2035年、日本のファシリティマネジメント市場は846.9億米ドル規模へ
株式会社マーケットリサーチセンターが発表した最新の調査レポート「ファシリティマネジメントの日本市場(2026年-2035年)」によると、日本のファシリティマネジメント市場は、2025年時点で648.8億米ドル規模に達しており、2026年から2035年にかけて年平均成長率(CAGR)2.7%で拡大し、2035年には846.9億米ドルに達すると予測されています。
ファシリティマネジメント(FM)とは、企業や組織が所有・利用する建物や設備(ファシリティ)を、経営戦略に基づいて効率的に管理・運用する活動を指します。この市場は、商業施設、公共インフラ、産業施設、オフィスなど幅広い建物・設備の運営を支える基盤サービスとして、安定した需要が見込まれています。
デジタル技術と自動化が市場の質的変化を促す
市場規模の緩やかな成長とは対照的に、ファシリティマネジメントの内容は大きく変化しています。従来の「人手中心の管理」から、「デジタル技術と自動化を組み合わせた管理」への移行が、市場の質的な変化を促す主要な要因です。
ロボット導入とスマートビル技術
特に商業施設では、清掃、警備、点検などの業務にロボットを導入する動きが加速しています。これにより、人手への依存を減らしながら、より多くの施設に対応できるようになっています。ファシリティマネジメント会社にとっては、単に人員を増やすのではなく、同じ人数でより多くの施設を管理できる「運営のスケーラビリティ」が競争力となっています。
また、スマートビル技術の進化も見逃せません。IoT(モノのインターネット)センサーやAI(人工知能)を活用し、建物の設備(空調、照明、セキュリティなど)を自動で最適に制御する技術が普及しています。例えば、2024年9月にはHitachiが「BuilMirai」IoTプラットフォームを開発し、建物内の複数システムを統合管理する仕組みを提供しました。これにより、運用効率と省エネ性能を高め、エネルギー効率に関する政策目標にも対応しやすくなります。
AIによる予知保全で「壊れる前に直す」
今後の重要な成長領域として、AIを利用した予知保全が挙げられます。これは、設備が故障してから修理するのではなく、IoTセンサーやAIを使って異常の兆候を事前に検出し、故障前に保守を行う方式です。2026年1月にはHitachiがスマートビルソリューションを拡張し、エレベーター、空調、電気設備などをリアルタイムで監視・分析する仕組みを強化したとされています。
予知保全のメリットは、突発故障による停止時間を減らせる点にあります。データセンターや病院、商業施設などでは、設備の停止が事業に大きな影響を与えるため、故障発生後の対応よりも事前予防の価値が高いのです。また、設備寿命の延長にもつながり、保守費用を効率化できる可能性を秘めています。
デジタルツインで「仮想空間で試す」
デジタルツインも重要な技術です。これは、実際の建物を仮想空間上に再現し、設備状態、人の動線、エネルギー消費などをシミュレーションすることで、改修や運用改善を事前に検討できる技術です。例えば、空調設定を変更する前にデジタルツイン上で温度分布や消費電力を予測できれば、利用者の快適性を損なわずに省エネ効果を確認できます。2025年8月にはKudanがPRISMデジタルツインプラットフォームを投入し、フォトリアルな3D可視化とAIを利用した資産分析を可能にしました。
社会の変化がファシリティマネジメントを再定義
スマートシティと都市再開発
市場成長を支えるもう一つの要因が、スマートシティへの投資です。東京や大阪をはじめとする都市では、老朽化したインフラの再開発や建物の高度化が進んでおり、それに伴って施設を長期的・効率的に管理するサービスへの需要も増しています。政府のSociety 5.0構想も、建物インフラとデジタル技術の統合を促しており、建物単体を管理するだけでなく、交通、エネルギー、都市サービスなどと連携したスマートインフラとしての管理が重要になるでしょう。
ESG対応の重視
企業や不動産所有者がESG(環境・社会・ガバナンス)対応を重視するようになり、省エネルギー、CO2排出削減、再生可能エネルギー利用などをファシリティマネジメント契約に組み込む動きも強まっています。これにより、ファシリティマネジメント会社の役割は「建物を壊れないように維持する」だけでなく、「建物の環境負荷を減らす」方向へ広がっています。2026年3月にはEnfinity GlobalとMitsubishi HC Capital Energyが、日本の蓄電池市場拡大に向けて提携しており、エネルギー設備の監視・最適化業務の重要性が増す可能性があります。
労働力不足への対応
日本の労働力構造の変化も市場に強く影響しています。清掃、保守、設備点検などでは人手不足が深刻化しており、企業は自動化、ロボット、遠隔監視に投資しています。SoftBank Roboticsなどが清掃ロボットを展開しており、AIナビゲーションや作業報告機能を組み込むことで、人が常時付き添わなくても一定範囲を自動清掃できるようになっています。2025年12月にはRealtime Roboticsが日本でResolverソフトウェアを導入し、ロボット作業セルの自動設計や動作計画を効率化しており、施設運営におけるロボット導入・配置設計の効率化が進むことが期待されます。
サービス提供形態の変化:統合とアウトソース
統合型ファシリティマネジメント(IFM)の拡大
市場では、清掃、警備、設備保守、エネルギー管理などを別々の会社へ発注するのではなく、複数サービスを一つの契約にまとめる統合型ファシリティマネジメント(IFM)契約が広がっています。ALSOKなどもセキュリティ、保守、エネルギーサービスを統合した契約を提供しており、顧客側は窓口を一本化でき、管理効率を高めることができます。2025年10月にはSavillsがIFMポートフォリオを拡大し、ハード・ソフト双方のサービスを統合提供したとされています。
アウトソース型の成長とハイブリッド化
運営形態別では、外部業者に委託するアウトソース型が市場の中心であり、予測期間中のCAGRは3.2%と市場平均を上回るとされています。専門知識や最新技術を自社で大規模投資せずに活用できる点が大きなメリットです。一方で、データセンターや製造工場のように重要設備を自社スタッフで管理したいという需要も存在するため、今後は重要設備は自社、清掃や一般保守は外注というハイブリッド型が広がると考えられます。2025年6月にはABeamがNEC Facilitiesの「Re-Faci DX」プラットフォーム立ち上げを支援し、ファシリティマネジメント業務の生産性を30%改善したとされており、データ駆動型の運営によって外注サービスでも透明性や効率性を高められることが示されています。
未来のファシリティマネジメント:運営プラットフォームへ
日本のファシリティマネジメント市場は、「建物を清掃し、壊れた設備を修理するサービス市場」から、「建物全体の設備・エネルギー・人・データを統合し、コスト、快適性、環境性能、稼働率を継続的に最適化する運営プラットフォーム市場」へ発展していくと考えられます。今後の競争力を左右するのは、現場要員の数だけでなく、ロボットをどこまで活用できるか、設備データから故障を予測できるか、ESG指標を可視化できるか、そして複数サービスを一つの契約・デジタル基盤で統合できるかという点になるでしょう。
詳細な市場動向や企業情報については、株式会社マーケットリサーチセンターのレポートをご参照ください。
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