電力危機を救うか?既存の送電網を賢く使う「系統混雑緩和技術(GETs)」の最前線

電力需要の急増と「系統接続制約」という課題

近年、生成AIの普及に伴うデータセンターや半導体工場の新増設により、世界の電力需要が急増しています。国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、世界のデータセンターの電力消費は2030年までに約945TWhへと倍増し、米国では2030年までの電力需要増加分のほぼ半分をデータセンターが占める見通しです。

IEAレポート「Energy and AI」エグゼクティブサマリー

日本でも同様に、2026年度以降はデータセンター・半導体工場の新増設に伴い、2035年度まで年平均0.4%の増加が続くと想定されています。さらに、第7次エネルギー基本計画では再生可能エネルギーの大幅拡大が提示されており、既存の電力網は、天候によって発電出力が大きく変化する変動性電源の増加と、大規模な電力需要の局地的集中という二つの圧力に同時に直面しています。

このような電力需給バランスの不安定化の懸念から、電力供給の増強が不可欠ですが、現実には発電所や蓄電池などの電力供給設備に対し、送電線や変電所などの電力網(系統)設備が不足する「系統接続制約」がボトルネックとなっています。系統接続制約とは、新しい発電設備や大規模な電力消費設備を電力網に接続する際に、既存の送電能力が足りず、接続が遅れたり、そもそも接続できなかったりする問題です。

米国では2025年末時点で2,060GWを超える設備が接続待ちとなり、接続申込から運転開始までの期間の中央値が5年を超える事例も報告されています。

LBNLレポート「Queues」

日本でも、データセンターが集積する千葉県印西・白井地域で、系統設備への接続に長期間を要する事例や、将来の接続に備えて利用枠をあらかじめ確保する「空押さえ」が問題視されており、真に必要な事業者への電力供給が遅れる懸念があります。

経済産業省「スマート保安WG(第3回)資料」

こうした課題に対し、制度面での対策や、北海道~東北~東京間に高圧直流送電(HVDC)2GWを新設するような大規模な系統増設も進められています。しかし、東地域の系統整備には1.5兆~1.8兆円程度の巨額な投資と長い工期が必要と試算されており、早急な解決策が求められています。

既存の電力網を賢く使う「系統混雑緩和技術(GETs)」

巨額の投資と長い工期が必要な系統増設が進められる一方で、既存設備を最大限に活用しながら比較的短期間で送電能力を高める選択肢として注目されているのが、「系統混雑緩和技術(GETs:Grid Enhanced Technologies)」です。

GETsは、送電線を新しく敷設することなく、現在ある電力網の潜在的な送電能力を最大限に引き出すための技術群を指します。まるで、道路を新しく作らずに、信号の最適化や交通整理で既存の道路の交通量を増やすようなイメージです。

送電線と鉄塔

GETsは、大きく以下の3つの技術で構成されます。

1. 動的線路定格(DLR)

何がすごいのか?

これまでの送電線は、年間を通じて最も厳しい気象条件(例えば、最も暑く風のない日)を想定して、送電できる電力量が固定的に決められていました。しかし、実際には気象条件は常に変化します。動的線路定格(DLR:Dynamic Line Rating)は、気象条件や送電線の温度などをセンサーでリアルタイムにモニタリングし、その時の状況に応じて送電線の容量を評価・調整する技術です。

涼しい日や風の強い日には、送電線はより多くの電力を安全に送ることができます。DLRはこの「隠れた能力」を引き出すことで、固定的な定格で運用する場合と比べて、条件に応じて送電容量を増やすことを可能にします。実証例として、米国エネルギー省(DOE)の報告によると、米国テキサス州の電力会社OncorではDLRセンサーの導入により送電線容量が6~14%増加し、Duquesne Light社では25%増加させたことが報告されており、すでに実用化が進む技術です。

DOE記事「Smart Transmission Tools Modernize America’s Power Grid」

2. 電力フロー制御

何がすごいのか?

電力フロー制御は、複数の送電経路がある電力網において、それぞれの経路の「電流の流れにくさ(インピーダンス)」などを随時制御し、送電線を流れる電力を調整する技術です。インピーダンスとは、交流回路において電流の流れにくさを示す指標です。これは、まるで渋滞している道路の交通整理のように、電力の流れを最適化することで、特定の送電線に負荷が集中するのを防ぎ、電力網全体の送電能力を効率的に高めることができます。

3. トポロジー最適化

何がすごいのか?

トポロジー最適化は、複雑に構成された送配電網の「経路や接続の構成」を最適化し、電力の流れを効率化する技術です。送電網全体の設計を最適化することで、無駄なく効率的に電力を送れるようになります。これは都市の交通網を再設計して、よりスムーズな交通を実現するようなイメージです。

アスタミューゼの分析が示すGETsの現状と未来

アスタミューゼ株式会社は、イノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどの研究開発情報)を分析し、GETsに関する技術動向をレポートにまとめています。グラントとは、主に政府や研究機関から、特定の研究開発プロジェクトに対して支給される資金のことです。

特許出願件数の推移

GETs関連特許の出願件数推移

2016年以降のGETs関連特許の出願件数を見ると、電力フロー制御に関する出願が最も多く、トポロジー最適化がそれに続いています。この10年間で、電力フロー制御とトポロジー最適化は年間約200件増加しています。一方、DLRの出願件数は2025年に増加が見られるものの、それ以前は比較的横ばいで推移しています。

研究資金配賦額の推移

GETs関連プロジェクトの研究資金配賦額

2016年以降に採択されたGETs関連プロジェクトの研究資金配賦額を見ると、電力フロー制御とトポロジー最適化には一定の研究資金が投資されている一方、DLRへの投資は限定的です。この特許と研究資金の動向から、DLRは他の2分野に比べて商用化が進み、技術成熟度が比較的高い段階にあると考えられます。一方、電力フロー制御とトポロジー最適化は、GETsの中でも新たな研究開発が継続している分野と言えるでしょう。これらの分野はグラントの件数は少ないものの、巨額のプロジェクトが見られる点も特徴です。

国別の研究資金配賦額の推移

グラントの国別配賦額の推移

国別の研究資金配賦額を見ると、投資が集中する時期は国によって異なります。EUや英国では2016年~2020年に配賦が集中し、2021年以降はほとんど見られません。一方、日本では2019年に100万米ドル規模の投資が見られ、2021年以降に大きな投資が続いています。米国ではこの期間の投資はほとんど見られませんが、これは2010年代前半にすでに先行投資が行われているためと考えられます。これらの結果から、電力系統に関する投資時期は、欧米と比べて日本がやや遅い可能性が示唆されます。

未来の電力インフラを支えるGETsへの期待

GETsは、電力需要の増加と再生可能エネルギーの導入拡大という、現代社会が直面する二つの大きな流れに対応するための、現実的かつ迅速な解決策となる可能性を秘めています。巨額なコストと長い工期を要する大規模な系統増設を補完し、既存の電力インフラを最大限に活用することで、電力供給の安定化に貢献するでしょう。

スマートシティやデータセンターなど、未来の社会インフラを支える上で、GETsのような「賢く使う技術」は今後ますます不可欠な存在となると期待されます。アスタミューゼ株式会社は、GETsに限らず様々な先端技術の分析を行っており、未来の技術動向を深く理解するための情報を提供しています。

本レポートで紹介した分析結果の詳細は、以下のページでご確認ください。

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