2026年度「武田医学賞」に荒瀬 尚 博士と胡桃坂 仁志 博士が決定 – 難病解明へ新たな光

荒瀬 尚 博士:自己免疫疾患の新しいメカニズム「ネオセルフ抗原」の発見

荒瀬 尚 博士

大阪大学の荒瀬 尚 博士(60歳)は、「宿主(しゅくしゅ)―病原体相互作用に基づく疾患発症機構の解明」というテーマで受賞しました。

荒瀬博士の研究は、病原体(ウイルスや細菌など)が私たちの体(宿主)に感染した際に、体がどのように反応するのか、また病原体がどのようにして体の免疫システムから逃れるのか、そしてそれがなぜ自己免疫疾患につながるのかを長年にわたり探求してきました。

特に注目すべきは、「ネオセルフ抗原」という新しい概念の提唱です。私たちの体には、本来自分自身を攻撃しないようにする免疫システムが備わっています。しかし、ウイルス感染などがきっかけで、通常は免疫システムに認識されないはずの「自己のタンパク質」が変化し、免疫システムに「異物」と誤って認識されて攻撃されてしまうことがあります。荒瀬博士は、この「ネオセルフ抗原」が、本来体を守るはずの免疫システムが誤って自分自身を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の主要な原因となりうることを明らかにしました。これは、従来の「自己」と「非自己」を区別するという免疫の基本概念を大きく拡張する発見であり、自己免疫疾患の診断や治療法開発に新たな道を開くものとして期待されています。

胡桃坂 仁志 博士:遺伝子の働きを操る「クロマチン構造」の解明

胡桃坂 仁志 博士

東京大学の胡桃坂 仁志 博士(59歳)は、「クロマチン構造研究によるエピジェネティクス制御機構の解明と疾患研究への展開」というテーマで受賞しました。

胡桃坂博士の研究は、私たちの体の設計図である「ゲノムDNA(遺伝情報全体)」が、細胞の核の中でどのように収納され、その働きがどのようにコントロールされているのかを解明するものです。DNAは「クロマチン」と呼ばれる特殊な構造に巻き付いて存在しており、このクロマチンの形が変わることで、遺伝子の働きがオンになったりオフになったりします。この遺伝子の働き方をDNAの配列を変えずに制御する仕組みを「エピジェネティクス」と呼びます。

胡桃坂博士は、独自の技術と、生体分子の立体構造を原子レベルで解析できる「クライオ電子顕微鏡」という最先端技術を組み合わせることで、クロマチンの複雑な構造を詳細に解き明かしてきました。これにより、遺伝子の働きをコントロールする仕組みだけでなく、DNAの修復や、病気から体を守る免疫システムの働きなど、様々な生命現象の制御メカニズムを明らかにしてきました。近年では、細胞の中から直接クロマチン複合体を取り出して構造を解析する「ChIP-CryoEM法」も確立し、より生体に近い状態での研究を可能にしています。これらの研究成果は、クロマチンやエピゲノムの異常が原因となる様々な疾患(がんや生活習慣病など)の発症メカニズムの理解を深め、将来的に新しい治療薬の開発や診断法の確立につながる基盤を提供すると期待されています。

武田科学振興財団について

公益財団法人 武田科学振興財団は、1963年に武田薬品工業株式会社からの寄附を基金として設立されました。科学技術の研究を助成・振興し、日本の科学技術と文化の向上発展に貢献することを目的としています。武田医学賞の授与のほか、研究助成、奨学助成、国際シンポジウムの開催、杏雨書屋(きょううしょおく)という図書資料館の運営、出版物の刊行など、多岐にわたる事業を展開しています。

詳細は、公益財団法人 武田科学振興財団の公式サイトをご覧ください。
https://www.takeda-sci.or.jp/