形成中の系外惑星「PDS70c」に衛星の材料となる“ダストリング”が存在する可能性、鹿児島大学が新たな宇宙の謎に迫る

宇宙の赤ちゃん惑星「PDS70c」の周りに、月の材料が隠されていた!?

広大な宇宙には、太陽系の惑星たちと同じように、ガスや塵(ちり)から生まれたばかりの「赤ちゃん惑星」が存在します。その中でも特に注目されているのが、形成中の系外惑星(太陽以外の恒星の周りを回る惑星)「PDS70c」です。

鹿児島大学大学院理工学研究科 天の川銀河研究センターの芝池諭人特任助教らの研究グループは、このPDS70cの周囲に、衛星の材料となる「ダストリング(塵の輪)」が存在する可能性を、理論モデルを使った研究で明らかにしました。

これまでの常識を覆す観測結果

PDS70cは、いまガスを集めて成長している最中の「ガス惑星」と考えられています。その周りには、ガスと塵でできた小さな円盤「周惑星円盤」が存在し、ここからガスを取り込んでいると考えられています。この周惑星円盤内の塵は、電波で観測できる「熱放射」という光を出します。アルマ望遠鏡(南米チリにある、電波で宇宙を観測する巨大な望遠鏡)による観測では、PDS70cの周惑星円盤が「光学的に厚い(円盤の向こう側が見えないほど塵がたくさんある状態)」ことが示唆されました。

しかし、従来の理論モデルでは、周惑星円盤内の塵は惑星に引き寄せられて落ちてしまう(ドリフトと呼びます)ため、円盤は「光学的に薄い」はずだと予測されていました。この観測結果と従来の予測の間に大きな矛盾が生じていたのです。

ALMAバンドにおける波長に対するフラックス密度を示したグラフ
図1. 理論モデルによるPDS70cのアルマ望遠鏡多波長観測の再現。橙と青の曲線は、従来のドリフトモデルと新しいリングモデルによる放射の予測を示しており、リングモデルが観測結果(紫の四角)をよりよく再現できることがわかります。

鹿児島大学が提案する「ダストリング」の可能性

研究グループは、この謎を解決するために、「周惑星円盤内に光学的に厚いダストリングが存在する」という新しい理論モデルを提案しました。このモデルを適用すると、アルマ望遠鏡の多波長観測結果をうまく説明できることが判明したのです。ダストリングは、円盤全体に塵が均一に分布するのではなく、特定の領域に輪のように集中している状態を指します。

これは、従来のドリフトモデルが、周惑星円盤が光学的に厚くなるためには極端な量の塵の供給が必要であると予測していたのに対し、ダストリングモデルでは、より実現可能な条件で観測結果を再現できることを示しています。

ALMA望遠鏡による原始惑星系円盤の観測画像とngVLA望遠鏡によるモデル予測
図2. 左はアルマ望遠鏡によるPDS70系のダスト熱放射観測画像。右はダストリングモデルが予測するPDS70cの周惑星円盤のダスト熱放射強度マップで、将来のngVLA望遠鏡での観測予想図が組み込まれています。

衛星形成の謎にも迫る

実は、このダストリングは「衛星形成論」の文脈でこれまでも検討されてきたものです。木星や土星の巨大衛星も、惑星と同じように周惑星円盤内で塵が集まってできたと考えられていますが、ここでも塵が惑星に落ちてしまうという問題が課題でした。惑星から外に向かうガス流や、周惑星円盤にできる溝が塵の落下を妨げ、ダストリングが形成されるという予測がされていました。

今回PDS70cの観測から示唆されたダストリングの存在は、これまでのガス集積過程の数値シミュレーション結果を支持するものです。さらに、観測を再現するようなダストリングは、その後の衛星形成につながるほど十分に塵を集めている可能性も示されました。

DriftモデルとRingモデルの比較散布図
図3. ドリフトモデルとリングモデルでPDS70cの観測を再現できる条件を比較したグラフ。リングモデル(右)の方が、多くのパラメーターで観測値(黒十字)を再現できることがわかります。

この研究は、惑星のガス集積過程という宇宙の壮大な営みに新たな制約を加えるだけでなく、地球の月のような衛星がどのように生まれるのかという、長年の謎を解き明かす重要な手がかりとなるでしょう。研究は現在進行形であり、将来、次世代の大型電波望遠鏡「ngVLA望遠鏡(2040年代からの本格運用を予定している次世代の大型電波望遠鏡計画)」が稼働すれば、このダストリングをより鮮明に観測し、その存在を直接確認できるかもしれません。

本研究をまとめた論文は、学術誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載され、アメリカ天文学会(AAS)からハイライト論文に選出されました。

掲載誌情報

用語解説

  • 原始惑星系円盤: 恒星が形成される際にその周囲にできるガスと塵の円盤で、惑星の材料となります。

  • 熱放射: 物体が持つ熱エネルギーが電磁波として放出される現象。温度によって強いエネルギーの出る波長が異なります。

  • アルマ望遠鏡: チリのアタカマ砂漠にある、ミリ波・サブミリ波を観測する国際共同の電波望遠鏡です。

  • フラックス密度: 単位時間に単位面積を通過する電磁波の、単位振動数あたりのエネルギー量です。

  • ビームサイズ: 望遠鏡が光を取り込むことができる指向性の広がり(角度)で、望遠鏡の空間解像度の目安となります。

  • ngVLA望遠鏡: 北米全域に多数のアンテナを分散させて設置し、巨大な電波望遠鏡を実現しようという次世代の計画です。