日本の液体クロマトグラフィー質量分析市場、2031年には13億米ドル規模へ成長予測 – 医薬品開発と食品安全が牽引

日本のLC-MS市場、2031年に13億米ドル規模へ拡大予測

株式会社マーケットリサーチセンターが発表した「日本の液体クロマトグラフィー質量分析市場2024-2031」調査資料によると、日本の液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)市場は、2023年の8億米ドルから2031年には13億米ドル規模に成長すると予測されています。この期間における年平均成長率(CAGR)は6.26%と見込まれており、医薬品・バイオテクノロジー分野での研究開発投資の増加や、高度な分析技術への需要拡大が成長の主な要因です。

株式会社マーケットリサーチセンター

LC-MSとは?微量な成分を正確に見つけ出す技術

LC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析)は、複雑な物質の中から特定の成分を見つけ出し、その量を測るための高度な分析技術です。まず「液体クロマトグラフィー」という技術で、液体に溶けている様々な成分を一つずつ分離します。次に「質量分析」という技術で、分離された各成分の重さ(質量)を非常に高い精度で測り、それが何であるかを特定したり、どのくらい含まれているかを定量したりします。

この技術のすごい点は、血液や尿のような生体試料、薬、食品、環境中の水など、非常に多くの成分が混じり合った複雑なサンプルから、ごく微量な目的の成分だけを高感度かつ正確に検出できることです。そのため、医薬品開発、食品の安全検査、環境モニタリングなど、幅広い分野でその能力が活用されています。

市場成長の原動力:医薬品・バイオテクノロジー分野の需要

LC-MS市場の拡大を牽引しているのは、主に医薬品・バイオテクノロジー産業における研究開発投資の増加です。日本の製薬企業は、バイオ医薬品(生物由来の物質を原料とする薬)や個別化医療(患者一人ひとりに合わせた治療)といった先端分野に力を入れており、これに伴い、新薬候補物質の解析、薬が体内でどう働くかを調べる薬物動態評価、薬の代謝物分析、臨床試験など、多岐にわたる段階でLC-MSが不可欠なツールとなっています。

創薬から品質管理まで、医薬品開発のあらゆる場面で活躍

医薬品開発の初期段階では、数多くの候補物質の中から有望なものを見つけ出すためにLC-MSが使われます。その後、候補化合物の構造を詳しく調べたり、純度を確認したり、体内の薬の濃度を測定したり、薬が体内でどのように変化するか(代謝経路)を解析したりする際にも、その高感度・高精度な分析能力が大きな強みとなります。

また、新薬が体内でどのように吸収され、分布し、代謝され、排泄されるか(ADMEプロセス)を理解する「in vitro(試験管内)およびin vivo(生体内)の代謝研究」でも、LC-MSは中心的な役割を果たします。血液や組織に含まれるごく微量の薬や代謝物を正確に測定することで、薬の効果や安全性を評価する上で欠かせない情報を提供します。

さらに、医薬品の品質管理においてもLC-MSは重要です。製造過程や保存中に発生する不純物や分解生成物を高精度に特定・定量することで、薬の安全性と品質が保たれます。

個別化医療の進展とLC-MSの役割

個別化医療の拡大も、LC-MS市場を押し上げる要因の一つです。患者ごとに最適な治療法を選ぶためには、その人の生体分子や代謝物、薬への反応などを詳細に解析する必要があります。LC-MSは、病気の指標となるバイオマーカーの探索や、患者ごとの代謝プロファイルの分析に適しており、将来の精密医療を支える基盤技術として期待されています。

食品安全分野での活用と技術的進歩

もう一つの重要な市場成長分野が食品安全です。消費者の食品に対する安全意識が高まり、国内外で食品規制が厳しくなる中で、残留農薬、食品添加物、化学汚染物質などを高精度で測定する分析技術が強く求められています。LC-MSは、複雑な食品サンプルから微量の有害物質を検出・定量できるため、食品安全検査において非常に有効な手段です。

フラスコと分子のアイコン

LC-MSは、多数の天然成分が含まれる食品サンプルの中から、目的の汚染物質だけを正確に識別できるため、食品検査機関や品質管理部門での価値が高いです。スクリーニング(初期検査)、確認分析(詳細な確認)、定量分析(量の測定)を高い感度と選択性で行える点が強みです。

最新技術が食品検査をさらに高度に

タンデム質量分析(複数の質量分析計を連続して使う技術)の進歩も、食品検査の用途を広げています。特にトリプル四重極(QqQ)や飛行時間型(TOF)質量分析計は、感度、選択性、測定精度を高め、厳格な規制対象物質の分析を可能にしています。これにより、食品安全規制への適合や消費者からの信頼確保において、LC-MSの重要性がますます高まっています。

技術革新がもたらすLC-MSの進化

LC-MS装置そのものの技術進歩も、市場成長の重要な要因です。特に高分解能質量分析計(非常に細かい質量差を識別できる装置)やハイブリッド型質量分析計(複数の質量分析技術を組み合わせた装置)の登場により、分析性能が飛躍的に向上しました。これにより、従来では識別が難しかった分子をより正確に区別し、短時間で精密な分析結果を得られるようになっています。

また、LC-MSシステムへの自動化技術とデータ処理ソフトウェアの統合も進んでいます。大量のサンプルと膨大なデータを効率的に処理することで、研究者の負担を減らし、分析件数を増やすことが可能です。このようなワークフローの効率化は、製薬企業や検査機関にとって大きな価値をもたらします。

サステナビリティへの貢献

近年、分析化学分野でもサステナビリティ(持続可能性)が重要なテーマとなっています。LC-MS分析では有機溶媒や電力を消費するため、環境負荷の低減が求められています。グリーンケミストリー(環境に配慮した化学)の考え方に基づき、環境負荷の低い溶媒の利用、有害廃棄物の削減、エネルギー使用量の削減などが進められています。

地球と葉っぱのアイコン

先端技術の産業応用

低流量LC-MS(ごく少量の溶媒を使うLC-MS)は、これまで研究開発用途が中心でしたが、プロテオミクス(タンパク質を網羅的に解析する分野)や創薬など、産業分野での利用が拡大しています。少ない溶媒量で高感度分析が可能になるため、環境負荷低減と分析性能向上の両方にメリットがあります。

さらに、イオンモビリティスペクトロメトリー(IMS)(質量分析の前にイオンをサイズや形状で分離する技術)との組み合わせや、飛行時間型(TOF)検出技術の改善も進んでいます。これにより、未知化合物の同定や微量不純物解析、バイオマーカー探索など、LC-MSの適用範囲はさらに広がっています。これらの技術進歩は、LC-MSを単なる定量分析装置から、複雑な分子情報を包括的に解析する高度な研究プラットフォームへと進化させています。

課題と今後の展望

市場拡大を阻む要因として、LC-MSシステムの価格の高さが挙げられます。装置本体の初期投資に加え、保守費用、消耗品費(分析カラム、溶媒、試薬など)、そして専門知識を持つ人材の確保・育成にかかる費用も高額です。このため、予算が限られる小規模な研究機関や大学では導入が難しい場合があります。

しかし、日本のLC-MS市場は、今後も「高感度・高分解能」「高速分析」「自動化」「使いやすさ」「データ解析力」「環境負荷低減」を総合的に実現できるシステムが競争優位に立つと考えられます。研究者が複雑な装置操作やデータ処理に時間を費やすことなく、再現性の高い分析結果を大量に取得できるプラットフォームへの需要が高まるでしょう。

主要企業としては、Shimadzu Corporation、JEOL、Hitachi High-Techといった国内メーカーに加え、Agilent Technologies Japan、Thermo Fisher Scientific Japan、Bruker Japan、Waters Corporation Japan、SCIEX Japanなどが挙げられ、総合的な競争が繰り広げられています。

今後は、ハードウェア、ソフトウェア、アプリケーション支援を一体化したソリューションの提供が市場成長の中心となり、LC-MSは私たちの健康や食の安全、そして持続可能な社会の実現に不可欠な技術として、その役割をさらに拡大していくと期待されます。

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