日本のバイオ医薬品市場が2035年に229億ドル規模へ – 医療の未来を拓く成長の原動力
医療の進化が加速する中、バイオ医薬品(生物の細胞や微生物を利用して作られる医薬品)は、特に日本において目覚ましい成長を遂げると予測されています。株式会社マーケットリサーチセンターが発表した最新の調査レポートによると、日本のバイオ医薬品市場は2025年時点で122.0億米ドル(約1.9兆円)規模に達しており、2026年から2035年にかけて年平均成長率(CAGR)6.5%で拡大し、2035年には229.0億米ドル(約3.6兆円)に達すると見込まれています。

なぜ日本のバイオ医薬品市場はこれほど成長するのか?
この力強い成長を支える要因は多岐にわたります。高齢化による慢性疾患やがん患者の増加に加え、従来の低分子医薬品(化学合成によって作られる一般的な薬)では対応が難しかった疾患領域において、バイオ医薬品が新たな治療選択肢を提供していることが背景にあります。特に以下の点が、市場拡大の主要な原動力となっています。
1. 病気の原因を狙い撃ちする「標的治療」の拡大
バイオ医薬品は、がんや自己免疫疾患などにおいて、病気の原因となる特定の分子や細胞だけを狙って作用する「標的治療」を可能にします。これにより、患者さん一人ひとりの状態に合わせた「個別化医療」が進展し、より効果的で副作用の少ない治療が期待されています。診断技術の進歩と連動することで、適切な治療薬の選択が進み、バイオ医薬品の価値はさらに高まるでしょう。
2. 治療へのアクセスを広げる「バイオシミラー」の普及
高額な治療費が課題となるバイオ医薬品ですが、先行バイオ医薬品(最初に開発されたバイオ医薬品)と品質、安全性、有効性が同等であると評価された後続の「バイオシミラー」の普及が、市場構造に大きな変化をもたらしています。バイオシミラーは先行品よりも安価に提供されることが多く、これにより医療機関や患者さんの治療選択肢が増え、結果としてバイオ医薬品全体の利用が拡大する可能性を秘めています。
実際に、2025年5月には、Biocon BiologicsとYoshindoが、乾癬やクローン病などに使用されるUstekinumabの皮下注バイオシミラーを日本で発売したとされています。これは、高価格な抗体医薬(特定の分子に結合する抗体を利用した薬)へのアクセス改善と医療費負担軽減につながる重要な動きとして評価されています。
3. 国内製造能力の強化と再生医療・遺伝子治療への支援
国内でのバイオ医薬品製造能力の拡大も、市場成長の重要なテーマです。2025年5月には、AGC Biologicsが横浜に新たな製造施設を設置する計画を発表し、細胞・遺伝子治療分野の生産能力を強化するとされています。国内製造能力が高まることで、海外への依存を抑え、供給期間の短縮やサプライチェーン(製品が消費者に届くまでの流れ)の安定化につながります。
また、日本市場の特徴として、再生医療・遺伝子治療への規制支援が挙げられます。2025年5月には、中外製薬がデュシェンヌ型筋ジストロフィー向けAAV(アデノ随伴ウイルス)ベース遺伝子治療薬「ELEVIDYS」について、厚生労働省から条件付き承認を得たと報じられています。これは、重篤な疾患に対する先進的治療の早期導入を日本が支援していることを示す事例であり、患者さんにとって新たな希望となるでしょう。
市場を牽引する主要分野と未来像
適応症別では、予測期間中に「オンコロジー」(がん治療)が最大シェアを占めると見込まれています。モノクローナル抗体、抗体薬物複合体、CAR-T細胞療法(患者自身の免疫細胞を改変してがんを攻撃させる治療法)、遺伝子治療など、複数のバイオ医薬品カテゴリーががん治療の高精度化を支えています。また、免疫疾患も重要な領域であり、生物学的製剤によって特定の炎症経路を抑制する治療が広がっています。
日本のバイオ医薬品市場は、今後「高価な革新的バイオ医薬品」と「低コスト化を進めるバイオシミラー」が同時に成長するという構造変化を遂げると予測されています。新規の遺伝子・細胞治療が市場単価を押し上げる一方で、既存の抗体医薬ではバイオシミラーがアクセス拡大と医療費抑制を促すでしょう。
2035年に向けた主要テーマは、オンコロジー、モノクローナル抗体、バイオシミラー、細胞・遺伝子治療、CAR-T、AAV、国内バイオ製造、再生医療規制などに集約されます。日本のバイオ医薬品市場は、従来型の抗体・組換えタンパク質中心の市場から、精密医療、低価格バイオシミラー、そして細胞・遺伝子治療を併存させる、より高度な「次世代バイオ医療市場」へと発展していくと考えられます。
この進化は、難病に苦しむ多くの人々にとって、より良い治療法と希望をもたらす未来をきっと描いてくれるでしょう。医療の最前線で進むこの革新的な動きに、今後も注目が集まります。



