高野豆腐が抱えていた「酸化」の課題
高野豆腐には、大豆由来の脂質が約30%含まれています。この脂質には、空気に触れると酸化しやすいリノール酸やリノレン酸が多く含まれています。加えて、高野豆腐はスポンジのように細かい穴がたくさん開いた「多孔質」な構造をしているため、脂質が空気と広範囲に接触しやすく、酸化が進みやすいという特性がありました。このため、従来の高野豆腐の賞味期限は6か月とされていました。
脂質の酸化は、風味の低下や不快な酸化臭、そして食感の硬化につながるだけでなく、酸化した脂質の摂取による健康被害の可能性も指摘されています。酸化の度合いは「POV(過酸化物価)」や「AV(酸価)」といった指標で評価され、これらの数値が高いほど酸化が進んでいることを意味します。おいしさや安全性を長く保つためには、この脂質酸化をいかに抑えるかが重要な課題でした。
ガスバリア性包装材だけでは防げない酸化
脂質酸化は空気中の酸素によって引き起こされるため、外部からの酸素の侵入を防ぐ「ガスバリア性包装材(酸素を通しにくい特殊な包材)」を使用すれば酸化を抑えられるのではないか、という可能性が考えられました。しかし、試験の結果、ガスバリア性包装材を単独で使用しても、高野豆腐の脂質酸化速度を遅らせる効果は認められませんでした。
これは、たとえ外部からの酸素を遮断したとしても、高野豆腐そのものや包装材内部に、脂質を酸化させるのに十分な量の酸素が存在するためです。むしろ、酸化によって生じた揮発性の成分が包装材内に留まることで、かえって酸化を促進してしまう可能性も否定できませんでした。

救世主は「高オレイン酸大豆」
この課題に対し、脂質研究の第一人者である東北大学の宮澤陽夫名誉教授との共同研究が実施されました。その結果、注目されたのが「オレイン酸」という脂肪酸です。オレイン酸はオリーブオイルにも多く含まれる成分で、リノール酸などと比較して非常に酸化しにくい性質を持っています。
そこで開発されたのが「高オレイン酸大豆」です。この大豆は、自然交配によって品種改良されたもので、遺伝子組み換えやゲノム編集は行われていません。一般的な大豆よりも酸化しにくいオレイン酸を多く含み、反対に酸化されやすい脂肪酸の割合が少ないという特長があります。高オレイン酸大豆は、食用油の原料としても活用され、加熱調理を繰り返しても酸化しにくい効果が期待されています。

科学的データが示す、高オレイン酸大豆の有用性
通常大豆と高オレイン酸大豆をそれぞれ原料とした高野豆腐について、保存期間中の脂質酸化速度が測定されました。その結果、高オレイン酸大豆由来の高野豆腐では、保存期間中のPOVおよびAVの上昇が大幅に抑えられることが確認されました。これは、高オレイン酸大豆に含まれる酸化しにくいオレイン酸が多いため、酸化が緩やかに進行したと考えられます。


この研究成果により、高野豆腐の美味しさや品質をより長く保つことが可能となり、賞味期限を従来の2倍となる1年間に延長することが実現しました。この技術は、高野豆腐の鮮度を長く維持し、消費者に美味しさと安心を届け続ける上で大きな一歩となります。
高野豆腐へのこだわりについては、以下のリンクから詳細を確認できます。
東北大学 宮澤陽夫名誉教授について
宮澤陽夫名誉教授は、分析化学を基礎とし、油の酸化、大豆食品、抗酸化物質、生活習慣病予防、認知症予防など、食品科学の分野で第一人者として活躍されています。東北大学大学院農学研究科の教授を務め、2015年には東北大学名誉教授となり、現在は東北大学未来科学技術共同研究センターの食品バイオプロジェクトリーダーとして、数々の研究成果が認められ、紫綬褒章や瑞宝中綬章を受章されています。
旭松食品株式会社について
旭松食品株式会社は、凍豆腐、即席みそ汁、スープ類、介護食(カットグルメ)などの製造販売を手がける企業です。今回の研究成果は、同社の製品品質向上と食品ロスの削減に貢献するものと期待されます。



