻撃できるようにする薬剤)は、有望な薬剤クラスとして注目されています。
いくつかの注目すべき薬剤候補を紹介します。
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Aramchol (Galmed Pharmaceuticals): 2025年5月には、バイエル社のレゴラフェニブという既存薬と併用することで、肝腫瘍の増殖を大幅に抑制する可能性が前臨床モデルで示されました。オートファジー活性化(細胞が自身の不要な部分を分解する仕組み)と腫瘍細胞死促進を通じて作用すると考えられており、2025年第4四半期には第Ⅰb相試験の開始が予定されています。
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HLX13 (Shanghai Henlius Biotech): イピリムマブという既存の免疫チェックポイント阻害薬のバイオシミラー(先行バイオ医薬品とほぼ同等の品質、安全性、有効性を持つ医薬品)として開発されている抗CTLA-4完全ヒト型モノクローナル抗体です。切除不能な進行肝細胞癌患者を対象に、ニボルマブとの併用による第Ⅰ相/第Ⅲ相臨床試験が進められており、T細胞(免疫細胞の一種)による腫瘍細胞攻撃の強化を目指しています。
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TPST-1120 (Tempest Therapeutics): PPARα阻害薬という種類の薬剤で、脂肪酸酸化を阻害しつつ免疫活性化を促進する作用があります。未治療の切除不能または転移性肝細胞癌患者を対象に、アテゾリズマブおよびベバシズマブとの併用療法として第Ⅲ相試験が進行中です。
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SD-101 (TriSalus Life Sciences): TLR9作動薬(免疫細胞を活性化させる薬剤)であり、PEDD(Pressure-Enabled Drug Delivery)技術という特殊な送達技術を用いて肝細胞癌および肝内胆管癌の患者に投与されます。ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬との併用による免疫活性化効果が第Ⅰb相/第Ⅱ相試験で評価されています。
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CT-01 (Captor Therapeutics): 標的タンパク質分解技術(特定のタンパク質を分解することで病気の原因を取り除く新しい技術)を利用した治療薬です。中間期または進行肝細胞癌患者を対象とした第Ⅰ相多施設共同試験が進行中で、腫瘍増殖抑制を目指しています。
これらの薬剤は、いずれも現在臨床試験の段階にあり、その効果と安全性が慎重に評価されています。承認されれば、患者さんの新たな治療選択肢となるでしょう。
肝腫瘍治療の未来:個別化医療と新技術が牽引
肝腫瘍治療の分野は、従来の外科療法や化学療法中心の治療から、免疫療法、分子標的療法、そして精密医療を組み合わせた個別化治療へと大きく変化しています。今後は、免疫チェックポイント阻害薬、腫瘍微小環境(腫瘍を取り巻く細胞や組織)を標的とする治療、革新的な薬剤送達技術、そしてタンパク質分解誘導技術などが市場の成長を牽引すると予測されます。
肝腫瘍患者数の増加と、いまだ満たされていない医療ニーズの高さを背景に、治療薬のパイプラインは今後さらに拡大し、患者さんの生存率向上と治療選択肢の多様化に貢献することが期待されます。このレポートは、その未来を読み解くための重要な指針となるでしょう。
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