カーボンナノチューブの向きを光で自在に操る新技術が開発!次世代デバイスの可能性を拓く

カーボンナノチューブの向きを光で自在に操る新技術が開発!次世代デバイスの可能性を拓く

次世代の電子デバイス材料として注目されるカーボンナノチューブ(CNT)。優れた電気的・光学的特性を持つ一方で、その性能を最大限に引き出すには、チューブの並ぶ向き(配向)を厳密に制御する技術が不可欠でした。この度、東京理科大学と産業技術総合研究所などの共同研究グループが、この課題を解決する画期的な新技術を開発しました。

狙った場所だけCNTの向きを調整する「光プロセス技術」

開発されたのは、無配向なCNT膜に「偏光制御された超短パルスレーザー」を照射することで、特定の向きに並んだCNT構造を局所的に形成する新しい光後加工プロセス技術です。この技術の「すごい」点は、光を当てるだけで、CNTの向きをピンポイントで調整できることにあります。

CNTの配向技術と光学的・電気的異方性を示す図

超短パルスレーザーが鍵

この技術の最大の鍵は、「超短パルスレーザー」の使用です。超短パルスレーザーは、数10ピコ秒(数100億分の1秒)以下という非常に短い時間だけ光を照射します。これにより、光を吸収したCNTだけが一瞬で蒸発(アブレート)し、周囲のCNTには熱ダメージをほとんど与えずに加工できます。一般的なレーザーのように熱が周囲に伝わってしまうと、狙った場所だけを精密に加工することは困難でした。この「非熱的なナノ構造加工」こそが、この技術の革新的な部分です。

CNTの光学的異方性を利用

CNTは、筒の長さ方向に平行な偏光(光の波の向き)を強く吸収し、垂直な偏光はほとんど透過するという、強い「光学的異方性」(光に対する性質が方向によって異なること)を持っています。この特性を利用し、特定の偏光のレーザー光を照射すると、レーザーの偏光方向と垂直に配向していないCNTだけが光エネルギーを吸収して蒸発し、垂直に配向したCNTが残るという仕組みです。

今までと何が違うのか?精度と品質の飛躍的向上

従来のCNT配向制御技術は、CNTを基板に製膜する前段階で行われるため、制御できる空間解像度はミリメートルスケールと、デバイスサイズよりもはるかに大きな領域に限られていました。そのため、「膜の中の狙った場所だけ、ピンポイントで異なる方位に配向させる」ことは非常に困難でした。

この新しい光プロセス技術では、レーザーを照射した箇所のみCNTの配向方位をサブマイクロメートル(1000分の1ミリメートル以下)という極めて高い空間解像度で調整することに成功しました。これは、従来技術では実現できなかった圧倒的な位置制御性です。

作製された局所配向CNTは、その品質も優れています。配向の揃い度合いを示す「2Dネマティック秩序パラメーター」は0.93(理想的な配向は1)、偏光子としての性能指標である「吸光度比」は24.7倍を記録し、これまでの大面積配向技術で得られる最高水準に匹敵する高い品質が確認されています。

さらに、レーザーを極めて弱いエネルギーで照射すると、不要な分散剤だけを選択的に除去し、CNT膜の結晶品質(G/D比:炭素材料の結晶品質を評価する一般的な指標で、値が大きいほど高品質・低欠陥を示す)を劇的に向上させる洗浄効果があることも新たに判明しました。

将来どう役立つのか?次世代デバイスへの期待

この技術の最大の特徴である圧倒的な位置制御性と空間解像度により、マイクロメートル規模の狭い領域内に4つの異なる方位のCNTを集積したり、文字や縞状、円形といった複雑な複合構造体を膜上に直接描き出したりすることが可能となりました。

配向カーボンナノチューブで形成された微細構造のSEM画像

この光プロセス技術を活用することで、以下のような次世代デバイスの実現が期待されます。これらは現在研究段階であり、実用化に向けてさらなる進展が期待されます。

  • テラヘルツ偏光イメージセンサー: 局所配向CNTを画素として利用することで、光の偏光情報をワンショットでリアルタイムに撮像できるイメージセンサーが実現するでしょう。

  • 高速・低消費電力ロジックデバイス: CNTの優れた電気的特性と精密な配向制御を組み合わせることで、従来のシリコンの限界を超える、より高速で消費電力の少ない次世代ロジックデバイスの作製プロセスへの応用が期待されます。

この研究成果は、国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版で2026年8月1日に公開されました。

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