ARグラスの進化を加速:NTT-ATとEVG、新素材と精密加工技術で量産化に道

ARグラスの未来を拓く新技術:高屈折率樹脂とナノインプリントで量産化の道を開く

近年、私たちが身につけるメガネのように自然に使えるAR(拡張現実)グラスの開発が急速に進んでいます。しかし、ARグラスをより軽く、より高画質にするためには、光を精密に制御する非常に小さな部品を効率よく作る技術が不可欠です。

NTTアドバンステクノロジ株式会社(以下、NTT-AT)と、ナノインプリントリソグラフィ(NIL)装置の世界的なメーカーであるEV Group(以下、EVG)は、この課題を解決するため、共同で新しい製造技術の可能性を実証しました。

NTT-ATが開発した「UV硬化型高屈折率樹脂」と、EVGの「SmartNIL®」プロセスを組み合わせることで、AR光学デバイスの心臓部となる「光導波路(こうどうはろ)」を量産できる見通しが立ったのです。この成果は、ARグラスの普及を大きく後押しする可能性があります。

NTT AT EVGロゴ

ARグラス進化の鍵:高屈折率樹脂とナノインプリント技術

ARグラスの小型化と高性能化には、光を内部に閉じ込めて伝送する微細な経路である「光導波路」が重要な役割を果たします。この光導波路を効率的に、かつ精密に製造するためには、以下の2つの技術が鍵となります。

  1. 高屈折率樹脂:光を強く曲げる性質を持つ特殊なプラスチックです。この樹脂を使うことで、ARグラスのレンズを薄くしながらも、広い視野や鮮明な映像を提供できるようになります。
  2. ナノインプリントリソグラフィ(NIL):非常に微細な型(モールド)を材料に押し付けて、ナノメートル(10億分の1メートル)レベルの精密なパターンを転写する技術です。半導体や光学部品の製造に用いられ、従来の製造方法よりも低コストで高精度な部品を量産できる可能性があります。

今回の共同評価では、NTT-ATが開発した高屈折率樹脂「NH700シリーズ」の「NH762」と、EVGの「SmartNIL」プロセスおよび「EVG® NIL UV/AS5」との組み合わせが検証されました。この組み合わせが、AR光学デバイスの製造において高い性能と量産性を持つことが示されています。

量産化への道を拓く共同評価の成果

共同評価の結果、この新技術がAR光学デバイスの量産に求められる以下の重要な要素を満たしていることが確認されました。

  • 高いパターン忠実性:設計通りの微細な形を正確に再現できる能力です。350nm(ナノメートル)という非常に細い線と空間の構造や、45°傾斜型回折格子、さらには最小65nmのメタ光学素子(ナノメートルサイズの微細構造で光を制御する新しい光学素子)についても、欠陥や変形のない良好な転写性が確認されました。

  • 連続転写性:何度も繰り返し、安定して高品質な部品を製造できる能力です。「EVG NIL UV/AS5」を用いた25回の連続転写試験では、転写パターンの高さ変化が約2.2%に抑えられ、量産に必要な寸法安定性と型からの剥がしやすさ(離型性)が実証されました。

  • 耐環境性:高温多湿な環境や強い光にさらされても、性能が劣化しにくい強さです。高温高湿試験および光照射試験後も、転写されたパターンの構造変化は極めて小さく、AR光学デバイスに求められる高い信頼性が確認されました。

これらの結果から、NTT-ATの「NH762」樹脂は、高屈折率、高透明性、耐環境性を兼ね備えたAR向け光導波路材料として、高い実用性を持つことが証明されたと言えるでしょう。

SEM画像

転写回数に対する転写パターンの高さ変化を示すグラフ

開発期間短縮と未来のデバイスへの期待

AR光学デバイスの開発では、新しい材料の評価、信頼性の試験、そして量産への適合性の検証に長い時間がかかることが課題でした。今回の共同実証の成果により、ナノインプリント用の材料と量産プロセスが事前に検証された状態で提供されることになります。

これにより、AR光学デバイスを開発するメーカーは、材料選びや初期のプロセス開発にかかる期間を大幅に短縮し、よりスムーズに量産体制へ移行できるようになるでしょう。これは、ARグラスなどの次世代デバイスが私たちの手元に届くまでの時間を早めることにつながります。

NTT-ATとEVGは、今回評価した「NH762」だけでなく、「NH700シリーズ」の他の樹脂についても、同様のナノインプリント装置を使った評価を進める予定です。AR光学デバイスだけでなく、次世代メタ光学素子、LiDAR(ライダー:レーザー光を使って対象物までの距離や形状を正確に測定する技術)、センシングデバイス(光、熱、音などの情報を電気信号に変換して検知する装置)など、幅広い分野への応用も視野に入れて開発が進められています。きっと、私たちの生活を豊かにする新しいデバイスの登場が加速するでしょう。

関連情報と展示会

今回の評価結果をまとめたホワイトペーパーが公開されています。詳細はこちらから確認できます。

また、本成果は「第27回中国国際オプトエレクトロニクス博覧会(CIOE 2026)」にて展示される予定です。展示会の詳細は以下のリンクから確認できます。

NTTアドバンステクノロジ株式会社の詳しい情報は以下をご参照ください。

EV Group (EVG)に関する詳しい情報は以下をご参照ください。