生きた細胞の「光」で希少血管奇形治療薬探索へ!画期的な新プラットフォームを開発

生きた細胞の「光」で希少血管奇形治療薬探索へ!画期的な新プラットフォームを開発

血管の異常によって生じる「血管奇形」は、特に「青色ゴムまり様母斑症候群(BRBNS)」のような難治性の希少疾患では、全身に病変が広がり、既存の治療法だけでは対応が難しい場合があります。

このような希少血管奇形の治療薬探索に大きな一歩となる、新たな技術が開発されました。杏林大学医学部形成外科学教室の松谷瞳助教、尾崎峰教授、同医学部解剖学教室の大石篤郎講師、福井大学学術研究院医学系部門の木戸屋浩康教授、国立がん研究センター研究所の吉見昭秀分野長らの共同研究グループは、生きた細胞の「光」を利用して、血管の安定性に関わる重要なタンパク質「TIE2(タイツー)」のシグナルを高精度に測定する「TIE2-GRB2-BRETプラットフォーム」を開発し、その成果を国際学術誌『Angiogenesis』で発表しました。

病気のカギを握る「TIE2」とは?

血管奇形、特に静脈奇形という病気では、「TIE2」というタンパク質の遺伝子に変異が起こることが知られています。TIE2は血管の内側にある細胞(血管内皮細胞)に存在し、血管が安定に保たれるために重要な役割を果たす「受容体型チロシンキナーゼ」という種類のタンパク質です。このTIE2に変異が起こると、TIE2が異常に活性化し、血管の形づくりや安定性が損なわれてしまうのです。

これまでの研究では、TIE2の異常な活性化を調べるには、細胞を壊してタンパク質を分析する「Western blotting」という方法が主流でした。しかし、この方法は一度に多くの薬剤候補を比較する「薬剤スクリーニング」には不向きという課題がありました。

「光」でTIE2の働きを見える化する新技術「BRET」

研究グループが開発した「TIE2-GRB2-BRETプラットフォーム」は、この課題を解決するために「BRET(Bioluminescence Resonance Energy Transfer:生物発光共鳴エネルギー移動)」という光計測技術を応用しています。

BRETとは、発光するタンパク質と蛍光を発するタンパク質が非常に近い距離(約10ナノメートル以内)に接近したときに、発光タンパク質のエネルギーが蛍光タンパク質に移動して光る現象を検出する技術です。

BRETの原理とTIE2受容体シグナル

このプラットフォームでは、TIE2に発光タンパク質「NanoLuc」を、TIE2の活性化に伴ってTIE2の近くに集まるシグナル伝達分子「GRB2」に蛍光タンパク質「YFP」をそれぞれ融合させました。TIE2が活性化してGRB2が近づくとBRETシグナル(光)が発生するため、この光の強さを測定することで、生きた細胞の中でTIE2の活性化の様子を高精度に捉えることができるようになったのです。

正常なTIE2は、血管の安定化を促す「アンジオポエチン1(ANG-1)」という物質の刺激によって活性化し、GRB2が近づくことでシグナルが伝わります。一方、静脈奇形に関わる変異TIE2では、ANG-1がなくても常にTIE2が活性化した状態となり、GRB2が近づいたままになってしまいます。この状態をBRETの光で検出することで、変異TIE2の異常な活性化を「見える化」できるようになりました。

希少疾患治療薬探索への大きな一歩

この新しいプラットフォームの有効性は、様々な実験で確認されました。

まず、TIE2の本来の刺激物質であるANG-1に反応することを確認。次に、BRBNSなどの静脈奇形に関連する複数のTIE2変異について、変異の種類ごとのシグナルの強さを、生きた細胞内の光シグナルとして定量的に測定することに成功しました。

さらに、すでに他の疾患で治療薬として承認されている薬剤をこのプラットフォームで評価したところ、BRBNSに関連する特定のTIE2変異(TIE2-T1105N–T1106P変異)によるBRETシグナルを抑制する2つの薬剤(レゴラフェニブとレンバチニブ)を発見しました。これらの薬剤は、血管内皮細胞を使った実験でも、変異によって低下していた血管内皮機能(血管のような管腔構造を作る能力)を改善する効果があることが認められました。

BRETセンサーでの治療薬探索

この研究の最も重要な点は、TIE2の活性シグナルをBRETの光で「見える化」し、さらに疾患の原因となる変異の活性や、薬剤がTIE2にどう作用するかを、創薬探索に利用できる定量的な光シグナルに変換したことです。これにより、これまで難しかった多数の薬剤候補の効率的な評価が可能になります。

未来への展望:希少疾患の治療薬開発を加速

今回の研究で見出された2つの薬剤が、実際にBRBNSなどの治療薬として使えるかどうかは、今後、病気のモデルや生体内での有効性・安全性を含めたさらなる検証が必要です。しかし、このプラットフォームが、疾患に関連するTIE2変異に対する薬剤応答を定量的に評価する「一次スクリーニング系」として非常に有用であることが示されました。

新しい薬を一から開発するには長い時間と莫大な費用がかかります。特に患者数が少ない希少疾患の場合、そのハードルはさらに高くなります。そのため、すでに承認されている既存薬の中から、別の疾患への新たな効果を見つけて転用する「ドラッグリポジショニング」という創薬手法は、現実的で重要な戦略となります。

このTIE2-GRB2-BRETプラットフォームは、TIE2が関与する希少血管奇形に対するドラッグリポジショニングに貢献し、難治性の希少疾患に対する新しい治療薬候補の探索を加速させることが期待されています。

今後、研究グループは今回開発したプラットフォームを用いて、さらに多くの既承認薬や薬剤候補を対象とした大規模なスクリーニングを進め、BRBNSなどの難治性希少血管奇形に対して、より効果的な治療薬の発見を目指していくとのことです。

論文情報

  • 論文名: A High-Sensitivity TIE2–GRB2 BRET Platform for Functional and Pharmacologic Profiling of Pathogenic Variants Associated with Venous Malformations

  • 著者: Matsutani H, Oishi A, Izumi-Tamura T, Hayashi Y, Kurita M, Muto T, Yoshimi A, Ueno H, Shiraishi T, Harii K, Takushima A, Kidoya H, and Ozaki M. (責任著者)

  • 掲載誌: Angiogenesis

  • 掲載状況: Published (2026年8月13日)

  • DOI: 10.1007/s10456-026-10071-7