温度上昇で縮む不思議な材料「負熱膨張物質」の進化
多くの物質は温度が上がると膨張しますが、半導体製造装置や光学機器といった非常に精密な分野では、わずかな熱膨張でも機器の性能低下や故障の原因となることがあります。この問題を解決するために期待されているのが、「負熱膨張物質」です。これは、温度が上がると逆に体積が縮むという、一般的な物質とは逆の性質を持つ材料を指します。
これまでの研究で、最大の体積収縮を示す負熱膨張物質が開発されていましたが、その物質には有害な鉛(Pb)が含まれているという課題がありました。実用化を考えると、鉛を含まない環境に優しい材料が求められていました。
鉛フリーで非鉛物質最大6.1%の体積収縮を実現
東京科学大学(Science Tokyo)総合研究院の酒井雄樹特定助教、西久保匠特定助教、東正樹教授らの研究グループは、この課題を克服し、鉛を含まない(非鉛の)新しい巨大負熱膨張物質の開発に成功しました。

今回開発されたのは、ペロブスカイト型酸化物コバルト酸ビスマス(BiCoO3)を母物質とし、そのビスマスの一部をランタノイド元素という別の元素に置き換えた材料です。この新しい材料は、温度が上がると「再構成型相転移」という特殊な現象を起こします。
再構成型相転移とは?
通常の物質の相転移(例えば水が氷になるような状態変化)は原子の並び方が少し変わる程度ですが、再構成型相転移では、原子間の結合が一度切れて再結合するような、劇的な構造変化が起こります。この大きな構造変化が、物質の体積を大きく変化させる要因となります。
研究グループは、この再構成型相転移を利用することで、非鉛の負熱膨張物質としては過去最大の6.1%という大きな体積収縮率を達成しました。さらに、この相転移は温度を下げると元の状態に戻る「可逆的」な性質を持つことも確認されており、実用化に向けた大きな一歩となります。
精密機器の未来を拓く可能性
この新しい鉛フリーの巨大負熱膨張物質は、以下のような分野での応用が期待されています。
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半導体製造装置: 微細な回路を加工する際に生じる熱膨張による位置ずれを抑制し、製造精度を向上させます。
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光通信機器: 光ファイバーや光学部品の熱膨張を相殺し、通信の安定性や信頼性を高めます。
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異種材料の接合: 熱膨張率の異なる材料を接合する際に発生する剥離を防ぎ、耐久性を向上させます。
現在、この研究は開発段階にありますが、再構成型相転移を利用した可逆的な負熱膨張が実現したことで、今後さらに大きな体積収縮を示す「超巨大負熱膨張物質」の開発につながる可能性も秘めています。研究グループは、物質内部のドメイン組織(原子の並び方が異なる小さな領域の構造)の変化を詳細に観察することで、さらなる体積収縮率の向上を目指しています。
この研究成果は、2026年9月4日付(現地時間)の科学誌「Advanced Science」に掲載されています。
論文情報
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掲載誌:Advanced Science
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論文タイトル:6.1% Volumetric Negative Thermal Expansion Induced by the Reversible Reconstructive Phase Transition in Pb-Free Bi1−xLnxCoO3 (Ln: Lanthanoid)
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著者:Yuki Sakai, Kazuki Takahashi, Shogo Wakazaki, Takumi Nishikubo, Jun Miyake, Takehiro Koike, Teppei Nagase, Takafumi Yamamoto, Kano Hatayama, Masaichiro Mizumaki and Masaki Azuma
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