日本の防衛力強化を支えるC4ISR市場、2035年には約7億ドル規模へ成長予測
現代の安全保障環境において、国の防衛を支える情報技術の重要性が増しています。その中心にあるのが「C4ISR(シーフォーアイエスアール)」と呼ばれるシステムです。これは、Commands(指揮)、Control(統制)、Communications(通信)、Computers(コンピュータ)、Intelligence(情報)、Surveillance(監視)、Reconnaissance(偵察)の頭文字をとったもので、これらの機能を統合し、刻々と変化する状況を正確に把握し、迅速な意思決定を支援する基盤となるものです。
株式会社マーケットリサーチセンターは、このC4ISRの日本市場に関する詳細な分析レポートを発表しました。このレポートによると、日本のC4ISR市場は2025年時点で4億6,230万米ドル(約680億円)規模に達しており、2026年から2035年にかけて年平均成長率(CAGR)4.2%で拡大し、2035年には6億9,759万米ドル(約1,030億円)に達すると予測されています。

市場成長の背景にある日本の防衛力整備計画
この市場成長の最大の要因は、日本政府による防衛予算の増加と防衛力整備計画です。2023年度から2027年度にかけて約43兆円が防衛力整備に割り当てられ、2027年度までには防衛費をGDP(国内総生産)比2%程度へ引き上げる方針が示されています。特に2026年度の防衛予算は約9.04兆円とされ、防空・ミサイル防衛、衛星通信、スタンドオフ監視(遠隔からの監視)といった分野に重点的に配分される見通しです。
C4ISRは、陸・海・空・宇宙・サイバーといった多様な領域から得られる情報を統合し、指揮官にリアルタイムに近い形で提供することを目的としています。そのため、個別のレーダーや通信装置だけでなく、これらを連携させるネットワーク化されたシステム全体への投資が加速しています。
注目される成長分野:ISRと宇宙
レポートでは、C4ISR市場をタイプ別、プラットフォーム別、コンポーネント別、地域別に分析しています。
タイプ別:ISRが最も速い成長
C4ISRは大きく「C4システム」「ISR」「電子戦」に分類されます。現在、部隊間の連携や情報共有の基盤となる「C4システム」が最大のシェアを占めていますが、最も成長が速いのは「ISR(情報・監視・偵察)」で、2026年から2035年のCAGRは5.4%と予測されています。
ISRには、電波を使って対象物を探知する「レーダー」、可視光や赤外線で情報を得る「EO/IR(電気光学/赤外線)システム」、電波や通信の信号を傍受・分析する「SIGINT(信号情報)システム」などが含まれます。特に日本では、南西諸島や東シナ海周辺の継続的な監視能力を高めるため、無人機や衛星、信号情報収集システムへの需要が拡大しています。
また、電波などの電磁波を利用して相手の電子機器を妨害したり、自国の電子機器を守ったりする「電子戦」も重要性を増しています。2026年7月には日本のEC-2(電子戦機)が軍用飛行試験段階に入った事例が挙げられており、空中電子戦能力の強化が進んでいることが示されています。
プラットフォーム別:宇宙が圧倒的な成長率
プラットフォーム別では、航空、陸上、海上、宇宙に分類されます。このうち、F-35戦闘機の配備拡大などにより「航空」が最大のシェアを占めていますが、最も成長が速いのは「宇宙」で、CAGRは8.9%と予測されています。
防衛宇宙関連予算は、2022年度の約790億円から2025年度には約5,400億円まで増加したとされており、宇宙領域の状況把握、軍事通信、ミサイル警戒、情報収集能力の強化が進んでいます。
具体的な動きとしては、2026年2月に三菱電機が防衛省から「Kirameki-2」後継の次世代防衛通信衛星を受注したとされています。これは、安全な軍事通信を強化し、宇宙を利用した指揮・統制能力を高める重要なプロジェクトです。また、2026年6月には三菱電機が次世代軍事通信衛星向けにMDA Spaceを選定したとされており、日本企業が主体となりつつ、海外企業の技術や部品を組み合わせる国際共同開発が進んでいることがうかがえます。
さらに、天候や昼夜の影響を受けにくい「SAR(合成開口レーダー)衛星」による宇宙監視も重要です。2025年12月にはSynspectiveがSAR衛星画像を提供した事例が挙げられており、継続的な情報収集能力の向上が進んでいます。
海上プラットフォームでも、高性能レーダーとミサイル防衛システムを備えた「Aegis System Equipped Vessel(イージスシステム搭載艦)」や新型フリゲート、監視艦などの整備を通じてC4ISR需要が拡大しています。2025年2月には第4隻目のHibiki級監視艦が進水したとされ、海洋・水中監視能力の強化が進んでいます。
コンポーネント別:ソフトウェアが市場価値を左右する
コンポーネント別では、レーダーや衛星ペイロードといった「ハードウェア」が現在最大のシェアを占めていますが、最も成長が速いのは「ソフトウェア」です。
複数のセンサーから入ってくる情報を統合し、AI(人工知能)などを使って状況認識や意思決定を支援する必要性が高まっているため、ソフトウェアの重要性が増しています。富士通は防衛装備庁(ATLA)の委託研究で、複数のAIエージェント(特定の目標を達成するために自律的に行動する人工知能プログラム)を使った意思決定支援ソフトウェアの開発を進めているとされています。
これは、C4ISRの価値が、単に高性能なレーダーや衛星を「持つ」ことから、それらのデータをリアルタイムに融合し、部隊間で共有し、迅速な判断につなげることへと移行していることを示しています。システム設計情報が公開されており、異なるメーカーの部品やソフトウェアを組み合わせて利用できる「オープンアーキテクチャ」や、ソフトウェアによって機能や性能を柔軟に変更できる「ソフトウェア定義型システム」の採用は、この流れを後押しするでしょう。
サイバー防衛と国際協力の強化
C4ISRは、ネットワークに依存する軍事作戦において、通信網、指揮システム、データ基盤へのサイバー攻撃リスクが高まるため、「サイバー防衛」も重要な一部となっています。安全な通信と継続的な監視が不可欠です。
2026年6月にはNECとBAE Systemsが、日本政府向けのアクティブサイバー防衛技術(サイバー攻撃を検知・防御するだけでなく、攻撃元を特定し、反撃する能力を持つ技術)で協力する覚書を締結したとされています。また、2026年5月には日本とオーストラリアがサイバー作戦とC4相互運用性の強化を進めたとされており、C4ISRが日本国内だけでなく、同盟国・友好国との情報や通信方式の相互接続が重要になっていることを示しています。
国内生産強化と国際サプライチェーン
日本政府は、レーダー、通信機器、センサー、電子部品などの国内生産を増やし、海外依存を抑える方向を進めています。一方で、すべてを国産化するのではなく、技術移転や共同開発を通じて国際企業との連携を深める構造になっています。
具体例として、2026年には三菱電機とLockheed Martinによる防衛衛星通信分野での協力や、富士通によるLockheed Martin向けSPY-7レーダー部品供給などが挙げられています。これらの関係は、日本企業が海外の主要防衛システムへ部品・技術を供給する形で国際サプライチェーンに組み込まれていることを示しています。
地域別市場動向:九州・沖縄が最速成長
地域別では、防衛省や主要企業が集中する関東が最大の市場です。近畿は造船や電子機器製造基盤が市場を支え、関東に次ぐ重要地域とされています。
最も成長が速い地域は九州・沖縄で、CAGR5.8%と予測されています。これは、日本が南西諸島の防衛体制を強化し、レーダー、ミサイル、監視設備などを追加していることが背景にあります。防衛インフラ更新のペースや主要基地・産業拠点の位置によって、地域ごとに成長率に差が生じています。
競争環境と主要プレイヤー
日本のC4ISR市場は、三菱電機、NEC、富士通、日立製作所といった国内大手電子・IT企業が中心となっています。これらの企業は長年にわたり自衛隊向けシステムを供給してきた実績を持ち、政府との関係、システム統合能力、垂直統合型の技術基盤を強みとしています。
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三菱電機:レーダー、ミサイル、指揮統制、衛星通信まで幅広い防衛電子分野を持ち、センサー部品からシステム全体まで統合できる強みがあります。近年はLockheed MartinやNorthrop Grummanなど海外企業との連携も進めています。
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NEC:航空宇宙・国家安全保障事業を成長領域と位置付け、長距離防空レーダーやサイバー防衛へ展開しています。BAE Systemsとの協力は、従来のレーダー・通信からサイバーまで事業領域を広げる動きといえるでしょう。
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富士通:IT・システムインテグレーションの強みを防衛へ応用し、AI意思決定支援やSPY-7レーダー部品供給などに関与しています。今後、ソフトウェアの比率が高まるほど、こうしたデジタル技術企業の役割は大きくなる可能性があります。
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日立製作所:社会インフラ、サイバーセキュリティ、監視システムなどの技術を防衛周辺領域に応用しており、重要インフラ保護や指揮・統制支援で関与する立場にあります。
このほかにも、川崎重工業、Lockheed Martin、Northrop Grumman、Thales、L3Harrisなども主要プレイヤーとして挙げられています。海外企業は日本市場で単独受注するだけでなく、国内企業との共同開発、技術移転、部品供給契約を通じて参入する形が重要になっています。
2035年に向けたC4ISR市場の未来
日本のC4ISR市場は、2035年に向けて「統合C4ネットワーク」「ISR」「宇宙監視」「軍事衛星通信」「電子戦」「サイバー防衛」「AI意思決定支援」「国内生産強化」「同盟国との相互運用性」が主要なテーマとなると考えられます。市場の成長率自体は急激ではないものの、宇宙、ISR、ソフトウェア、サイバーといった一部の領域では市場平均を大きく上回る成長が予測されています。
将来的には、個別のレーダーや通信装置を整備する市場から、陸・海・空・宇宙・サイバーの多領域から得られる情報を統合し、リアルタイムでの意思決定につなげる「多領域デジタル防衛基盤市場」へと移行していくことでしょう。これは、日本の安全保障を支える技術が、より高度で、より複雑に連携する未来を示唆しています。
本レポートに関する詳細情報については、株式会社マーケットリサーチセンターのウェブサイトをご確認ください。
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