衛星データ解析の壁をなくすオープンソースツール「satellite-landuse-toolkit」公開、研究・教育・企業での活用に期待

衛星データ解析の民主化へ:スペースシードホールディングスが新ツールをオープンソース公開

宇宙系ディープテックベンチャービルダーであるスペースシードホールディングス株式会社(以下、SS-HD)は、公開衛星データから地域の土地利用状況を誰もが再現可能な形で集計・解析できるオープンソースツール「satellite-landuse-toolkit」(サテライト・ランドユース・ツールキット)を2026年9月13日に公開しました。このツールは、研究や教育、さらには企業活動での活用を目指し、衛星データ活用のハードルを大きく下げる可能性を秘めています。

オープンソース公開

誰もが衛星データを使える時代へ

近年、高解像度の土地被覆図や樹冠消失データ、地表水の変遷、光学衛星画像など、様々な衛星データが無料で公開されています。しかし、これらのデータを実際に活用するには、クラウド解析基盤の利用経験やAPIキー(外部サービスを利用する際に必要な認証用の鍵)、GIS(地理情報システム:地図情報と様々なデータを統合して表示・分析するシステム)の専門知識が求められ、多くの人にとって敷居が高いのが現状でした。また、同じ解析結果を第三者が再現することも容易ではなく、データの「読み過ぎ」、つまり誤った解釈を防ぐ仕組みも不足していました。

「satellite-landuse-toolkit」は、こうした課題を解決するために開発されました。このツールを使えば、手元のパソコンで、対象範囲(GeoJSON:地理空間情報を表現するためのJSON形式のデータフォーマット、または経緯度の矩形)を指定するだけで、必要な公開タイルデータを自動でダウンロードし、土地被覆、樹冠消失、地表水変化などを5つのシンプルなコマンドで集計できます。Google Earth Engineなどのクラウド基盤やAPIキーは不要で、誰もが同じ手順で同じ数字を得られる「再現性」の高さが大きな特長です。

「何がすごいのか」:手軽さと信頼性を両立

「satellite-landuse-toolkit」の最大の魅力は、その手軽さと解析結果の信頼性を両立している点にあります。

1. 専門知識不要で手軽に解析

GISの専門知識がなくても、簡単なコマンド操作で以下の5種類のデータ集計が可能です。

コマンド データ 出力
fetch 対象範囲にかかる公開タイルの解決とダウンロード、Sentinel-2 のシーン検索
landcover ESA WorldCover 10 m(2021) 土地被覆のクラス別面積
forest Hansen Global Forest Change 30 m(2001–2025) 樹冠消失の年次面積、タイル被覆率、閾値感度、約1 km のホットスポット
water JRC Global Surface Water 30 m(1984–2024) 水域の遷移クラス別面積、指定した湖の連結水域
change Sentinel-2 L2A 10 m 2時期の裸地変化(同一グリッド・共通有効画素)、実行マニフェスト

satellite-landuse-toolkit - 5つのコマンドで、対象範囲の土地利用を集計する無料・アカウント不要の公開データを自動で取得し、すべて手元のパソコンで処理します

2. 「読み過ぎ」を防ぐための工夫

解析結果の信頼性を高めるため、ツールには以下の設計上の特長が組み込まれています。

  • 確認できないときは止まる: Sentinel-2(欧州宇宙機関の地球観測衛星)の反射率補正の状態が確定できない場合など、不確実な場合は処理を停止し、利用者に確認を促します。

  • 同じ画素だけを比べる: 異なる2時期の衛星画像を比較する際、両方のシーンで雲や水などの影響がない「共通有効画素」のみを集計することで、正確な変化を捉えます。

  • 足りない部分を隠さない: 対象範囲にかかる全タイルを合算し、タイルや衛星画像が対象範囲をどれだけ覆ったかを報告することで、データの網羅性を明示します。

  • 記録が残る: 入力ファイル、データの版、判定の根拠、閾値などを「実行マニフェスト」として記録するため、第三者でも同じ結果を再現できます。

  • 言葉のルールを添える: 「地図上の面積と統計的な面積推定を区別する」など、データ解釈上の注意点をまとめたチェックリストが同梱されており、誤った解釈を防ぎます。

2時期の衛星画像は、同じグリッド・同じ画素だけで比べる

「将来どう役立つのか」:教育から地域事業まで広がる可能性

このツールは、研究者向けの厳密さを保ちながら、教育現場での活用も強く意識して設計されています。費用もアカウント登録も不要で、一般的なパソコンで動作するため、中高生が「自分の町」の土地利用を衛星データで調べ、データリテラシー(データを適切に収集・分析・解釈し、活用する能力)を学ぶ教材として活用されることが期待されます。

例えば、北海道釧路湿原周辺を例にした分析では、土地被覆のクラス別面積や、20年以上にわたる樹冠消失の経年変化を視覚的に把握できます。

対象範囲を渡すだけで、土地被覆をクラス別に集計する

20年以上の樹冠消失を、年ごとに・場所ごとに集計する

SS-HDは、スペースノーム研究所と連携し、中高生が地域を選び、衛星データで土地利用の現状と変化を調べ、統計や現地の情報と突き合わせて考察する探究型のプログラムを検討しています。これは、宇宙から地球を見る教育の題材として、またAIが研究ツールを作り人が検証する過程そのものを学ぶ教材としても、非常に価値のある取り組みとなるでしょう。

さらに、農林水産資源の高付加価値化、土地利用の変化の追跡、環境配慮の説明責任など、企業や自治体が地域のデータを必要とする場面で、同じ手順と数字で議論できる共通基盤として提供することも検討されています。

SS-HDの代表取締役CEOであり、株式会社スペースノーム研究所 SPACE LAB. 所長も務める鈴木健吾氏は、「衛星データは、もう誰でも手に入る時代です。難しいのは、正しく分析して解釈することでした。自分の町を衛星から眺め解析し、どこまで言えてどこから言えないかを考える。それは中高生にも、企業の現場にも必要な経験です。宇宙教育に長く取り組んできたスペースノーム研究所において、その可能性を追求していきたいと考えています」とコメントしています。

スペースシードホールディングス株式会社 代表取締役CEO/株式会社スペースノーム研究所 SPACE LAB. 所長 鈴木健吾コメント

AIが研究を自律化する未来の一歩

このツールの開発プロセス自体も非常にユニークです。AIエージェントが仕様に沿って実装とテストを行い、さらに別の系統のAIエージェントが独立にレビューするという往復を6回繰り返して公開に至りました。このプロセスは、SS-HDとスペースノーム研究所が研究のオートメーション化を目指して開発を進めている「SpaceAgent」(大規模言語モデルなどのAIが、観察・判断・操作をつなぎ、科学実験やデータ解析を自律的に進める研究基盤の総称)で実現を目指す「AIが研究の手を動かし、別のAIが検証し、人が判断する」という自律研究基盤の考え方を、衛星データ解析という地上での題材で実践したものです。これは、未来の研究のあり方を垣間見せてくれる、知的なワクワク感に満ちた取り組みと言えるでしょう。

SS-HDは、本ツールを起点に、国内外の地域事業での活用、教育プログラムへの展開、企業・自治体との研究開発、研究機関との共著、そしてAIを用いた研究のオートメーション(SpaceAgentの検証手順として)への活用を進める予定です。

公開情報

  • 名称: satellite-landuse-toolkit(Python パッケージ名 slandu)

  • : v1.0.0(2026年9月13日)

  • リポジトリ: https://github.com/ss-hd-jp/satellite-landuse-toolkit

  • DOI:

  • ライセンス: MIT(コード)。ダウンロードされる各データは提供元のライセンスに従います。

  • 動作環境: Python 3.10 以上、rasterio・numpy・scipy・Pillow、外部コマンド curl

  • 同梱文書: データカタログ(出典・ライセンス・引用表記・落とし穴)、納品前チェックリスト、実行記録(いずれも英語・日本語)

SS-HDに関する詳細は、公式ウェブサイトをご覧ください。